第2話 追放者を集める変わり者
俺達の姿を見失ったハイオークが遠くへ離れていったのを見届けた後、茂みから出た俺は彼女に気になっていることを尋ねてみた。
「赤の他人の不幸をまるで自分の事の様に怒るなんて優しいなあんた。俺の名前はガラルド、よかったらあんたの名前と森に来た理由を教えてくれないか?」
「そうやって真正面から褒められると照れますね。それに鋭い目つきに短髪の強面さんのうえに、とっても筋肉質で背も高くて私の好みだから余計に照れちゃいま……ゴホン、私の名前はリリスと言います。ここに来た理由は『異変調査と里帰り』と言ったところでしょうか」
「異変調査と里帰り? どういうことだ?」
「最近、国内外問わず魔獣の動きが活発になっているのをご存知でしょうか? この『神託の森』も元々は弱いモンスターしかいない平和な森だったのですが、最近ではハイオークのような高ランクのモンスターが出没しています。ですので、各地域のモンスターの分布状況を調べている最中でして『神託の森』生まれの私は優先して、ここの調査をしに来たということです」
確かにリリスの言う通り、ここ最近モンスターの総数が増えているし、凶悪なモンスターも色々なところで見かける様になってきたから、言っていることは理解できる。
しかし『神託の森生まれ』と言うリリスの言葉が引っ掛かった。何故なら『神託の森』の中に人が住むような場所はないからだ。
「ちょっと待ってくれ『神託の森』に人が住んでいるところなんてないぞ」
「そうですね『人』の住む場所はないですね。でも私は住んでいましたよ、何故なら私は女神なので」
「ん?」
リリスがいきなり訳の分からないことを言い始めた。女神とは空想上のもので、実際には存在しないからだ。
俺は何て言葉を返せばいいか迷っていると、リリスがムッとした顔で近づいてきて、俺の手を引っ張り、西の方へ歩きだした。
「女神を自称する私のことを頭の可笑しい奴だと思っていますね? だったら証明してあげますからこっちに来てください」
リリスに引っ張られながら五分ほど西方向へ歩き続けると、そこには見た事のない綺麗な泉があった。今にも妖精が現れそうなその場所でリリスが泉に向かって語り掛ける。
「女神長サキエル様、リリスです。調査を終え『神託の森』へと帰ってまいりました」
「ご苦労様ですリリス」
リリスとは別の女性の声が聞こえてきた。その声は耳で聞いたと言うよりも、まるで直接脳内へ語り掛けてくるような奇妙な感覚だった。だが、不思議と不快感はなく、むしろ暖かみのある、とても心が落ち着く声色だった。
そして、女神長サキエルと呼ばれた女性の声が聞こえた後、泉の上に光の粒が集まりはじめ、やがてそれは人の形となり、女神と呼ぶに相応しい美しく神々しい銀髪の女性が現れた。
見た目的にはリリスに少し似ているがリリスより少し垂れ目で、より大人っぽく身長も高い。
女神って本当にいるんだなぁ~とか、二人とも似たような銀髪だから女神は銀髪になるという決まりでもあるのだろうか? 等々、色々な事を考えていると、女神長サキエルは自分の名前と自身がこの泉に住む女神達の長であることを教えてくれた。
俺も自己紹介と追放された経緯を説明すると、サキエルは自分のことの様に優しく話を聞いてくれた。そして話が一段落した後、女神長サキエルは早速リリスに『調査』の結果を尋ねた。
「リリス、魔獣調査の結果はどうでしたか?」
「はい、近隣諸国を巡ってきましたが、その全てでモンスターの増殖と強化が確認できました。どういった経緯でモンスターが増強しているかは不明ですが、今は一刻も早く原因究明するとともに各国の協力が必要になると思われます」
「分かりました。調査による長旅お疲れさまでした。それで、これからリリスはどのように動かれるのですか?」
「私は先日も申し上げました通り、追放者や理不尽な目にあっている弱者の救済にあたりたいと考えています」
