第10話 謝罪と叫び
次の日の放課後、屋上に行くと幸治が泉美先輩を連れてきて待っていてくれた。
幸治と入れ替わり、俺は泉美先輩の前に立って向き合った。
「先輩、すみませんで……」
「すまなかった」
俺が謝ろうとすると先輩もなぜか謝った。
「えっ? なんで先輩が謝るんですか?」
「お前の方こそ」
俺たちは顔を見合わせてから吹き出した。
「いや、俺は昨日お前に無理矢理キスなんかしちまって」
「いや、俺もあんな、ビックリして先輩を突き飛ばしてしまって」
「はは」
「あはは」
二人で笑ってから腰を下ろした。
「俺、昨日やっと人を好きになるっていう気持ちがどういうものかわかった気がして、いろいろと考えたんです」
「うん」
先輩はちゃんと俺の話を聞いてくれた。
「本当は前から先輩の気持ちに気付いていたのかもしれません。でも聞くのが怖かったっていうか、できたらこのままずっと先輩とこうやって普通に過ごしていたかったというか。とにかく、俺は先輩の気持ちを考えもしないで勝手に甘えてたんです。だから謝りたくて。すみませんでした」
俺は頭を下げた。
「あは、本当にお前ってヤツは……」
泉美先輩は優しい目で俺を見ていた。
「昨日も言ったけど俺がはっきり言わなかったから悪いんだ。俺もただお前とこうやって話していることに甘えて好きだと言う勇気がなかった。それでもいいと思ってたんだけど、翔真が一年にとられると思ったら焦ってあんなことしちまって。本当に悪かった」
先輩も俺に頭を下げた。
「そんな、謝らないで下さい。先輩は何も悪くないです」
俺は先輩の肩を掴んで頭を上げさせた。
「俺、そいつのことが好きなんです。付き合うことになりました」
「そっか」
「はい。だから……」
「わかった。もう充分お前の言いたいことはわかったから、これ以上は言わないでくれ」
「……はい」
泉美先輩は立ち上がった。
「翔真、今まで肩、ありがとな」
「いえ、そんな」
俺も慌てて立ち上がった。
「もし先輩が絡まれたりしてるのを見かけたら、必ず助けますから」
「お前なあ、またそんな嬉しいこと言って期待持たせんなよな」
「あ、そんなつもりは……。すみません」
「はは、サンキュー。じゃあ、元気でな」
「はい。先輩も」
泉美先輩は振り返ると片手を上にあげながら屋上から出て行った。
俺は先輩の後ろ姿に向かって頭を下げた。
「ふう……」
一人になると緊張がとけて疲れていた。
俺は硬いコンクリートに寝転んだ。
青い空を見ながらいろはのことを考えた。
昨日の公園での告白を思い出していた。
いろはが言った言葉が俺の頭の片隅に引っ掛かっていた。
どうしていろははあの時『オレ、男ですよ』と言ったのか。
そんなことは最初からわかってることだよな。
わざわざ確認することなのか?
男同士で付き合って何かおかしいか?
ん?
付き合う?
付き合うってことは何をするんだ?
いやいやわかりきってるじゃねえか。
付き合うってことはキスしてセックスして……。
(男同士って、どうするんだ?)
俺は起き上がってスマホで調べてみた。
男同士……セックス……。
(ん? な、なんだコレ!?)
「マ、マジかよぉぉぉぉ!!」
俺は屋上で一人、叫んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます