2.10.予期せぬ獣
高い声で鳴いた魔物は、ベチヌと呼ばれている危険生物だ。
四足の足は爪が一つとなっており、それを地面に食い込ませて移動する。
体つきは犬に近いのだが尻尾はなく、更に肉体は干からびたミイラのようになっていた。
鋭い口はストローの様になっており、血液を糧としているということが口の形状から分かる。
体は大型犬くらいの大きさしかないのだが、その重量は見た目以上に重いようだ。
一歩足を踏み出せばズズズズッと地面に一本の爪がゆっくりと沈んでいく。
あんなに細い体躯をしているのにどうやって体を支えているのだろうか。
ふらついている様子は一切なく、しっかり自分の意志で歩き、獲物である二人を睨んでいるように見える。
ちなみに目玉はない。
人では聞こえない音を発し続けており、それが返ってくる音を聞いて獲物の位置を割り出している。
いわゆる超音波というものだ。
長い耳でそれをすべてキャッチしている。
「キュアアアア……」
「ゆ、宥漸君。物は試しで聞いてみるんだけどさ。その目隠し、外せたりしない?」
「む……無理」
「ごめん、僕こいつの相手できるほど強くない……」
ベチヌは音を発して周囲の地形、獲物の位置を正確に割り出した。
二人を交互に見て、どちらから襲うべきか悩んでいるようだ。
今であれば、まだ逃げられる。
「宥漸君……私の気配は辿れるんだよね?」
「で、できる」
「じゃあさ。僕が先に逃げるからそれを追いかけてきてくれる? できるだけ平坦な道を走るから」
「分かった……」
「よし。さん、にい……いち……。はい! 行くよ!!」
「うん!」
「キュアアアア!!」
アマリアズの気配を辿り、全速力で僕は走る。
追いつかれまいとアマリアズも一生懸命足を動かしているが五歳児の体だ。
疲れは知らないが少し遅い。
なのですぐに追いついてしまった。
「ちょっ!? 速いよ!!」
「アマリアズが遅いんだよぉ!! てかこれどうするの!?」
「あの魔物は本当なら魔族領にいるはずなんだ! ここにいるのはおかしい! だからそのことを後でウチカゲに言っておいて! それと絶対に血を流しちゃダメ! あいつは自分の血と敵の血を操る能力を持ってる!」
「ええ!? そんな魔物がいるの!?」
「世界って広いからさ!! それよりあいつ今どこにいる!?」
その瞬間、強い殺気を感じた。
咄嗟にアマリアズを抱えて大きく飛びのくと、先ほどいた場所に重い爪を叩きつける音が聞こえてくる。
破壊力が非常に高いらしく、地面が大きく凹んで土煙を上げたらしい。
小さな砂塵が飛んでくる。
着地してアマリアズを降ろす。
ベチヌの方向を見てみると、こちらを見てまだ何か思案しているようだ。
逃げなければすぐに襲い掛かっては来ないらしい。
「あ、あれは何をしているの?」
「自分の血を使って仕留めるかどうか考えているんだよ……。あいつの技は強力だけど代償が大きい。体つきから見ても血をほとんど使用できないはず」
「見えないんだけど」
「感じて」
「無理だって!」
ていうかそれができたら何も苦労しないんだってば!
でも強い殺気を放ち続けているから、相手の場所はなんとなくわかる。
だけどぉ……!
地形が分からないから全然動けない!
僕は硬いから、多分あのベチヌっていう魔物の攻撃を全部耐えられると思う。
てか、それが一番良い戦い方な気がする。
アマリアズは普通の子供……じゃないかもしれないけど見た目は子供だし、非力なのは間違いない。
魔法の腕は結構あるみたいだけどアマリアズの魔法でもあいつは倒せないんでしょ?
ま、まずは解決方法を聞いた方が良さそう。
何か知ってるでしょ!
「で! ど、どうしたらいい!?」
「これはもう倒すしかないね。逃げても私が足手まといになってるみたいだし、今のところ一緒に戦って倒した方が生存できそう。主に私が」
「多分僕ならあいつの攻撃全部耐えられるよ!」
「……よく立ち向かえるね……って、そうだよな。この子痛み知らないんだもんな……」
「何か言った?」
「なんでもないよ」
そういうと、アマリアズがすっとベチヌに向かって手を向ける。
「勝利条件は僕が怪我をしない事。掠り傷は大丈夫だけど、血が地面に落ちるくらいの怪我は駄目」
「血が落ちなければいいの?」
「いや……それくらいの血が出た瞬間あいつに技を使われる。血が爆発する技をね」
「……わ、分かった……!」
血が爆発したら……ただでは済まない事は僕でも分かる。
アマリアズが怪我をしないことが勝利条件っていう意味が分かったよ。
「よ、よし! 行くよ!」
「私は後方支援! 宥漸君は相手の注意を引き付けて!」
「分かった!!」
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