人魚の王子さま

水月美都(Mizuki_mitu)

海編1

 ゆらゆらと水面を見れば、あの時の事を思いだす。

 あの、十年前の事故の事を――


 その時まだ七歳だった私は、初めて乗った大型客船に有頂天だった。


「あ、ママ、パパ、イルカがアソコにいる!」


 家族旅行で初めての海外。

 日本とは、まったく違う海の色や、生き物にわたしは、ワクワクしていた。

 それが、最期の家族旅行だとも知らずに。


 その日。船は、日本へと帰港すべく、水面を滑る様に進んでいた。

 空は快晴、順調に航海していた筈だった。


 だのに、海の景色が一変し、嵐がやって来た。

 悲鳴と怒号が飛び交う中。わたしは一人、父と母にはぐれ途方にくれていた。


「ママ、パパ、どこにいるの?!」


 泣きじゃくりながら、歩くわたしに、誰も声を掛ける人などいない。

 船内はパニックに陥った乗客で溢れ返っていた。

 だけど、その騒ぎも終る時がやって来た。

 船が沈み、わたしは冷たい海に投げ出された。

 まだ、泳げなかったわたしは、あっと言う間に下へ下へと、沈んでゆく。

 段々と意識が遠のく中でわたしは見たのだ。

 きんいろの髪に透き通った蒼い瞳の綺麗な男の子を。

 ただひとつ、わたしと違ったのは。本来なら足がある筈の場所には、にじいろに輝くヒレがあったという事。


――そう人魚だった。






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