一ノ環・婚礼を控えて5
「ん、う……あッ」
漏れる吐息は濡れて、声に甘さが混じりだす。
奥まで満たされると背後からやんわりと抱き締められました。
振り返ると口付けられて、彼がゆっくりと腰を動かします。
「ん、ん……、あ……」
最初は緩やかだった動きが徐々に激しいものになっていく。
なかに感じる彼のものも大きく硬くなって、内壁を擦られる度にお尻の奥が熱くなる。
「ハウ……ス……トっ、っ、あッ」
「ここが好きだったな」
「ああッ」
背が仰け反って、一際高い声があがりました。
肉棒の先端が私の弱いところを擦ったのです。
「あ、まって、くだ…さいっ。あ、あっ、うぅっ」
弱いところを擦られるたびに声があがる。
それは神経を直接嬲られるような強制的な快感。
「ブレイラっ」低音で名を囁かれたかと思うと、ハウストの動きも次第に激しさを増していきました。
「はっ、ああっ、んッ、……ああッ」
私はとうとう限界に達して白濁を散らす。
するとお腹の中にきゅうっと力が入り、彼のものを締めつけました。
「っ、いい具合だ。ブレイラ」
「あ、ああっ、うごか、ないでっ、……くだ、さいっ。ん、あッ!」
休む間も与えられずにハウストの動きが早まりました。彼も限界が近いのです。
ぎゅっとシーツを握り締めると、背後で動くハウストの手が重ねられる。
その手が痛いほど握り締められた瞬間、奥に熱いものが迸りました。
「く、うぅっ……」
お腹の中に熱い液体が広がり、その感覚に体がびくびく震えます。
「大丈夫か?」背後からハウストに抱き締められ、頬や額にたくさん口付けられました。
私が落ち着くのを待って彼のものが引き抜かれます。
抜かれていく感覚に声を漏らしながらも乱れた呼吸を整えました。
「……結局してしまうことになるなんて。明日は視察なのに」
「お前も嫌ではなかっただろう」
「そうですが……」
そういう問題でしょうか。
表情を顰めた私をハウストは軽く笑い、横になったままやんわりと抱き締めてくれました。
情事を終えたばかりの互いの体はしっとりと汗ばんでいます。それなのに裸体のまま抱き合って肌と肌を密着させている。それを互いに気持ちいいと思っているのがおかしくて、愛おしいです。
「ハウスト」
抱き締められたまま見上げると目が合い、額に口付けられました。
それが心地良くてハウストの頬に口付けのお返しをすると、彼が嬉しそうに破顔します。
私も思わず笑みを浮かべると、彼の逞しい胸板に頬を乗せました。
ゆったりした時間が流れる中、明日からのことを考えます。
「明日から視察ですね。少し緊張します。城から遠く離れた都へ行くのは初めてなので」
「そうだったか。西都は山に囲まれた良い都だぞ」
「はい、フェリクトール様からお預かりした地図で確認しました。西都の近くの山には大瀑布があるとか。有名なんですよね」
「ああ、西都についたら案内しよう」
「いいんですか?!」
ぱっと表情を明るくすると、ハウストが優しく目を細めて笑ってくれます。
「とても美しい瀑布だ。お前にも見せてやりたい」
「ありがとうございます! でも本当にいいんですか? 視察があるのに……」
「ずっと政務で忙殺されるわけじゃないからな。お前と出掛ける時間くらいある」
「嬉しいです! ふふ、観光みたいですね。楽しみです」
初めての視察旅行で緊張していましたが、ハウストとの思わぬ約束に嬉しくなります。
イスラも初めての大瀑布を見たらきっと驚いて、そしておおはしゃぎするかもしれません。
イスラの喜ぶ姿を想像すると私の頬も緩みます。
でも……。
「……イスラは、いったいどうしてしまったんでしょうか」
「また何かあったのか?」
「はい、実は、……今夜は一人で眠ると言われてしまったんです……」
深刻な顔で告げた私にハウストも「それは本当かっ」と驚愕を隠し切れません。
他の子どものことはよく分かりませんが、これがイスラにとって有り得ないことだとハウストも分かっているのです。
ここ最近ずっとイスラの様子がおかしいことは分かっていました。昼間も話しの途中で私から逃げだしたり、夜もよそよそしい態度を取られてしまいましたから。
しかし今夜はそれだけではありません。ハウストの寝所に来る前にイスラに声をかけた時、「きょうは、ひとりでねる。だから、ブレイラもひとりでねろ」と言われてしまったのです。
衝撃でした。なにがなんだか分かりませんでした。
