私と彼の1週間ー4日目ー堅物青年ー


「君たちが未来で仲良くやってるみたいで、安心したよ」

 

 ふんわりと微笑んで私の手の中のペンを見たフォース学園長は私の方へと視線を移し「目も元に戻ったみたいだ」と言った。


 この間もそうだったけれど、先生のことを考えると不思議と落ち着いてくる。


 毎日の厳しい訓練も。

 季節のイベントも。

 なんでもない日常も。

 

 先生がくれた幸せな記憶の粒ひとつひとつが、私を暖めてくれる。

 私の風は、いつも私の中にある。

 だから、きっと大丈夫。


「あぁほら、噂をすれば、お迎えだ。続きはまた今度ね」

「お迎え?」


 私が首を傾げながら聞き返すと、軽いノック音とともに「シリル・クロスフォードです」と扉を叩いた主は律儀に名乗った。


「シリル君?」

「ふふ。君を迎えに来たんだろうね。──どうぞぉ〜」

 フォース学園長が返事を返すと「失礼します」と綺麗な礼をしてシリル君が部屋へと足を踏み入れた。


「やぁ。授業お疲れ様」

「ヒメがお世話になりました」

 まるで私の保護者か何かのような言葉を返して、シリル君は私の方へと歩みを進める。


「ヒメ、夕食の時間だ。行くぞ」

 一緒に食べようと迎えに来てくれたことに、頬が自然と緩まる。

「あ、はい!! じゃぁ学園長、ありがとうございました!! またお邪魔しても?」

「うん、待ってるよ」


 返事をきいた私とシリル君はフォース学園長に向かって一礼すると、本にまみれた部屋を揃って後にした。





「フォース学園長と何かあったか?」

 二人で並んで学園の長い廊下を歩いていると、ふとシリル君が静かに尋ねた。


「え?」

「迎えにいった時の君の顔。私の顔を見て安心したように表情を緩めただろう。何かあったのかと思って」


 そんなに顔に出ていたのか。

 そして些細な表情の変化に気づいて心配してくれるシリル君が尊い……!!


「大丈夫ですよ。ちょっと長い間座っていたので疲れちゃってただけです。心配してくれてありがとうございます、シリル君」

 私がシリル君に礼を述べると、彼は少しだけ顔の血色を良くして「別に。何もないならいい」とぶっきらぼうにつぶやいた。


「夕食はどうする? 食堂にするか、それとも持ち帰りにしてどこかで食べるか」


 新学期が始まった今、食堂は今の時間生徒たちでごった返している。

 人混みが嫌いなシリル君的には、おそらく食堂以外の方がいいだろう。


「あ、それなら私の部屋に来ますか?」

 私が提案すると、シリル君は血色のよくなっていた顔を今度は真っ赤に染め上げ立ち止まった。


「バッ!! 馬鹿なのか君は!? 淑女の部屋に……お、男と二人きりだなんて……。何を考えてるんだ、この変態」


 堅物すぎる……!!

 そして変態などとは解せぬ……!!


 大体、未来では扉を隔てた同じ部屋に住んでますから!!

 お風呂も共有ですから!!


 ──とは口が裂けてもこの堅物少年には言えない。


「じゃぁ、また聖域にでもいきましょうか?」

 私が提案すると、シリル君は少し考えて「そうだな。あそこなら静かに食事ができそうだ」と同意した。

 二人で顔を見合わせて微笑みあうと、持ち帰りの食事をもらうため食堂の大きな扉を開ける。

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