第21話 急ぎカチヤ奪還計画を策定せよ!

 表にいたメイドさんに身体検査をされた後、王宮の長い廊下をゆっくりと歩いていく。前を歩く侍従のおじさんも、私がまだうまく歩けないのを知っているみたいで、途中途中でこちらの様子を見ながら連れて行ってくれているのだ。


 二度ほど角を曲がった後、衛兵さんが立っているドアの前で立ち止まる。


「ティナ・カペル様をお連れいたしました」


「入れ!」


 衛兵さんはドアを開け、私は侍従のおじさんから中に入るように促される。


「ティナ・カペル様ですね。席までご案内いたします。ついて来てください」


 ドアの前には少し若い別の侍従さんがいて、今度はこの人に席まで連れて行ってもらうみたいだ。入った途端、場内がざわついたのは、私の服がこういう場所で女性が着るようなもの物ではないからだろう。

 侍従さんの後を付いていきながら、目立たないように周りの様子を観察する。中央の長いテーブルの両側には、6人ずつ身なりのいいおじさんたちが座っていた。コンラートさんは向こう側の前から二番目で、私の席は……


 侍従さんの向こうに見えたのは、おひげを生やして髪もだいぶん白くなっているおじさんの隣にポツンと置かれている一つの椅子。


 ちょ、ちょっと待って! あのおじさんって国王様じゃないの?

 一人だけ真ん中に座っていて身なりも全然違うし、なんだか目つきも鋭い。

 他に席は……空いてないの?

 横目でチラチラとあたりを見渡してみてもそこしかないようだ。


 結局他の椅子を探すことが出来ないまま、おひげのおじさんのところまでついてしまった。


「ティナ・カペル様をお連れしました」


「うむ、下がってよい」


 侍従さんは礼をして、戻っていく。私を一人残して……


「そちがティナか?」


 侍従さんを恨めしく見送っていたら、おひげのおじさんから声をかけられた。


「は、はい。ティナです!」


「ワシはこの国の国王のカール・ランベルトじゃ。この度はよくぞ無事に王都までたどり着いたな」


 やっぱり国王様だった。


「はい、陛下。お初にお目にかかります。ティナ・カペルです」


 よし! セバスチャンさんに聞いていた通りに挨拶をすることができたぞ。


「うむ、まずはそこに座るがよい」


 お許しが出たので、王様の隣に置いてある椅子に腰かけさせてもらう。

 あーあ、ここからだとほかの評議員の人たちの興味津々な顔がよく見えるよ。


「まず初めに、ティナには残念な知らせを伝えなければならない」


 王様が私の方を見て、抑揚を抑えた声で話しかけてきた。

 嫌な予感がする……


「カチヤの町が敵の手に渡ったとの知らせが先ほど届いた。領主の男爵夫婦の消息は不明じゃ」


 一瞬にして目の前が暗くなった気がする。


(ユキちゃん! ユキちゃん! しっかりして!)


 すんでところで意識を持ち直し、王様の方を見る。


「それでじゃ、教皇国から停戦の申し入れも届いているのじゃが、領主代行としてそちはどう思う?」


 領主代行……そんなものになんてなりたくはない。でも、今はそんな肩書でも使えるものはなんだって使ってやる。


「教皇国は時間稼ぎをしたいだけなのです。停戦を行っても、相手に準備ができたらすぐにでも破られてしまうでしょう」


 デュークから教えてもらうこともなく、その言葉を発することができた。


「なぜ、そう思う」


「カチヤの町が攻め込まれる前に、教皇国は工作員を送り込んでいました。もしかしたら、すでにこの王都にもそいつらが入り込んでいるかもしれません」


 周りの評議員からざわめきが上がる。


「確かにカチヤが攻め込まれるまで、王都の人の流れを止めたことは無い。入り込んでいると思ったほうがいいかもしれんな」


「教皇国が停戦を望んでいるというのなら、それはまだ王都を攻める準備が整っていないということです。もし、今、時を与えてしまうと相手は兵士を補充し、万全の態勢でやってくることになります。それに、王都の兵士を減らす別の計画を立てているかもしれません」


「ふむ、別の計画か。そちはその計画はどのようなものだと思うか」


「この国は未だ東の国と争いが続いていると聞いています。もし東西から同時に攻められては大変なのではないでしょうか?」


「クノールよ、そちの領地の近くにエルギルの教えを広めておる国があったな」


「はい、陛下。メネス国があります」


「最近の動きはどうだ?」


「ここのところ不気味なくらい静かにしております」


「なるほどな。ティナの心配はあながち的外れではなさそうだな。ふむ、改めて皆に問う。エルギル教皇国からの停戦の申し出に賛成の者はおるか! ……うむ、おらぬようだな。更に問う。カチヤ奪還に反対のものはおるか! ……これもおらぬな。よし! 軍務大臣は急ぎカチヤ奪還計画を策定せよ!」


「「「ははー」」」


「ティナよ。そちは女子おなごにしておくにはもったいないほどの胆力の持ち主だな。コンラートの言うとおりだ。それに、面白い計画を持っているとも聞いておる。この国のことをこれからも頼むぞ!」


 陛下はそう言うと私の手を握り、後ろのドアから会議室を出ていった。


「よくやったね、ティナ。早速で悪いが、すぐに奪還計画を作らなくてはならない。一緒についてきてくれるかな」


 場が騒然としている中、私もコンラートさんに連れられて会議室をあとにした。

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