第34話
「大したものだ」
思わずそう零してしまうほどに冒険者達の戦いは素晴らしかった。
前衛の二人の連携は思わず賞賛を送りたくなったほどだ、今の俺が相手になったとしても勝てないとは言わないが苦戦は避けられないだろう。
そして止めに放たれたあの魔法、上級魔法に相当するであろうあれもまた見事だった。威力、それを行使するまでの速度、どちらも文句のつけようのないレベルだった。
決着までの流れはあの短時間で決めたのだろう、戦闘技術と戦術ともに一流だ。思っていた以上の腕前である。
ルカたちから賞賛の言葉を送られていたクルツたちがこちらへとやってきた。その顔には若干の笑みを浮かべている。
「どうよ?」
「見事」
ただ一言伝えられたその言葉に、同じく一言で返したのだった。
その後、若干の休憩の後に再度出発する、目的地までは道半ばまだまだ先は長い。さてこの先は確か…。
「んで、この先は何があるんだ?」
「え~としばらくは一本道だったはずです。そのあとに扉があって―――」
ここでクルツがこちらの考えを読んだかと言うようなタイミングで質問を投げかけてきた。それにルカが答えている。
そう、この先にはいくつかの色違いの扉がありその先には色に応じた属性の力が働くフロアがあった。その最初は水属性の力が働く部屋だったはずだ。
そしてその言葉通りに一つの扉が現れた。その扉を前にしてウェインが気配を伺いながら口を開く。
「これか…この先は極寒の部屋になっているんだな?」
「はいボクたちが前に来た時はそうだったはずです」
「……変ね。それなら魔法が働いていそうなものだけど何も感じないわ」
ルカと冒険者たちと会話を聞きながらも俺はそれに加わることはしなかった。なぜかと言えばここに来て初めて前回との違いに遭遇したからだ。
この扉は前回とは違う、エルゼも言っていたが魔力が通っていないのだ。前回遭遇したような力の働く部屋があるとすればその入口からは魔力の流れが感じられるのが常である、実際に前の時は感じられていた。
これが違和感の正体だろうかとも考えるが、魔力を全く感じられないことを考えればこの先に危険があるとは考えにくい。俺が感じていたのは危機感だったはずなのだ。
「……どうやら前回とは違っているようだ。注意して進むしかあるまい」
この扉を開けてすぐに即死するような仕掛けがあるとは思えない、今は先に進むしかないだろう。
そして慎重に開けた扉の先にあったのはただの一本道だった。予想通り前回のような空間はなかったのだがここまで普通の道が続いていたのはある意味では予想外と言っても良かった。
見た目で油断させてという可能性も否定できないと思い警戒は怠らずに進んでいくが―――。
「何も起きないね…」
「ほんと、普通の通路じゃない」
何も起きることはなかった。
ただただ長いその通路を進んで行くと再びの扉。前と同じに魔力は感じられない、念の為にと警戒して開けてみるがそこにあったのはまたもや一本道、そこでも何か起こることはなかった。
それから二つの扉を通ることになったが同じく何も起こることはなく、ここまで来ると緊張が緩みそうになってきていた。
通ってきた扉は、あの闘技場を抜けてから4つ目、前回魔力が働いていた部屋は5つ、あと一つで同数の扉を潜ることになる。前回はその先にあの神殿があったのだが……もし同じだとすればこの先の最後の扉はそうすんなりとはいかないそんな予感があった。
そして、その予感は的中する。
「これは…ちょいと嫌な予感がするんだが…」
「魔力を感じるわね…さっきと同じ…いやそれより強いかしら?」
最後に現れた扉は、前回でも見ることは無かったとても大きな扉だった。城を守る城門を思わせるその扉の向こうからはある気配がある。
それは、前回は俺が、今回は冒険者達が倒したあの騎士と同種のもの、だがあの騎士よりも強大な力を感じる――――――俺の悪い予感とはこれだったか。
そこから感じる威圧によって全員の歩みが止まる。
「ご主人? ようやく分かりましたよ、違和感の正体が」
そんな中でアリアが俺の耳元で耳打ちをしてきた。その言葉を聞き状況の確認を小声で交わし合う、皆に伝えるかは相談のあとだ。
「ようやくか。それで何が分かったんだ?」
