野の白鳥


「魔王の軍が!? 魔物たちが攻めて来たぞ!」


 ――そんな知らせ。


 さっきまで静かだった広場は、急に慌ただしくなった。


 私は外に向かう。


 木の壁越しに外を見れば、夜の闇の中、海からたくさんの魔物たちが上がってくる。


「人間達たちよ、あきらめて魔物に転じよ! 魔王様の配下へと下るのだ!」


 リーダーっぽい魔物がなんか言ってる。


 この集落は魔法使いの村らしい……迎撃に集まってるのは、みんな魔法使いみたい。


 でも、ほとんどが女の人。


 男の人はほとんど、呪いで寝ているらしい。


 私が戦うために外に出ようとすると、それを見張りの女性が止めた。


「お嬢ちゃん、中にいな!」


「大丈夫、私は召喚士だから戦えるよ。」


「戦えるって……あの数だよ?」


 そこに、フードを被ったおばあちゃんが口を出す。


「その方の力、尋常ならざるもの。――お客さん、お力を貸していただけますか?」


「いいよ、もちろん私も戦うよ!」


 おばあちゃんは私の力を認めてくれたらしい。


 私は門を通されて、一人、魔物たちの迫る集落の外に出ていったのだ!




 うじゃうじゃと、上陸してくる魔物たち……


(それにしても数が多いなぁ。とりあえず裸のおっさんを呼ぼう! ――来てくれるかなぁ?)


「力を貸して! 裸のおっさん!」


 私の呼びかけに、紫の宝石が光る。


「カレンよ、余に遠慮をするでない。

 余はいつでも、お前の味方だ。」


 裸のおっさんが、やっぱり裸で現れた!


「おっさんもまた私に力を貸してくれるんだね。」


「また? ああ、契約が果たされたからか……

 お前は、自分の力に気づいていないのか?」


「……力?」


「まあ、カケラを取り戻してなによりだ。」


「おっさんも服を取り戻せよ!」


 私は無駄だと思いつつ、つっこんだ!


 すると、おっさんはなんか変なポーズを取る。


 筋肉をアピールしているようだ。


「見えぬか? 私の美しき衣が?」


「ハイハイ、見えません。暗い夜で良かったよ。」


 私は冷たくあしらって、目を逸らす。


 すると、闇に光るおっさんの股間の魔方陣が、少し下に下がったのだった……


(おっさん、怒ったかな?)


 おっさんが、魔物たちを殴って倒す。


 八つ当たりのような、激しい攻撃だ!


 ――でも、数が多すぎる。


 撃ち漏らした魔物たちが集落に迫り、女性たちが魔法で応戦している。


「ねえ! どうにかならない?」


「さすがの余でも、一人でこの数相手は厳しいぞ。手練れの部下が数人いれば……」


(うーむ、夢で見たおっさんの部下とか呼べるのかな? たくさんの人、たくさんの人……)


「僕らを呼んでおくれ、カレン。」

「私たちを呼ぶといいよ。」

「カレン、会いたいな〜、カレン!」

「呼んでよ! 僕たち、頑張っちゃうよ!」

「私たちが力になろう。」

「君の力になるのが、僕らの使命さ。」

「呼んで! 呼んで! 呼んで〜!」

「私たちを呼んで!」

「さあ、僕らの出番だよ!」

「呼んで、カレン。君の力になるよ。」

「私たちが君を守ろう。」


 私が目をつぶって考えたとき……数人の男性の声が聞こえてきた。


 私はこれ幸いにと、彼らに呼びかける。


「――よし! お願い、力を貸して!」


 私が叫ぶと、緑の宝石が眩い輝きを放った。



 一本の三つ編みにした黒く長い髪……白い肌には白いワンピース。


 私より少し幼い、それはそれは可愛い女の子が、一人でそこに現れた。


(あれ? 女の子? さっきは男の人たちの声がしていたような……?)


 疑問を持ちつつ女の子を見ていると、彼女は黙って何かを作っていいる。


 そんな彼女の周りには、虫や動物たちが集まって、――中でも目立ったのは十一羽の白鳥だ。


 白鳥たちは頭に、金の王冠を載せている。


(どゆこと?)


