第3話 情報依存症

 三原は、宇宙船についての情報を調べて回った。噂から公的な発表まで、手当たり次第に読み漁った。


 まず、世界中でアップされている画像では、どの宇宙船も同じ形状をしていた。

 太陽光を浴びているせいか、やや白く光っているように見えるが、ところどこアスファルトに漏れたオイルのような模様が広がっていた。全体的には少し起伏のある流線的な円錐形で、とても優美なフォルムをしている。

 宇宙船のデザイン一つをとっても、既に人類を超越した知性が感じとれた。あまりにも見事な造形なので、宇宙船ではなく巨大な生物かと思える程だ。

 米軍からの発表によると、宇宙船の全長は凡そ十五キロメートルで、観測できる範囲には推進装置や出入口等が見当たらないとのことだった。レーダーには反応せず、熱や音も感知できない。目で観れば確かにそこにあるが、観測上はまるで存在していないかのようだ、という記事がまとめられている。


 三原は、そもそも、このような巨大な物体が地球に接近してきているのに、今まで発見することができなかったのだろうか?と雑談フォーラムに疑問を投じてみた。

 何やら詳しい人の返信曰く、宇宙船はなんの前触れもなく突然出現したらしい。

 その証拠に、たまたま月の連続写真を撮影をしていたアマチュア天体マニアが十秒毎にきったシャッターの前後写真をアップしていた。確かに、何もない空間に、突然青白い光点が現れていた。

 この青白い光点は、宇宙船が出現した際に何かしらの影響によって、オーロラのような発光現象が生じたのではないかと噂されていた。


 「つまりさ、宇宙船は次元を超えてやってきたんだよ。それで、何か巨大なエネルギー放射がおきて発光したんだ」

 「いや、あの宇宙船は光速を超えることができるんだ。チェレンコフ放射みたいなものだね」

 「光速より速いものは存在しない。常識だろ」


 等と素人意見が飛び交っていた。


 三原が再び宇宙船を眺めにベランダへ出ると、宇宙船はかすかに小さく見えるくらいのサイズになっていた。

 これも記事にあった情報の通りで、宇宙船はゆっくりと移動しているようだ。SNSの人達は、自分の家の上空にやってきた事を、嬉しそうに(中には洗濯物が乾かないという不満もあったが)写真付きで報告していたので、宇宙船の現在地がどこかはすぐに分かった。


 次第に新しい一次情報が出てこなくなって、数時間もすると、皆徐々に落ち着きを取り戻して日常に戻っていった。

 恐ろしいことに、上空に宇宙船が飛んでいるというのに、人々の関心は夕飯やテレビ番組に移っていったのだ。現代人の余暇に対する嫌悪感は病的だと、三原は常々思っていたが、ここまで悪性なものだとは思いもよらなかった。

 しかし、それは自分自身にも言えることで、三原は新しい情報を探す代わりに、ネット上で行われている皆の考察を読み漁った。

 色々な考察や意見の中で、一番多く目にしたのは、宇宙船はなぜ何もしないのか?だった。

 三原は単純に自身の見解を述べた。


 「攻撃する気であれば既にしているだろうから、友好的な訪問なのでは?」


 コメントをしてすぐに否定的な意見が何件も付けられた。皆が地球侵略を前提に語っていたので、下らない意見だと一蹴されてしまったのだ。

 そんな無意味な議論も、午前一時になって強制的に中断された。ネット接続が途切れたのだ。皆がネットにかじりついているから、トラフィックに問題がおきたのだろう。

 三原は、自分のネット環境に問題がおきたのかと考えたが、外から「ネットが繋がらない!なんとかしてくれ!」という叫び声が聞こえてきたので、これは広域な障害だと理解した。


 こうなってしまっては仕方がないので、三原は棚を漁り、古い映画のDVDを取り出した。光学メディアの再生機なんて、今時持っている人は少ないのだが、三原は映画好きが高じてコレクションしていた。

 世間の連中はネットが無ければ映画も観られないのだろうな、と僅かな優越感に浸りながら、DVDを再生した。


 当然ながらその映画は、エイリアンが地球に攻めてくる映画だった。

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