私と彼の1週間ー6日目ーエリーゼの覚悟ー
「ねぇヒメ……これは内緒よ?」
静かに言葉を放ったエリーゼに、私は黙って耳を傾ける。
「私ね、もう聖女としての力が覚醒してるのよ」
……は?
いつから?
聖女の力は確か通常ルートでは20歳にならないと覚醒しないはず……。
でも考えてみればそうだ。
彼女が魔王を、消滅はできないまでも封印することに成功したということは、少なからず聖女の力が覚醒していたということ。
そして彼女が亡くなったのは、彼女の17歳の誕生日の前日、彼女が16歳の時だ。
どうして今まで疑問に思わなかったんだろう。
その例えようのない違和感に。
「……いつから?」
「8歳の頃、突然に。でも、これを言ったら怖い戦いに巻き込まれちゃいそうで、誰にも言ってはいないの」
だから内緒にしてね、と付け加え、人差し指を唇の前に立てる目の前の美女。
う、美しい……!!
まぁそうだろう。
だってそんな力があったら、きっとそれを利用して瘴気を消す旅にでも連れて行かれるだろうし、
怖い目にも遭うだろうし、嫌なものも見ることになる。
普通の令嬢には厳しい光景も。
それでも、その力で救われる人が多いのは確かだ。
誰かが犠牲にならないといけない──か。
現実というものは、なんて残酷な世界なんだろう。
「……私にとってね、彼は王子様なの」
「王子様?」
シリル君が……王子様?
大魔王様、じゃなくて?
「えぇ。とっても綺麗だし強いし……。……私だってね、聖女としてどうしていくのか、何をすべきかはわかってるのよ。きっと魔王が復活したら、私は聖女の力で奴を消滅させないといけない。それがね、時々怖くなるの。その時私はどうなっちゃうんだろう──って」
「っ!!」
その結果を知っている私にとっては、簡単に口にはできない話だ。
「でもね、彼との未来を考えるだけで、私は頑張れる気がするの。私にとって、彼は頑張る力をくれる王子様なの」
そうか。
怖くないわけじゃないんだ。
彼女が自分を犠牲にしてまで魔王を封じたのは、頑張ることができたのは、シリル君がいたからだ。
思いの形は違えど、彼女もシリル君を愛している。
「お互い、頑張りましょ。あなたは恋のライバルだけど大切なお友達だわ」
そう言って彼女は、ふわりと微笑んだ。
「はい。そうですね。私も、エリーゼが好きですよ」
少しズレた感覚はあるけれど、誰にでも優しくて、美人で、皆の中心で、かっこいいエリーゼ。
今は彼女を救うことはできない。
だって大きな過去を変えることは、未来を大きく変えることになるから。
でも必ず助けるから。
もう少し待ってね。
その日私はエリーゼの部屋に泊まった。
夜遅くまでシリル君について語り明かして、彼女のネグリジェを借りて、ぬいぐるみだらけのベッドに埋もれて一緒に眠った。
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