第11話 冗談のつもりでした

───


 親愛なるパルマ。

 あなたの子グラルドは王になった。

 あなたから譲り受けたユートリアスの名を冠した国だ。

 この素晴らしい国をパルマにも見せたかった。

 十人の元奴隷と九十人の傭兵がいる軍事国家。

 主要産業は石器作りでこれからの成長が楽しみだ。

 どうか、息子の活躍を見守っていてくれ。


───グラルド記より



 「グラルド様は本気ではなかったのでしょう?ユートリアス王国の建国など」


 ヘライオスは、平然とそう言った。

 わかってるいならどうして建国を煽ったのだろうか。

 このおじさんは人の良さそうな顔をして困ってる人を追い込むのが趣味なのだろうか。


 「そうだな。ちょっと言い過ぎたかなって気はしている」

 「まあ隠さなくとも。責めてるわけではありません」

 「そうか。じゃあやめていいか?」

 「いいえ、そうではなく。実はもう、我々が生き残る道は建国しかないのですよ」

 「どういうことだ?」

 「あなたはお尋ね者です。その上ゴボル傭兵団も倒してしまった。今頃逃げて行ったゴボル傭兵が、この件を憲兵に報告してるはずです。ハースタンは軍を派遣してあなたを捕まえるでしょう」

 「まさか。ちょっとした冗談だ」

 「冗談ではすみません。ハースタン公国の領地内で建国を宣言したのですから。しかも100人の傭兵団に勝る軍事力を持っている。だからゴボル傭兵団を味方につけようと進言したのです」


 ヘライオスの目は本気だった。


 「ビバルゥ!ちょっと来て!ビバル!」


 ビバルを呼ぶと面倒臭そうな顔で家の中に入ってきた。


 「なんだ?何か用か?」

 「なんだじゃない。お前のせいでハースタンが攻めてくるらしい。どうしてくれるんだ」

 「俺は悪くねえだろ。全部あんたがやったんだ」

 「奴隷商なんてやってるお前が全面的に悪い。間違いない」

 「責任を押しつけたって攻め込まれるのは回避できねえよ。まあ、心配はいらねえ。大丈夫だ。あんたなら一人でハースタン公国に勝てる。そうじゃなくちゃ、俺は逃げてるよ」

 「なんで俺だけが戦う前提なんだ?俺達の戦いだろ?俺達仲間だよね」

 「そりゃ協力はするけどな、百人ぽっちで国とやり合うのは無理だ。あんたががんばってくれ」


 ビバルはそれが当たり前かのように言う。

 ヘライオスも何も言わずに頷いている。


 皆の前でちょっとイキッてみただけなのに。

 ちょっとシエラに格好いいところ見せようと思っただけなのに。

 その代償がこれなのか。

 この世界の連中はすぐに物事を暴力で解決しようとする。

 なんと野蛮なのだ。


 恋活とか言ってる場合じゃない。

 というかむさい。

 こんな右も左も髭面の男だらけの国のために、どうやって戦えと言うのか。


 「お前達は軍議をしていろ。俺はちょっと出てくる」

 「軍議?え、軍議って何?グラルド様?」


 俺はヘライオスを無視して家から出た。

 全くヘライオスのやつは頭が痛くなるような話ばかりする。

 ああ、頭が痛い。なんだかとてつもなく頭が痛い気がしてきた。

 これは治療が必要だ。


 「エリザ。いるか?」

 「グラルドさん、どうしました?」

 「ちょっと頭の具合が悪いんだ。治癒魔法をかけてくれ」

 「治癒魔法かけても頭は良くなりませんよ……?」

 「大丈夫だ。そっちの方は元から良くない」


 エリザは頭に手をかざし、呪文を唱えた。

 だんだんと頭が暖かくなってきたかと思うと、悩みや不安は全て吹き飛び、もやもやが晴れて一瞬でシャキッとした。

 そればかりか頭の回転も早くなり、全ての出来事がスローモーションのようにゆっくりと感じる。


 「エリザ。やはりお前は凄い魔法使いだ!」

 「そ、そうですか……よかったですね……」


 エリザの目が一瞬ひきつったところまではっきりと見ることができる。

 魔法の力は本当に素晴らしい。

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