「どうやら最終手段が発動されてしまってるようですね」
「最終手段?」
「いや~実は私も今まで知らなかったんですけど、そんな隠し機能があったみたいなんですよこの遺跡には。発動条件は、この遺跡の存続が危ぶまれる事態。具体的には契約精霊である私とのリンクが切れることと短期間に
「軽く言ってくれるが、それでどうなるんだ?」
「簡単に言えば、その相手の殲滅に遺跡の全機能が総動員されるみたいですよ☆」
――――――ガンっ
その言葉が合図だったかのように後方が石の壁によって塞がれてしまった。そしてそれと同時に扉も開き始める―――――その向こうに見え始めたのは予想通りあの騎士、いや新たなる黒い騎士だった。
扉が開いた瞬間にクルツとウェインが駆け出した。先制攻撃とばかりに先程と同じく関節部を狙う―――しかし
ガキーンッツ――――――
金属と金属がぶつかる音が響き渡る、クルツたちの振るった槍と斧は寸分違わず関節部に命中したが前回と違いダメージを与えることは出来なかったようだ。
「ちとやばいな、前の奴より硬いぞ」
「うむ、あちらには傷すら与えられなかったのにこちらの武器はこの有様だ」
一撃を与えたあとすぐに退避して戻ってきた二人が苦言を漏らす。その手に持っている武器を見れば刃こぼれをしてしまっている、それほど今回の騎士は硬いということか。
「――――――雷神の裁き《トール・ジャッチメント》!!」
続けて放たれたのはエルゼのあの魔法、前に騎士を消し飛ばした雷撃だった。扉が開き始めた瞬間には詠唱を始めていたらしい。
その一撃は見事に命中し辺りは光に包まれた――――――が、騎士は変わらずその場所に存在している。今回の新たな騎士にはあの魔法ですらダメージを与えることは出来なかったようだ。
「…魔法が効かない? 一体どうなっているのよあいつ!!」
エルゼが己の魔法が効かなかったことで悪態をつく。魔法すら効果がないとは、サーチの魔法を使って敵の情報を探る―――そこでわかったのは敵を構成してる金属が特殊であるということだった。
改めて敵を観察すると騎士は全身が同じ漆黒の金属で出来ている。魔法が効かず、鍛え上げられた剣や斧より硬いとは、さてどうしたものか。
「今回は俺たちだけでとは言えそうもないな…悪いが嬢ちゃんたちも協力してくれるか?」
「うむ、悔しいがアレを倒すには皆で掛かるしかないな」
俺が思案に耽る中で、強敵であると認識したためにか少し険しい表情になったクルツたちが後ろに控えている全員に声をかけていた。
どうやら総出で攻撃を加えるしかないと判断したらしい。
「ウェインさんたちだけに負担は掛けられないわ、私も戦う」
「ボクも何が出来るか分からないけどお手伝いするよ!!」
それにユーリが弓矢を手に応じてると、ルカも協力の意志を示した。
「もちろん私も協力しますよ。魔法も少しなら使えますので」
「貴女も魔法が使えたのね、期待してるわよ」
先程までは遺跡の把握に努めていたために動くことができなかったアリアも杖を手にそう宣言する。それに反応したのはエルゼだ。
「アリアさんは俺が守りますよ!!」
残るジョンは惚れた相手に良いところを見せたいのかアリアの一歩前にでてそう話す、足がガタガタ震えているのはご愛嬌とでも言っておくべきか。
「すこし悔しい気持ちもあるんだけど貴方も頼りにしてるわよオズ。良いわよね」
そして最後に残る俺へも確認の声がかけられた。皆が協力し合い敵を倒そうという雰囲気、悪くはない。
「断る」
だが、エルゼによってかけられたその言葉に俺は拒否をした。
「「は?」」
「そんなことをする必要はない、俺ひとりで十分だよ」
雰囲気をぶち壊した自覚はあるが、クルツたちは自分たちの力だけでは難しいから協力を頼んだのだろうが俺であれば一人で倒しきる自信があるのだ。
それにルカたちを戦闘に巻き込んだ場合そちらのフォローの方が大変じゃないか。
とういうわけで面倒になる前に動きを封じてしまおうか。
「アイス――」
「―――――っつ」
魔法で氷の壁を作り出すことで俺以外のメンバーを隔離する。向こうでギャーギャー騒いでるようだが気にしない気にしない。
さて、これで皆の安全は確保できたのでおもっきりやっても問題ない。前の騎士は現状で魔法がどれくらい使えるかの確認に役に立ってくれた。今回もその方針で行こうか。