だって、今までイスラが一人で眠ろうとすることなんてなかったのです。必ず「おやすみ」の口付けを額にして、私と同じベッドでないと眠らなかったというのに。
「驚いた。まさかイスラが」
「ですよね。私も驚きました」
イスラは勇者ですが、まだまだ甘えたい盛りの子どもです。
イスラが何か深く悩んでいて、それが私に関することだと分かっているのに、親として何も出来ない自分が情けない。しかも私は原因にさえ辿り着けていないのです。
視線を落として黙りこんでいると、私を抱き締めていたハウストが提案してくれます。
「今からイスラのところへ行ってみるか?」
「えっ」
「気になるんだろう。俺も気にならないわけではないからな」
「ハウストっ」
親として、というハウストの思いが籠められた言葉に胸が一杯になりました。私と結婚するということはハウストもイスラの親になるということですから。
「ありがとうございますっ。お願いします!」
そうと決まれば善は急げです。
もしかしたらイスラは寂しくてベッドで一人泣いているかもしれません。
私たちは二人きりの時間を切り上げ、イスラの寝所へ行くことにしたのでした。
急いで湯浴みを済ませたハウストと私は、二人でイスラの寝所に向かっていました。
寝所に近づくにつれて私の緊張が高まっていく。
時々足が竦みそうになって、その度に「大丈夫だ」とハウストに励まされていました。
「イスラは一人で眠っているでしょうか」
「さあ、分からない。一人で眠っていれば、それはそれで成長したとも考えられる」
「それは分かっていますが……」
いずれ子どもが一人で眠れるようになるのも分かっています。分かっていますが、イスラは今までそんな様子を見せたこともなかったのに……。
悩む私をハウストが説得します。
「とりあえず部屋を見てみよう。一人で眠っていればそのままでいいし、泣いていれば一緒に眠ってやればいい」
「そ、そうですよね。その通りです……」
ハウストの言葉は納得できるもので、自身に言い聞かせるように返事をしました。
一人で眠っていればその成長を喜べばいいのです。少しだけ寂しい気もしますが……。
こうして二人で歩いていると、まだ仕事中だったフェリクトールが前から歩いてきます。
私たちに気付いたフェリクトールがなんとも奇妙な顔になりました。
「こんな時間に二人揃ってどこへ行くのかね」
「フェリクトール様、遅くまでお疲れさまです。私たちはイスラの部屋に行こうと思いまして」
「勇者の?」
「はい。イスラが一人で寝ると言ったので様子を見に行くんです」
私が答えるとフェリクトールが訝しげに顔を顰めました。
呆れた顔で私とハウストを交互に見てきます。
「それで二人揃って様子を見に行くというのかね。君たちは暇なのか?」
「今までイスラがそんなこと言ったことがないもので、気になってしまって」
「本人が一人で寝たいと言うなら寝かせればいい。それにイスラは勇者だろう。普通の人間の子どものように目を離せないほど弱いわけではない。一人寝くらい問題ないじゃないか」
「たしかにイスラは強い勇者ですが、繊細なところもあるんです。だから心配じゃないですか」
「……繊細? 心配?」
フェリクトールは盛大な疑問を浮かべ「精霊族最強の男が、勇者に顔面スレスレで攻撃されたことがあるとぼやいていたが……」とハウストを見る。
その視線にハウストはなぜか居心地悪げに咳払いしました。
「……ブレイラは繊細だと言っている。ならばイスラは繊細なんだろう、きっと」
「…………まあいい、好きにしたまえ。君たちの問題にあまり口を挟む気はない」
フェリクトールは呆れた口調で言うと、「正式に結婚した後が思いやられる……」などと言いながら立ち去っていきました。
フェリクトールを見送り、またイスラの部屋へと足を向けます。
そしてとうとう部屋の前まできました。
扉の前でハウストと顔を見合わせ、大きく深呼吸する。
一人で眠っているかもしれません。その時は見守ればいい。
一人のベッドで泣いているかもしれません。その時は一緒に眠ってあげましょう。
「イスラ、起きていますか?」
コンコン。ノックとともに声をかけました。
しかし返事はありません。眠ってしまっているのでしょうか。
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