 女の子は草で冠を作っていたみたい……王冠をつけた白鳥が、女の子の前に来る。


 すると、女の子は白鳥の金の王冠を外して、草の冠と入れ替えていった。


 冠を入れ替えられた白鳥たちは、次々に剣を携えた騎士へと姿を変える。


 そして、次々に私の方にやってきたのだ!


「君がカレンだね。かわいいねー。」

「いや、でもエリザの方が可愛いよ。」

「どっちも可愛いって!」

「カレン、私と付き合わない?」

「じゃあ、私はエリザと!」

「何言ってる! エリザは妹だろ!」

「あんな可愛い妹、ほっとけるか!」

「君は、カレンで我慢しろよ!」

「それは、カレンに失礼だろ!」

「田舎臭いけど美人じゃないか!」

「そうだ、イモ臭いけど美人だ!」


(ウザい……なんだ、このナンパ野郎集団は!?)


 私はイラっとして叫んだ!


「あんたたちが付き合うのは私じゃない!

 ――魔物の相手をしてきてよ!」


 私が魔物を指差して指示をすれば、騎士たちは渋々と戦いに赴く。


 魔物に対する騎士の攻撃……


 カーン!っと剣で魔物を叩く音。


 その勢いに、騎士の一人がすっころぶ。


 また別の一人は、攻撃した魔物に追われてる。


「あ、痛い!」

「強いよ!? 魔物ってこんなに強いの!」

「む、無理だよ〜」


(ダメじゃん! あいつら、口先だけかよ!)


 ――私は呆れて、絶望に暮れる。


 すると、裸のおっさんが声を張り上げた。


「王子たちよ! レイピアで叩くやつがあるか!

 ――余の側に寄れ、陣を組むぞ!」


 ――裸のおっさんの指示。


 それに従い、騎士たちは並んだ。


「えい!」

「やあ!」

「とう!」


 そして、おっさんの指示に従い騎士たちが突きを放てば、魔物たちが倒れていく。


(おっさん、すげーな! ヘタレどもを使いこなしてる! ただのヘンタイじゃなかったんだな!)


 私は白いワンピースの女の子の隣で感動していた。


 でも、それでも魔物が全て止められるわけもない。


 ――私たちの前に、狼や猪の魔物が迫る!


(女の子を守らなければ!)


 私は、女の子を守ろうと抱きしめた。


 女の子は、良い匂い♪


 それに、なんだか不思議な感じがする。


(あれ、なんだろ? なんかスッキリ?

 なんだか、お風呂上がりみたいだ♪)


 私は、不思議なスッキリ感を味わった。


 不思議に思って女の子を見ると、女の子は優しい顔で微笑んでる。


 そして私からそっと離れ、魔物に近づいて……


(危ない!)


 私はそう、叫ぼうとした。――でも、そのタイミングで女の子の意外な行動に驚いてしまう!


 女の子が、魔物を優しく撫でたのだ。


「え?」


 すると、狼の魔物は可愛い子犬に、猪の魔物は可愛いウリボーに転じた!


(ええー!?)


 騎士達が大声で言ってくる。


「どうだ! エリザは凄いだろ!」

「どうだ! エリザは可愛いだろ!」

「エリザはみんな浄化するんだぞ!」


(うるさい、シスコンども!

 でも、エリザ凄いな! 反則じゃん! ナンパ野郎ども……お前ら、妹のオマケかよ!?)


 おっさんと、その指揮に従い戦う十一人の騎士たち、魔物を動物に変えてしまう女の子。


 そんな彼らの活躍に、ゆっくりだけど夜が明ける頃には、魔物たちの数は減ってくる……


 それに焦ったように、魔物のリーダーっぽいやつが叫んだ。


「クソ! 雑魚どもでは歯が立たんか!?

 ならば、とっておきの魔物を召喚してくれる!」


(あいつ、召喚士? もしかして魔王!?)


 緑の顔をした、ごっつい牛の魔物……


 もしかしたら魔王かも知れない。


(いや、違うか?

 さっきあいつ、「魔王様」って言ってたし。)


 牛の魔物が、両手を空に掲げて叫ぶ!


「出現せよ! 海の怪物リヴァイアサンよ!!」


 ――するとだ。


 朝の穏やかな海が一変、激しくうねる!


 そして、とてつもなく巨大な魚……


 ハモの怪物、リヴァイアサンが現れたのだ!

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