「……貴方の理念は女神として生まれたその時から一切揺るがないようですね。他にもしてほしい仕事は色々とありますが、自由に過ごして長旅の疲れを癒す期間も必要でしょう、暫く休暇を与えます」
「ありがとうございます、サキエル様」
「ところでリリス、貴方の右腕は何故痺れているのですか? こちらへ来なさい」
「あはは……。女神長様の目は何でもお見通しですね。そのぉ~、ちょっとぶつけてしまいましてですね~」
リリスは何故かハイオークの打撃を錫杖で防いだことをサキエルに伏せた。しかし、サキエルには粗方お見通しだったようで、魔術でリリスの腕の痺れを治した後、俺にリリスの人柄を説明してくれた。
「きっとリリスはいつものように無茶をしたのでしょうね、大方危ない目にあっていたガラルドさんを身を挺して守った結果、攻撃を受けて腕が痺れたと言ったところでしょうか? この子は優しい子でして、親代わりの身としては誇らしいのですが、反面いつか大変な目にあってしまいそうで気が気じゃありません。曲がったことが大嫌いで悪い人がいたら直ぐ突っかかることもあれば、感情的になると敬語が抜けてしまうこともあり未熟なところも多いです。ガラルドさん……これからどうかリリスを守ってもらえないでしょうか?」
「確かにサキエル様の言う通りリリスさんには助けられましたし、優しい女神だと俺も思います。ん? 今『これからもリリスを守ってあげて』って言いました?」
「はい、この子が追放者集めをしていることはご存知ですね? リリスがガラルドさんをこの泉に連れてきたと言うことは恐らく貴方をターゲットにしています。迷惑なのは重々承知ですが、リリスは追放者集めにおいて一切妥協しない変わった子なので、ガラルドさんが逃げてもきっと延々と追いかけていくと思います」
いきなりのカミングアウトに俺の頭はおかしくなりそうだった。隣を見ると確かにリリスはニコニコした顔で俺の方を見つめていることから、サキエルの言っている事は本当なのだろう。
まるで実家にいる親に彼氏を合わせて、無理やり結婚までもつれ込ませる彼女の様な動きだ。
ほんとは『何故追放者を集めるのか』とか『女神とは何か』とか聞くことは色々あるのかもしれないが、それ以上に勝手についてくる理由が知りたいし納得もいっていない俺はその点をリリスに追及した。
「どういうことだよ? 何勝手に仲間になりましたって雰囲気を出してんだ! 俺はハンター稼業で忙しいからリリスの相手をしている暇はないんだよ」
「いいじゃないですか、どっちみちレックさん達には裏切られたわけですし、仲間になれば私がガラルドさんの仕事を手伝いますよ、まぁ私の仕事も手伝ってもらいますけど」
「やっぱり自分の目的の為じゃねぇか! あと、俺はまだレック班を抜けたわけじゃねぇぞ……」
「えっ? またレック班に戻るつもりなのですか? あんな裏切り行為をした人達のところに?」
「……俺だってそれは心底腹が立ったさ。それでもレック班の実績があれば受けられる仕事の報酬も高いし、メリットが多いから抜けたくはねぇんだ。俺は這いつくばってでもハンター階級と金が欲しいんだ」
「何か深い事情がありそうですね。分かりました、もしガラルドさんがレック班に戻る時がきたら、その時は私もガラルドさんの勧誘を諦めます。ですが、もし戻ることが出来なかったら私をガラルドさんの仲間にいれてください」
「本当に押しが強いな……。だけど、リリスは俺の命の恩人でもあるからなぁ、その時がきたら前向きに考えるよ。つっても俺は絶対レック班に戻るつもりだけどな」
「はい、よろしくお願いします。それでは一旦ヘカトンケイルのギルドへ報告に戻りましょうか、私も町に用事があるのでご一緒しますよ」
リリスと俺が泉から町へ戻る為にサキエルへ別れのお辞儀をすると、サキエルは俺達を引き留めて一つの提案をしてきた。
=======あとがき=======
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