第32話 一周遅れの気遣いとお風呂場の悲鳴(バルキリー、風呂入る)
姫騎士…もとい
公園に建物があるというのはともかく、少なくとも宿屋の看板は出してはいない。商人と自称してみたけど何を扱うかも言ってない訳だし…。
(
だが、ここは中世風の異世界。仮にもそんな世界で『姫』なんて単語がサリナさんには付くんだから少なくともなんらかの爵位のある家の人なんじゃないだろうか。それに身につけている鎧とか近くで見れば見るほど
「それで…宿泊の件、いかがか?」
「あ、ええと…」
僕はあれこれと頭の中で考えていたのだがサリナさんからの問いかけで我に返る。しかし、どうしようか?うかつにそんな上流階級の人を泊めて大丈夫だろうか…。そう思った僕はそのあたりを単刀直入に聞いてみる事にした。
「あの…。僕は
僕はおずおずと、言葉を選びながら問いかけた。それをサリナさんは綺麗な直立のまま真っ向から受け止め、少し考えるそぶりを見せてから口を開いた。
「ふむ…、確かに私は爵位ある家の生まれだ。だが私は神にこの槍を捧ぐ
口調こそ堅苦しさはあるが微笑みを織り交ぜサリナさんは話す。
「本来なら通りを歩くべきだが近道をする為にこの公園を横切ったのだ。実は鍛錬を兼ねダンジョンに出向いたのだが帰りが遅くなってしまってな、…なに、貴族だの
「は、はあ…」
「それにいざ
はっはっは、そんな小さな笑いまで添えてサリナさんは応じた。…なんていうか、ちょっと僕なんかとは住む世界が違いそうな大物な気がしてきた。
「わ、分かりました。では、中を見てから実際に泊まるかどうかを決めるというのは…」
「うむ、それもそうだな!
そこにドライヤーで髪を乾かし終わったルイルイさんとメイメイさんがやってきた。
「お待たせ…あら?」
「お客さん?」
サリナさんを見てルイルイさん達が問いかける。
「こちらの
「ち、違いますよ」
サリナさんの問いかけに僕は慌てて首を振った。
「こちらのお三方は冒険者をされていまして…、僕をセキザンに連れてきてくれたんです」
「それではそれこそ一つ屋根の下に…ではないか。既に女性達と寝泊りをしているというに…」
「あっ、そう言えばそうですね」
サリナさんの指摘に何を今さら悩んだのかという思いが頭をよぎった。
「ふ、ふふふ…。はははははっ!やはり私の直感は間違ってはいなかったようだ。そちらの髪の短い女性のそなたへの接し方を見て信じるに
「デンジ、お皿とか並べておくよ?
アイアイの声に送られて僕はサリナさんを連れて小上がりに上がった。
「さっそく風呂を見せてくれ!先程の女性の肌から漂う香り…、あれはどんな石鹸なのだ?」
「あれは石鹸ではなくボディソープというもので…」
そんな事を言いながら風呂場に…、これまた昭和レトロな浴室である。
「ふむ、石を張った浴室なのだな」
風呂場を見てサリナさんが呟く。
「こちらがバスタブで、これが例の…」
僕はボディソープのボトルをワンプッシュ、手のひらに白色の液体を受ける。それに水分を少し加えて擦り合わせるようにすると泡が立ち始める。
「こ、これは!?」
「これで体を洗うのです。すると体の汚れは落ち、良い香りに包まれます。また、こちらは髪を洗う専用の物にて…」
「うむうむ、これだ!先程と同じ香りだ。試してみたい、早く試してみたい!泊まるぞ、私は泊まる事に決めたぞ」
サリナさんは嬉しそうに話している。
「えっ?良いんですか?寝室とか見なくても…」
「よいよい!この風呂を見て気に入ったぞ。これなら寝る場所も期待出来るというもの!そなたに全て一任する」
なんていうか、サリナさんは風呂場を見回しながらウズウズしている。早く風呂に入りたい、そんな感じだ。
「あっ、じゃあ僕は…」
女性が入浴するんだからと僕は急いでその場を離れようとする。そんな僕をサリナさんが鎧を脱ぎながら呼び止める。
「ああ、待ってくれ。どこに行くのだ?」
ごとっ、ごとっ。
「えっ?今から入浴するんですよね?」
がしゃっ、がしゃっ。
胸当てと腰回りの防具を外すとサリナさんはややふっくらとした服を着ていた。金属鎧が直接肌に当たると硬くて痛いからクッションのために着る綿入れというやつだろう。そしてサリナさんは後頭部に手をやると一つに束ねていた髪…いわゆるポニーテールがはらりと解けて亜麻色の髪が広がった。
「ああ、入る。だからそなたがいてくれねば困るではないか」
「と、言いますと?」
僕はどうしたら良いか分からないのでサリナさんに問うた。そんな僕に構わずサリナさんは綿入れに手をかける。
「え?ちょっと!?」
待ってと言いかけたがサリナさんの動きは止まらない。
ぱさっ。
サリナさんは迷うことなく上衣を脱いだ。そのまま上半身を隠す事なくサリナさんは口を開いた。幸いな事に(!?)彼女の長い髪がその胸元を隠していた。
「ここは宿の浴室、ならばそなたがおらずして誰が私の体を洗うというのだ?」
平然とサリナさんが言ってのけた。
「い、いやああああ!」
僕は思わず声を上げた、これじゃまるで男女逆じゃないか…そんな事を思いながら。
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