1章④
起きたら辺りは暗い。ここどこだろ?
何かの毛皮の上に寝ていたみたい。お母さんのじゃない。
あぁ、そうだった…。お母さんは死んじゃったし、兄妹も恐らく死んだんだ。思い出すと思わず「みぃ…」と鳴いてしまう。
ここはあのお爺さんの家なんだろうか?暗いけど外からかすかに光が差し込んでいる。僕の寝ていた籠の前から少しだけお母さんのお乳に近い匂いがする。近づいてみると何かのお乳のようだ。お皿に注いであるってことは、飲んでも怒られないよね?
お腹がすいていたからあっという間に飲んでしまい、お腹が膨れるとまた眠くなってきた。まだ夜みたいだから、もう一度寝てしまおう。おやすみなさい…。
明るさで目が覚めた。もう朝のようで、起きるとお婆さんがこちらをのぞき込んでいた。
「あら、起きたみたいね。ミルクは美味しかった?」
夜に飲んだミルクはこのお婆さんが準備してくれたみたいだ。
「みぃー!(おいしかったよー!)」と言ってみると嬉しそうに「そう。」と笑ってくれた。
本当はきちんと挨拶するために近寄っていくべきなんだろうけど、ミルクのことを思い出すとおトイレに行きたくなってきた…。元人間としてお家の中でのおもらしはしたくない(涙)。
抱きかかえようとするお婆さんの手をすり抜けると、お婆さんの『がーん…』って効果音が聞こえそうな顔を横目に扉らしきものの方へダッシュする!もちろん扉は開いてないけど、とりあえずそちらに走る!外に出たいとわかってくれればお婆さんが明けてくれるかもしれないしね。そして運は僕に味方してくれたらしい!お爺さんがタイミングよく入ってきた上、出るとすぐに外みたいだ。
入ってきたお爺さんはたぶん自分を見つけて近寄ってきたと思ったんだろう…。「おぉ、起きたか!」と嬉しそうに抱きかかえようとしてくるけど、それも避け、ついでに股の間を通り抜けて外へ!通り抜ける瞬間にチラッと見たお爺さんの顔が『えっ…』って感じで固まっていたけど、心の中でお婆さんとお爺さんに謝っておく。
外に出てすぐにしたんじゃ、結局玄関前ですることになっちゃうから、出たらすぐに何にもない右へ曲がる。間に合った……。
(少々お待ちください……………)
お爺さんもお婆さんもすぐに追いかけてきたけど、止まっている僕を抱きかかえる前に気づいてくれました…。惨事がぎりぎり回避されてよかった。
改めてお家の中に入り、二人に助けてくれたりご飯をくれたりした感謝を伝えたくて、二人が伸ばしてきた手に顔をこすりつけます。
「みぃ~~(お爺さん、お婆さんありがとう!)」
二人は嬉しそうに頭をなでてくれたり、顎の下や首をカリカリしてくれたり、……気持ちいいね!猫にとってこんな感じだと経験できたのは新鮮な気分だよ。
お爺さんもお婆さんもだいたい60歳くらいかなぁ。お爺さんは白髪交じりのグレーの髪に濃い緑の目、お婆さんはくすんだ金髪に青みがかった目って感じ。お爺さんは筋肉質で二人とも痩せてるわけでも太ってるわけでもないし、腰だってまっすぐだ。二人の背の高さは今の僕じゃ大きいってことしかわかんない。
お婆さんとお爺さんは僕の首をカリカリとしたりなでたりしながら話をしています。僕は気持ちよくてよくて聞き流しそうになったけど、ちゃんと聞いてたよ。
「いきなり走り出して外に出ていったときはびっくりしたけど、自分で外で排泄するなんて賢い子ね。」
「まったくじゃな。
二人が話していることから、僕をこの家に住ませてくれるみたい。というか、住ませてください!お願いします!
それから追い出されることもなく、朝ご飯に昨日と同じミルク(山羊のミルクらしい)をもらった。
僕がミルクを飲んでいる間に、お爺さんが「この子の名前を決めんといかんな?」と言い始めました。そしたらお婆さんが、「あぁ、もう決めてありますよ?」と言いました。お爺さんも僕も初耳だ!二人(一人と一匹)は『えっ?』って感じで固まっちゃったよ。
「この子の名前はコハクよ。昔あなたがくれたのを覚えてる?」
話を聞くに、お爺さんが昔見つけた琥珀(?)をお婆さんにプレゼントしたことがあるそうです。お爺さんやるね!その琥珀と僕の瞳の色がそっくりだそうで、僕が起きたときにそれに気づいて決めていたって。なんか照れます(笑)。 お爺さんもそんな昔のことを持ち出されて顔を赤くして照れてそっぽ向いてる。お婆さんはそれを見て笑っている。
なんかこういう夫婦羨ましい…。将来こんな夫婦になれるような奥さんが欲しいです。
こうして僕は本当の家族を失い、拾ってくれたお爺さんとお婆さんが新しい家族になってくれました。
まだまだお母さんや兄妹たちを亡くしたことから気持ちは切り替えられないけど、みんなの分まで、新しい家族の下で生きてみようと思います…。
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