1章②

 初の狩り成功から次もうまくいくと思ってたけど甘かった。次の日も、その次の日も失敗。

バッタ、カマキリ速すぎです(涙)。

 初日はたまたまうまくいっただけだと今は痛感している。子猫に捕まえられる速さではないよ…。あのカマキリは運動音痴だったのかもね。

 2日連続の失敗から見つけられれば確実に捕まえられるものを探すことにした。ようするに幼虫を探すことにした。というのも昨日失敗して帰る途中に気づいたんだけど、ここは森の中で、洞穴の近くに土の柔らかいところがある。

 なんで気づいたかって?バッタ追いかけてる途中でこけて顔面からダイブしたんだよ…。幼虫って栄養価の高いのがいるとか聞いたことがあるし探してみることにしたんだ。文字通り手探り…いや、足探りする。

 僕の前足じゃ時間はかかるけど、1匹見つかれば、その土は幼虫のいる土というなんだから期待が持てる。掘っているとミミズが出てきた。…さすがにこれは…あれ?僕の本能的な部分が食べれると言っている気がする…。咥えたくないけど…お母さんのため…。…ヌルって…ムニョって…(涙)。

 結果…、お母さん食べてます。僕の苦労は報われた。そしてこれからはきっとミミズと幼虫を運ぶ日々になる気がする…。考えるのはやめよう…鬱になる…(涙)。


 それから1週間くらい経った。あの土の中はミミズがいっぱい、幼虫もいたよ。1日何往復もしてお母さんに運んでいると、兄妹もだいぶ動けるようになり手伝ってくれるようになった。面白がっているのかもしれない。無邪気にミミズや幼虫を咥えるけど何度も落としては咥えてを繰り返してる。周りを注意するのは僕の仕事。

 その甲斐あってかお母さんも痩せていたのが少し回復したような気がする。もちろん万全なはずはなく、動くようになったからか余計にまだ痩せているのが目立つようになった。でも僕たちが心配なんだろう。僕たちについてくるようになり、その場で幼虫とかを食べるようになった。

 このまま続ければお母さんは元気になる。


 …そう思って安心したのかもしれない、それが油断だった…。

 僕は後悔することになる。ここは森で、僕たちのように獲物を探す生き物がいることを忘れてはいけなかったんだ…。


 きっかけはお兄ちゃんと妹が少しだけ僕たちから離れたんだ。お母さんは気づいて連れ戻そうとしたんだと思う。まだ1メートルくらいしか離れてなかった。

 でも、空からの敵にはそれで十分だったんだ。

 2羽のカラスが急降下してきた。近づいてきたのに気づいたお母さんが走りだしたけど間に合わなかった。一瞬で捕まり連れ去られました。

 僕は何が起きたのか理解できませんでした。でも理解できずともすぐ逃げていれば、このあとのことは回避できていたかもしれない。

 カラスはもう1羽いた。狙いは僕で、お母さんはそれに気がつきました。僕はこちらに走ってくるお母さんを見てやっと気がついたけど、その時にはもう逃げる時間はなかった。僕はその瞬間絶望し諦めてしまったけど、お母さんが間に合いました。

 そこからはカラスとお母さんの戦いでした。激しい鳴き声と共にカラスの羽は舞い、お母さんからは血が流れていた。僕は震えながら見ていることしかできませんでした。

 時間にしてほんの5分くらいだったかもしれませんが、僕にはその何倍も長かったように感じました。逃げていくカラスとそれを見て力尽きて倒れるお母さん…。

 急いでお母さんに近寄ったけど、お母さんは「ゴロゴロ…」と喉を鳴らして僕を一舐めすると目を閉じてしまい、2度と目を覚ましませんでした。


 僕はこの日家族みんなを失ってしまいました。悲しくてずっと「みー、みー…」と鳴くことしかできませんでした…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る