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 ビルが林立し、人のあふれる街・梅田は地上だけを指すわけではない。

 この街は、地下にも広がっているのだ。

 阪急梅田駅、JR大阪駅、地下鉄御堂筋線などを中心に連なる道には様々な店が軒を連ねる。「梅チカ」と呼ばれるそこは、地上に劣らぬほどの人が行き来する。

 地図を片手に、または案内表示を頼りに、人々は自らの欲するままに歩く。

 そんな迷いながらも求める者が、今日もまた、一人……。

「え~と、どっちがどっち……?」

 目の前に広がる分かれ道と、天井近くに掲示されている案内板とを見比べて、小阪初名は首をかしげていた。

 駅から出てすぐにぶち当たった大きな壁、いや道。北に南に東に西に……それだけなら良かったが、この地下街では思わぬところで斜めにも道が通っており、思わぬ場所で道と道が繋がっている。進む者の方向感覚を狂わせ、地元民でも迷うと言われるこの場所は別名『梅田地下迷宮』とも呼ばれる。

 そんな場所に、初名は図らずも挑もうとしていたのだ。

 一人で歩く者、家族や友人と連れ立っている者、カップルもいる。たくさんの人間がこの地下街で何かを得ることを目的に、楽し気に歩いていた。

 だが初名の場合は、少し事情が違った。一人だし、行き先は地下街の店でもないのだった。

 見知った場所なら何かしら知っている建物などを目印に進めるのだが、初名にとってここは初めて臨む場所……いわば未知の秘境。文字通り右も左もわからないのだった。

 しかも時期は三月下旬。新学期や新生活の準備もあって、この梅田界隈は賑わいが増す頃だ。

 道にも人波にも、右往左往する者は珍しくない。この初名も、数週間後に大学の入学式を迎える一人だ。関東から関西の大学に入学するために来て、洗礼を受けていると言ったところか。

「困ったな。ただでさえ道がわからないのに……」

「どないしたん?」

 その声が自分に向けられたものだと気づくのにしばしの時間がかかった。初名は声の他に視線を感じて、そちらを振り返った。

 すると、真っ先に視界に入って来たのは、銀色の髪だった。老人のような白髪でも染めたのでもなく、それ自体が光を放つかのような、絹のような艶やかな髪だった。

 次いで、その容貌に目を奪われた。男か女か、はたまたどちらでもないのか。どちらであろうと、「美しい」という言葉がこれほど似合う人はいないと、そう思わせるような美貌だった。

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