2章②

 シャールとティアとの模擬戦は無事終了。

 模擬戦が終わったというのに2人の熱を帯びた吐息に身の危険を感じるが、さすがは獣人の国の元王女と元王女に忠誠を誓う専属侍女と言うべきか、2人とも冷静に汗を流しに行った。

 …まぁ後で聞いた話だと2人とも水風呂にダイブしたらしい。

 ララクト家の長女なアリスがニヤニヤしつつ報告してきた。アリスも身重なため安静を心掛けてるせいか娯楽に飢えているらしく、こういう実家の侍女たちからの噂が彼女の娯楽になっているようだ。

 本来貴族令嬢やその侍女があからさまに他国の王族相手にこういう事をするのはNGだと思うのだけど、シャールも今はモザルダム子爵家の令嬢であり、アリスが俺の正妻という立場を受け入れている。つまり今は正妻による側妻の採点が行われているようなものなのだろう。シャールもティアも気にしている様子は全くない。なんならティアは強かにも自身やシャールの情報とララクト家の―というよりも俺や俺の妻・婚約者たちの情報を交換し集めている。その中には俺のやらかし―朝方の侍女たちによるの件なども含まれていてまた顔を赤くして水風呂にダイブする羽目になったとか…。

 穴があったら入りたいというのはこういう事だろう。変な意味じゃなく。


 1週間もするとアリスたちとシャールたちとの別に敵対していた訳でもない情報戦も落ち着き、普通に仲良くなった。

 敵対していたどころか楽しんですらいたようであっという間だったな。

 まぁそんな事に時間を使う余裕もなくなったというのも正しいのだけど…。


 昨日ラークさんの下に王家から連絡が届いた。

 それは全貴族家への通達で『王太子ならびにヴァーネス公爵家当主アルバースの婚姻の儀を王都にて行う。』というもの。

 時期は2ヶ月後。

 はっきり言って王族の婚姻の儀―結婚式の通達としては時間に余裕がない。

 今頃各貴族家は大慌てだろう。

 なんなら目の前にいるアルバース様の婚約者―リーチェ=クレファス嬢とマリエッタ=ガーレンバルザ嬢も寝耳に水状態で通達を聞いた当初は唖然としていた。ただ、急な連絡になるであろう事は事前に王妃様から言われており、結婚式と披露宴のドレスはすでに最後の微調整を残すのみになっているから問題はないそう。


 「おそらくだが…急な通達になったのはベベル帝国とのやりとりのせいだろう。」

 ラークさんが通達を知らせた後にそう言った。

 なんでも〝ブルーピュリティウム〟を得た王家は最近ベベル帝国との水面下での交渉をしていたらしい。その事自体は〝ブルーピュリティウム〟の育成確認のためにラークさんと情報交換していた国王陛下から聞いていたそうな。

 そして今回の全貴族への通達直後にラークさんに個別で『〝ブルーピュリティウム〟を王都へ運んでくれ』と依頼があった。

 「おそらくだが、今回の婚姻の儀の後の披露宴にはベベル帝国…皇太子が参加してくるだろう。」

 「〝最低でも〟、ね。貴方は皇帝が出てくると思っているのではなくて?」というリステラさんの問いかけにラークさんは無言で答える。

 「もう身内同然の者しかいないのだからはっきり言えばいいのに。」とリステラさんは軽いため息をく。

 「…戦争のせいね? この人も内心思うところがあるのでしょう。ベベル帝国との戦争ではグルバルト様のおかげで勝利しましたが、それまでに多くの知人を亡くしているから…。陛下もその事は分かっておられるから『〝ブルーピュリティウム〟を運んでくれ』とだけおっしゃったのでしょう。2ヶ月という準備期間の短い異例の通達は―それほどベベル帝国側が急いでいるからかも知れないわね。…気持ちは分かりますが折り合いをつけて下さいな。〝ブルーピュリティウム〟がある以上、ベベル帝国との和解を貴方が知っている事は披露宴の時になれば皆の知るところになります。その時に感情を乱さないこと、それがララクト家の当主に求められるのは分かっておられますね?」

 リステラさんの言葉に、ラークさんは静かに頷いた。



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次回更新は5月14日(水)の8時予定です!

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