何といってもジョンの家で見つけた魔導円盤、あれから知った魔法が結構あるのだ。あの騎士であればそう簡単に倒れないだろうから良い実験台だ。
やはり新しい魔法を使うのは心が踊る、思わず笑みが零れそうになった。さて何から行こうか。
己の作り出した氷の壁に背を向け正面を向けば敵である黒い騎士は既に立ち上がりこちらへと向かってきているところだった。感じる威圧感も前の奴らとは比べ物にならない。大きさも2回りくらいは大きくなっているだろうか。
「そいつは前のより強いのが分からないのか!! 全員で挑むべきだろが! さっさとこの壁を解け」
「そうだよオズ!! 無茶なんてしないでよ!!」
後ろの壁の向こうでルカたちが叫んでいる。心配してくれているのかもしれないが余計なお世話だとも思う。
確かにあの黒い騎士は前の奴らよりも強いかもしれないが、俺を倒せるレベルではないのだ。
それに俺が感じていた命の危険のある予感とは、俺にとってではなく周りにとってなのだ。とりあえず氷の壁で安全は確保したことだし後は自由にさせてもらおう。
重音を響かせながら近づいてくる黒騎士めがけて走り出す。
「風精よ――」
駆け出してすぐに新しい魔法によって風を纏う、この魔法はあの円盤から新しく学んだ魔法の一種だ。強化魔法は多々知っているが、どうやらこれはスピードに特化したもののようだ。徐々にスピードが上がっていく―――
こちらの接近に気がついた黒騎士が剣を振り下ろしてきた、予想より素早い動作だ。もしかすればコイツも魔法か何かで強化されているのかもしれない。といってもこちらの方が速い、小柄な動物の体を活かして縦横無尽にかく乱してやる。
そして生まれた一瞬の隙に懐へと潜り込み、右手に取り出していた短剣を振るう――
ザンッ―――――
振るった短剣はワイバーンの時にも使った黒い剣だ。
うむ、この剣であれば効くようである。
しかしあくまでも短剣、表面を傷つけたに過ぎない。これが生物であれば傷をつけ続ければ倒せるのだろうが相手はゴーレムだ。やはり傷を気にもせず俺を払い飛ばそうと手を振ってきた。
とりあえず距離を取りもう一度観察する。予測では敵の核は前回に手に入れた宝玉のようなものだろう、表からは分からないが前回などを考えれば胸元のあたりだろう。
敵は魔法が効きにくいようなのでに物理攻撃で仕留めるのが一番である、だがアレを傷つけられるのはこの短剣のみでリーチが足りない。冒険者達の武器を借りたところで攻撃力が足りない―――ならばあの新しい魔法がちょうどいいだろう。
方針を決めた俺は早速準備にかかる。先程と同じようにスピードでかく乱して一撃を与えて離脱。それを何度か繰り返す。俺が狙っていたのは右手の関節部、5度目の攻撃でようやく右腕を破壊することができた。
その地面に落ちた腕へと近づき魔法を使う、やはり魔法の効果が効きにくいようではあるが全く効かないわけではない。使用した魔法は
騎士の腕は見る見るうちに姿を変えて俺のイメージ通りに巨大なクロスボウとなった。このクロスボウであれば敵を貫くことも可能だろう、なにせ矢は敵と同じ金属なのだから。
既に発射可能な状態で仕上がったクロスボウを黒騎士へと向ける―――――俺の考え通り、その放たれた黒い矢は敵の胸元を貫通する。何かガラスが砕けるような音が響き渡ったと思えば黒騎士はその場に崩れ落ちた。
……どうやら成功したようだ。動かないことを確認したあとにルカたちを囲んでいた氷の魔法を解く。
「なぁ大丈夫だっただろう?」
何とも言えない表情になっていた彼らへとそんな言葉をかけてやるとルカが前にと歩み出てきた―――――そして
―――――バチーンッ
と何故か頬を打たれてしまった、地味に痛い。
すぐに抗議しようかと思ったのだがルカの顔を見て何も言えなくなってしまう。なぜならルカが泣いていたからだ。
「ほんとうに…心配したんだよ!! ―――――クルツさん達も凄く焦っていたし…」
泣きながらそんな言葉をかけられてようやく俺も理解した、思いがけずルカには心配をかけてしまっていたということに。
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