第40話 人型拘束(ホールド・パーソン)と二人の追跡者
ててててっ!!
頭部が青い子犬と背中に一対の黒いブチがあるヒョウ柄の猫が街道を走っている。言葉だけなら可愛らしく微笑ましい光景だろう。そんな二匹がスピードを上げる、今までは軽い助走だったとでも言いたげに。
しゅぱっ!
とんっ!
ぎゅんっ!
目にも留まらぬスピードで登り坂を跳ね次の瞬間には離れた場所に着地、さらに加速して追跡者達に迫る。
「で、どうするのだ?
シトリーがアヌビスに聞いた。
「そんな事も分からんのか。尾行を止めさせ
「ふん!それならひと思いに
「それを主が喜ばぬのだ!ゆえに我が神族の徳をもって悔い改めさせる」
「…上手くいくとは思えんがの」
「まあ見ておれ、我の手並を」
そんなやりとりをすること数十秒、二匹には追跡者達の姿をハッキリと捉えた。細い体に古い革鎧を着ている。それはよくあるこげ茶色一色ではなく、黒い部分もあれば灰色がかった部分もある。
ちなみに忍者が着ていたと思われている
月明かりなどわずかな光でもあればその黒装束と周りの景色の差を際立たせてしまうのだ。それは景色の中に輪環を浮かび上がらせる、わざわざ教科書の重要な
「小細工は無用だな、このまま行く」
「構わん、さっさと済ませて
そう言い合うと二匹は空高く跳ね上った。
□
セキザンの商業ギルドマスター、ムーラ・カミュ・ファンドゥの命令で二人の男が傳次郎達を追跡していた。二人がセキザンの街を出たのは傳次郎達が街を出てから二日後の事だった。用意させた塩も荷馬車も冒険者達も無駄となったムーラ・カミュ・ファンドゥが周囲に当たり散らし冷静になるのに時間を要したためだ。
ロクに荷物を持っていない軽装の男がグランダライ公国に塩の販売をすると言う。しかも荷馬車の一台も連れていない。公国の姫騎士と同道しているのだ、まさかやっぱり出来ませんでしたなんて事はないだろう…それがムーラ・カミュ・ファンドゥの考え方だった。
「あの若造は何らかの手段で
そう言って二人の冒険者を探りにやらせた。正直、素行は良くない。しかし腕は確かだ、金に従順なところも良い。必要とあらば
「見たか?」
「見た。ゴブリンを倒した」
『そっちじゃねえ」
ぱしん!最初に問いかけた男が応じた男の丸刈り頭を叩いた。
「建物が建った!」
「そう、そっち」
丸刈り頭の方が少し背が高い、反対にもう一人は無造作な短髪の
「あれなら昨日みたいな雨でも濡れないな!」
ぱしん!
「そうじゃねえよ。いや、それもそうだがよ」
昨夜、長い時間ではないが雨が降った。雨を避けながらの野営をしたのだが火を焚く訳にもいかず
「きっとあの中に物も金もあるんだ!」
「まあ荷物持ってねえからな。それに寝泊りも出来そうだしな」
「良いなー!ムーラの旦那、すぐに後を追えって言うからロクに荷物も用意が出来なかったんだもん。野ウサギ捕まえて食べなきゃならなくてさー」
ぱしん!
「
「そうそう!そうとも言う〜」
ぱしん!
「そうとしか言わねえよ」
「じゃあさ〜、アレ…
「待てよ、あの中に本当にあるかが分からねえだろ。だから今は我慢しろ」
「え〜、やだよ〜!ちゃんとした物、食べたいよ〜!」
丸刈り頭がそう言った時だった。
すとん!すたっ!
高く跳んだシトリーとアヌビスが二人の前に降り立った。
「あ〜、
丸刈り頭がニコニコしながら二匹に視線を向けた。
「ねえねえ、おいでおいで〜」
「コホン!我は神族、冥界に住まうアヌビスである。楽にするが良い、
「「しゃ、しゃべった!?」
二人の男が顔を見合わせる。
「我にとって言葉を話す事など造作もない。それよりも…」
「頭が青い毛でぇ…、ここなんか金色ぉ…」
丸刈り頭がアヌビスの姿に釘付けだ。
「ふむ、我の神々しい姿に…」
「これは高く売れるよぉ!」
そう言うと丸刈り頭がアヌビスを捕まえようと手を伸ばす。
「何をする!?」
アヌビスが素早く身をかわした。
「ッン!!」
「ッ!?」
いつの間にか背後に回っていた男がアヌビスに手を伸ばした。
ぴょん!
アヌビスはそれを高く跳ねてかわした。
「ふ、ふはははっ!神の徳とやらはどうした!?欲に目がくらんだ
おかしくてたまらない、そんな様子でシトリーが笑う。お腹を抱えてパタパタパタ…、背中の羽を広げて飛んでいる。
「あ〜!羽が生えてる〜。これも高く売れるぞぉ!」
丸刈り頭がシトリーを指差して言った。捕まえようとするがシトリーも素早い、伸ばされる手をたやすくかわしていく。
「やるか?」
「そうじゃな」
アヌビスがシトリーに問いかけるとそちらを向かないままシトリーが応じた。
「「
たちまち幾重にも光の輪が現れ二人の男の体を縛りつけた。たちまちその身動きを取れなくする。
「な、な、なんだこりゃあ!?」
「
「ほぅるどぱぁそん?」
「知らねえのかよ、人間とかゴブリンとかヒューマンの形した生き物にかける魔法だ!魔法で縛りつけて身動きを取れなくするんだ。さっき見てただろ!」
「あー、ゴブリンに使ってた〜!」
「気づくの遅えよ!」
動けなくなったとはいえしゃべる事はできる。二人は今起こっている事を話し始めた。
「まさか同じ魔法を使うとはの」
「我は主との誓いは守るのだ、ゆえに傷つけず無力化した。貴様の方こそ…」
「妾の力ではやり過ぎるからの。あの
「ふん、良い方法を
ふわり…、すとん。
シトリーが地面に降り立つ。二匹が並んで拘束された男二人を見上げた。
「さて、これでゆっくりと話せそうだな」
アヌビスが二人の男に話しかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます