4章 不安な出だし

 俺らが鉱山へと入っていく姿を見て、心配そうな顔で見送るゼル兄に受付の人が声をかける。


 「ゼルさん、心配ですか?」

 「そりゃあ、心配さ。でも、俺みたいな奴は行っちゃいけないんだろ?」 

 「当たり前じゃないですか!ゼルさんも行くんだったら極端な話、ゼルさん一人でアスル鉱石を採りに行けるでしょ」

 「確かに腕試しにはならないか....。仮にでも、俺は、冒険者だし」

 「仮じゃなくて、立派すぎるくらいじゃないですか!だってゼルさんは」

 「さーて!ショウ達もすぐ帰ってこないだろうし、釣りでもしてこようかな!」

 「....もう!」




 場面は鉱山に変わり....。


 「ちょっと待って!」


 鉱山の入り口を通り過ぎてしばらくしてから、レイリが声をかけてきた。


 「ん?何か問題でもあったか?」

 「いや、特に大きな事では無いんだけど、その....モンスター?も、いつ出てくるかわからないんだし、せっかく貰ったこの本で今のうちに習得できる技を習得していかない?」


 確かに。ゲームじゃないんだし、出てくるタイミングがわからないのは当然だろう。


 「まあ、そうだな。まだ、きちんと見ていなかったし、ここでやろう」


 見たところ、休憩できるような場所はないし、全く疲れていないので立ち尽くした状態でする事にした。


 「うひぇー」 

 初めて貰った本をまともに見たが、これはキツい。

 本には、技名がびっしり書いており、それぞれの技にどのような効果があるかを簡潔に書いてあった。そして、どの条件で習得できるか、どのようにして発動するかも書いてあった。

 ただでさえ、勉強も得意じゃなかったから、辞書みたいにびっしり書いてある本を読むことは普通しないが、この世界、特にこの状況では読まないと強くなれないと理解し、読み始めた。


 読む中で一つわかった事がある。それは、能力向上のための行動をすると、一定のところで変化があり、同時に、音が鳴るらしい。


 「そういうことだったのか....」

 これでレイリと話をしている中で音が鳴っていたのはこの事だったと納得した。



 一通り、本を読み、今の能力で役に立ちそうな技を習得して、やる事を終えて顔を上げると、他の三人は興味ありそうに、そして、熱心に技の習得をしている様に見えた。


 「ごめん!やっと終わった!」

 だいぶ経ってから、一番、時間をかけていたルルが終わりを告げ、再び鉱山の中へ踏み入れることにした。



 

 一層は、鉱山の雰囲気を味わうためか、特に敵という敵も出ることは無く、問題無く、次の層に行くことができた。


 「本当に暗いなー」


 所々にたいまつのようなものに火が灯されているおかげで、何とか止まらず進んでいるが、本当に暗く感じる。


 「なーに?怖いの、ショウ?」

 いじるようにルルが声をかけてきた。


 「怖くねーよ!こんなもん大した事じゃ」

 「わっ!!!!」

 「ひぃ!!!」

 ルルが俺に向かって話している最中に、驚かしてきたが、驚いたのは予想外にもアリーシャだった。


 「何で、アリーシャなのよー」

 「べ、別に怖くて声を上げた訳じゃないもん!」

 「お化け屋敷でもない限り、怖くねーよ、俺は」

 「おばけ、ん?聞いた事無いけど怖そうなそれは何のことを言ってるの、ショウ?」

 「あー、いや、聞かなかった事にしてくれ」

 「うん....」


 アリーシャがびびりながら俺に聞いてきたが、俺からするとここは異世界なので、あるはずもないと思い、言うのをやめた。


 すると。


 「ねえびびりながら俺に聞いてきたこれ、早く来て!」


 話している間にレイリがかなり先に行っていた。そして、何か見つけたみたいだ。


 「なんだよ、どうした?」

 慌てて追いつき、声をかけると、


 「これを見てよ」

 「ん?」


 レイリが指差しているものを見ると、


 「青い....なー」

 「もっと驚くべきなんじゃないの!?これって言われてたアスル鉱石じゃない?」


 確かに、青い。でも....。

 「アスル鉱石ってのは十層にあるんじゃないのか?こんなまだ二層のところにあるのは不自然じゃないか?」

 「た、確かに....」

 「でも!やっぱり青いしわからないから一様、採っておかない?」


 レイリの諦めきれない思いも強いし、採って損は無いし、いいか!


 「そうだな。採っておくとするか」

 「うん!そうするべきだよ!」

 意見が通じたからか、かなり嬉しそうに青い鉱石を採った。


 その後も、どれくらい採ればいいか、特に指定が無かったので、採れる限り採りつつ先へ進んでいった。そして、気が付くと三層に入っていた。そして、鉱石を採ったところでレイリが足を止めた。


 「あれ?」

 「どうした、レイリ?」

 「何か面白いものがいるんだけど、見てよ!」


 鉱石を採ったついでに見つけたのだろうか、指を差しながら声を上げた。


 「どれどれ」

 見てみると、これは虫だろうか。丸くくるまっているが小さいし、特に気にする程ではない。


 「こんなのはモンスターだとしても、相手するものじゃないだろ?」

 「うわっ!ちっちゃーい!でも、こんなのと相手してもね....。確かにショウの言う通りだよ」


 ルルが予想外の小ささに驚いたが、俺と同意見の事を言ってくれた。

 レイリとアリーシャもこれには納得したか、先へ行く事にした。


 レイリがその虫を見つけてから、同じ虫を見かけるようになった。逆に、何か気持ち悪い気もする。


 三層も終わりを迎える所で、足を止めた。


 「ここで分かれ道か....」

 「どうする?ショウ」

 レイリが聞いてきたが、


 「特に手がかりとかは無かったもんなー」

 「せっかく四人いるし、二手に分かれて確かめてみるか?」


 良い案だと思うんだが、

 「えー!それは不安だから嫌だよ!」

 またもルルが妨げてきた....。


 「じゃあ、何か考えがあるのか?」

 「んー、どっちかをショウがちょっと確認して、片方が違ったらもう片方なんじゃない?」

 「いや....まあ」

 呟きながら、レイリに意見を求めるようにと目を向けたが、レイリは諦めたような顔つきで、


 「ショウ....、ごめんだけど付き合ってあげて」

 「し、しゃあないな!!少しだけ確認していくだけだからな!」

 「よろしくー!」


 自分の意見が通ったからか、うれしそうにルルが軽く返してきた。


 「じゃあ、少しだけ左を確認してくるからー」

 少しため息を付いて、早めに終わらせたかったのですぐに向かった。


 左の通路を確認すると、行き止まりで、その道中にも特に問題は無かった。レイリ達のいる所まで戻るか。


 「こっちは、行き止まりだったぞー。特に問題は無かったし、右じゃない....か?」

 「どうしたの?」


 レイリ達の姿が見えた所で、戻りながら話しかけていたが、少し違和感を感じた。


 「レイリ達の後ろの方、あんなに曇っていたか?」

 そう言われ、三人は後ろを確認した。


 「確かに....。こんなに曇ってて、ほとんど何も見えないじゃん!」

 「こんな感じだったの....かな?先を急ぐか?」

 「そうね。行こう!」


 レイリと少し話し合って、アリーシャとルルに呼びかけようとしたが、


 「待って!」

 アリーシャが何かに気づいたかのように大きな声で呼びかけた。


 「どうした?アリーシャ」

 「何か、音がする」


 アリーシャからそう言われ、少し耳を澄ましてみると....。


 ゴゴゴゴゴゴ....。


 確かに音がするが、これは何の音だ?しかも、これはどこからの音だ?


 疑問を抱え、先程以上に耳を澄ましていく。すると....。


 「後ろか?」

 「後ろ?」

 「曇っている方からな気がする」


 そう言って、俺らはまた、元々進んでいた方を見ると、


 ドドドドドド。


 「ん?」

 音が大きくなっている気がする。何か、向かってきているのか?

 

 確認したいので、音のする方へ向かっていった。


 その時、

 何も見えない所から、急に巨大な黒い砲丸みたいなものが凄い勢いで迫ってきた。


 「うわ!!」

 「な、何だ!?このデカブツは!」


 そう慌てていると、

 「ん?」


 それとは正反対にアリーシャが迫ってきている物体を見つめている。


 そして、


 「あれって、さっきお姉ちゃんが見つけた虫に似てない?」

 「う、嘘!?でも私が見たのはあんなのよりめちゃくちゃ小さかったよ?」

 「それより、コイツどうするよ!」


 なんでそんな落ち着いた口調でいるのかわからず怒鳴ってしまった。

 でも、そうしている間にどんどん迫ってくる。どうにかしないといけない。


 今、俺が習得した技でどうにかできるだろうか。

 自分が入れた技を思い出し、考えをめぐらせる。そうだ!


 「これしか、思い付かん!」

 「何するの?」

 「良い事思い付いた!できるかわからないけどやってみる!」


 レイリの疑問に必死に答えた。



 「よし!少しは良い事をやってやる!」

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