4.7.刺客か!?


 朝になり、僕とアマリアズは起き上がって焚火の片付けをしていた。

 近くに川がないのはちょっと誤算だったけど、まぁここに来たの夜だし周り見えなかったからなぁ。

 でも少し離れたところに湖があったみたい。

 水の確保もついでに行うことにして、そちらへと向かってみることにした。


 一日寝てちょっとは気がまぎれたかな。

 まぁーやることは変わらないんだけど……。

 さて、今日から色々やらないとな。

 まずは街に向かいながら狩り!

 素材を集めて金策をやってみることにするっと。


 湖の近くまでやってくると、早速獣の気配が多くしているということに気付いた。

 朝水を飲みに来るので、集まっているのだろう。

 近くにいるのはショロウオウに操られていた鹿や、比較的温厚な獣ばかりで魔物は居ないらしい。

 これであれば急いで狩る必要もないと考え、僕たちはひとまず水の確保に専念した。


 アマリアズが魔道具袋から水筒を何個か取り出し、その中に湖の水を汲んでいく。

 山の中にあるということもあって、水自体はとても綺麗らしい。

 とりあえず水の確保は完了。

 数日は持つだけの量を魔道具袋の中へと仕舞った。


「ん~、その辺にいる獣だとお金にはならないかなぁ」

「でも食料調達はしておいた方が良くない?」

「それはまだ後でいいかな。荷物が増えると移動に差し支えるし、血抜きとか考えると結構拘束される。夜になる前に狩れば丁度いいんじゃないかな」

「あー、生ものを魔道具袋の中に入れ訳にはいかないもんね。了解了解」


 アマリアズの提案に従い、この場所では狩りをしないでおくことにした。

 だが魔物が出た場合は積極的に狩る。

 魔物の素材は結構レアだったりするらしいので、見かけたら倒すことになった。


 水も確保したし、まだ非常食が魔道具袋の中にあるということを聞いた後、僕たちは移動を開始した。

 街の場所はアマリアズが把握してくれているので、アマリアズに案内をしてもらうことにする。

 僕はその後ろから付いていって警戒だ。


 山の中は起伏が激しかったり、木の根や巨大な岩が邪魔したりと進みにくかったが、山の中で修行をしていた僕たちであれば難なく乗り越えることができた。

 移動には支障をあまりきたさないので、到着は予定通り二週間後になりそうだ。


「ん~、この辺に魔物は居なさそうだね」

「そっか。まぁそれならそれでいいさ。私は周囲に『空間把握』を展開させておくから、近づいてきた奴は分かるようにしておくよ」

「分かった」


 こういう時、アマリアズの技能は便利だよなぁ。

 僕は気配だけしか分からないから、実際に目視しないと姿は分からない。

 でもアマリアズの技能は全部わかるんだもんね。

 まぁ気配はあんまり分からないみたいだから探そうとすると時間がかかるんだろうけど。


 そこで、何かがこちらに近づいてくる気配を感じた。

 地上からではない。

 上空からだ。


「アマリアズ。なんか空から近づいてきてる……」

「空? ちょっと待ってね」


 スッと手を空へと向け『空間把握』の範囲を広げる。

 すると確かに人型の何かがこちらへと近づいてきているということが分かった。

 だがアマリアズのこの技能は、姿形も分かる。

 それが分かったからこそ、即座に戦闘の構えを取った。


「宥漸君構えて!」

「え!? よし!」


 そう言われ、僕はすぐに鬼人舞踊無手の構えを取る。

 左拳を腰だめに、右手を広げて前に突き出して腰を落とす。

 アマリアズは『空圧剣』を数本作り出して投擲の構えを取った。

 その瞬間、空から一人の人物が僕たちの前に着地した。


 黒く長い髪に、角が生えている。

 小さな折れ曲がった角が長い髪の中から顔を覗かせていた。

 ずいぶんと長いマントの襟は頭を越える程に長く、首を回しただけでは後ろや横は見えないだろう。

 ジャケットのような硬そうな材質の服を着ており、幾つかのベルトで前を止めている。

 どうやら女性の悪魔のようで、ゆっくりを背を伸ばして顔を見せてくれた。


 白い肌に、黒い瞳。

 とてもやさしいお姉さんのような顔立ちをしており、笑顔が眩しい。

 しかし彼女はひどく安堵したような顔をして、大きなため息をついた。


「あぁ~良かったぁ~~まだ見つかってなかったぁ~~……」


 ほっと胸をなでおろし、脱力する。

 その言葉を聞いて、アマリアズが咄嗟に『空圧剣』を投擲した。

 それを紙一重で女性の悪魔は回避する。


「おわぁ!?」

「宥漸君攻撃開始!!」

「言われなくても!」

「ええええええなんでなんでええ!?」


 彼女が口にした『まだ見つかってなかった』というのは、天使のことを指しているはずだと二人は勘ぐった。

 だがどういう意味でそう口にしたのかは分からない。

 しかしなんにせよ、キュリィは悪魔の姿になって接触をしてきたのだ。

 今回もその可能性が非常に高い。


 もう同じ手に引っ掛かるものかと、僕とアマリアズは攻撃を開始した。

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