第3話 親切なフットマンとの出会い

「お嬢様…大丈夫ですか…?」


その時、1人の若者の声が聞こえて顔を上げた。見るとそこには私と左程年齢が変わらないフットマンが立っている。シルバーの髪の毛が特徴的な若者だった。その顔はフットマンにしておくには勿体ない程の美しい顔だちをしている。


彼はいきなり私の前にひざまずいてきた。


「お怪我…されたのですか?」


「え、ええ。貴方は…?」


今まで一度も見たことのないフットマンだった。


「はい、最近この城にフットマンとして雇われたユリアンと申します」


「そう…ユリアンと言うの?随分みっともないところを見られてしまったわね」


ゴシゴシと涙を手の甲で拭った。


「いえ。そんな事はありません。バルバラ様とヘルマ様は余りに酷すぎます」


その言葉にドキリとした。


「ユリアン…ひょっとして…見ていたの…?」


するとユリアンは顔を赤らめながら言った。


「も、申し訳ございません。盗み見するつもりはありませんでした。フィーネ様のお部屋の前を通りかかった時に騒ぎが聞こえたものですから…」


「そう…恥ずかしい姿を見せてしまったようね」


自嘲気味にフッと笑うと、突然ユリアンが床に頭をすりつけて謝って来た。


「申し訳ございませんっ!」


「え?何を謝るの?顔を上げて頂戴」


「いいえ、上げる事が出来ません。私はフィーネ様がバルバラ様とヘルマ様に大切にしていた思い出の品を奪われるのを黙って見ている事しか出来ませんでした!お止めする事が出来ず…本当に申し訳ございませんっ!」


「いいのよ、止める事が出来ないのは当然よ。だって貴方はこの城に雇われている使用人なのだから。あの人たちを止める事が出来ないのは仕方ないことよ」


「ですが…」


ユリアンは申し訳なさげに俯く。


「その言葉だけで十分よ。それよりもあまり私に関わらない方がいいわ。私に親切にするとあの人たちに目を付けられて早々にクビにされてしまうかもしれないから」


しかし、ユリアンは首を振った。


「いいえ、そんな事は出来ません。第一フィーネ様はか弱い女性ではありませんか。それで…申し訳ございません。恥ずかしいかも知れませんが…右足を見せて頂けますか?お怪我をされたのですよね?」


「え、ええ…。それじゃ一つお願いしてもいいかしら?救急箱を医務室から持ってきてくれる?自分で手当てするから」


「いいえ、その必要はございません。フィーネ様。少しだけ…失礼致しますね」


ユリアンは私の右足にそっと触れてきた。


「え?な、何?」


すると、触れているその手から突然金色の光が放たれた。


「キャアッ!」


あまりの眩しさに目を閉じると、ユリアンが声を掛けて来た。


「フィーネ様。もう大丈夫ですよ」


「え…?」


見ると、腫れていた右足首が嘘の様に元通りになっている。


まさか、これは…。


「神聖…魔法…?」


「ええ。そうです。微力ですが…小さな怪我くらいは治せます」


ユリアンは恥ずかしそうに頬を赤く染めながら言った。


「そんな…貴方はただのフットマンでしょう?魔法を使えるのは一握りの選ばれた人達だけだと聞いているわ。しかも神聖魔法なんて…もう使える人は誰もいないと歴史の授業で習ったのに…」


「ごく稀に私の様に神聖魔法を使える人間たちがいるのですよ。でもこの事は絶対誰にも秘密ですよ。お願いします」


「ええ。分ったわ」


私は頷いた。そう、彼のこの力を知られればどんな悪事に利用されるか分った物では無い。


「ありがとう、ユリアン。貴方は私の恩人よ」


笑みを浮かべてお礼を言う。


「いえ…とんでもありません…」


ユリアンはますます顔を赤らめて目を伏せた。


これが…私とユリアンの初めての出会いだった―。

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