第7話 私に対する仕打ち

「話は良く分かったよ。それじゃそろそろ僕は帰るよ」


ジークハルトは立ち上がった。


「え?もう帰ってしまうの?」


「うん。実は13時から父と一緒に領地に視察に行かなければならない用事が入っていたんだよ」


「え?そうだったの?」


そんな忙しい時間を割いて来てくれたなんて…。


「最近フィーネと会えない日が続いていたから心配で来てみたんだ。でも良かったよ。こうしてフィーネに会えたし、あの人達からどんな仕打ちを受けているか分かったからね」


「ジークハルト様…」


「もう時間も無いから今日はこのまま帰るよ」


そして私を抱き寄せ、言った。


「愛しているよ。フィーネ。だから…もう少し辛抱してくれるね?」


「ジークハルト様…」


そして私達はガゼボの中でキスを交わした―。




****


城の外までジークハルトを見送ると、離れの塔にある自分の部屋に戻ろうと足を向けた時―。


「フィーネッ!」


背後から鋭い声を投げかけられた。振り向くとそこに立っていたのはヘルマだった。彼女は3人の忠実なメイドを引き連れている。


「何?」


「貴女…私達の事をジークハルト様に訴えたでしょう?!」


「まさか…盗み見していたの?」


なんて嫌な女なのだろう…。


「盗み見?人聞きの人聞きの悪いこと言わないでよっ!後をつけただけよっ!そうしたら2人がガゼボで話している声が聞こえたのよ。フィーネ…あんた散々好き勝手なこと言ってくれていたわね?そもそも私達は両親を亡くした可愛そうなあんたの為にこの城にやってきてあげたのよ?!それをまるで盗人呼ばわりして!なんていやな女なのっ!しかも男を誘惑して…このアバズレ女っ!」


ヘルマは自分が盗み聞きしたことを棚に上げて勝手な言い分で私を罵倒してきた。


「事実を言っただけでしょうっ?!それに私とジークハルト様は子供の頃からの婚約者で、お互いに愛し合っているのよっ!アバズレなんて言われる筋合いは…!」


そこまで言いかけた時…


パーンッ!!


乾いた音が響き渡り、気づけば私の左頬がジンジンと熱い痛みを伴っていた。そして眼前には右手を振り上げている睨みつけているヘルマの姿。自分が叩かれたことに気付くのに数秒かかった。


「な、何するの?!人の頬を叩くなんて…キャアッ!やめてっ!」


いきなりメイドが2人がかりで私の左右の腕を掴んできたのだ。そして残りの1人が私の両足をつかみ、持ち上げた。


「やめてっ!離してっ!」


私は3人のメイドに担ぎ上げられ身動きが取れなくなってしまった。


「あんた達、この女を倉庫にぶち込んでおきなさい!泣こうが喚こうが絶対に出しては駄目よっ!」


「「「はい!」」」


そ、そんな…あんな恐ろしい倉庫に閉じ込めるなんて…!


「やめてっ!降ろしてよ!」


いくら暴れて叫ぼうとも3人のメイドは私の訴えが聞こえないかのようにこの城の裏手にある倉庫へ運んでいく。この城は周囲を森に囲まれている。特にあの倉庫は鬱蒼とした木々が生い茂った森の近くで昼間でもあまり日が差さない陰気な場所である。夜にもなると不気味な雰囲気が漂う場所に佇んでいる。


そんな場所に閉じ込められるなんて冗談じゃない。


「お願いだから離してよっ!」


しかし無常にも私は3人のメイドによって運ばれていく。


「やめて!この私を誰だと思っているの?!この城の正当な後継者のフィーネ・アドラーよっ!離しなさいっ!」


すると1人の鋭い目つきのメイドが言った。


「何が正当な後継者よ。両親のどちらにも似ていない婚外子のくせに」


「な、何ですって…?誰が婚外子よっ!」


すると別のメイドが口を出してくる。


「ええ、そうよ!旦那様達が言っていたわ。フィーネは両親のどちらにも似ていないって。あらかた母親が浮気をして出来た子供だろうってね」


「このアドラー家の恥ね」


「違うわっ!私はれっきとしたアドラー家の娘よっ!」


そう、確かに両親は金髪だったが、私の曽祖父は黒髪だったのだ。そして私はその血を濃く受け継いでいた。


「何がアドラー家の娘よっ!笑わせないで!」


メイド達は私を嘲る言葉を投げつけながら、どんどん倉庫へと近付いていく。


やがて、ついに陰気な倉庫が見えてきた。


「や、やめてよ…お願い、何でも言うこと聞くから…あんな場所に入れないでっ!」


しかし、私の訴えは一喝された。


「煩い女ねっ!あんた達、不気味な場所だからさっさと閉じ込めたらここを離れるわよっ!」


「「ええ!」」


「いやあっ!離してっ!」


1人のメイドが乱暴に倉庫を足で開けると3人は私を床の上に放り投げた。


ドサッ!!


「うぅ…」


床に叩きつけられ、激痛で私は意識を失ってしまった―。

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