第19話 この街での戦い
――街のあるところにて。
「ボスからの指示は?」
「今のところないです」
「どうなってる、公演はやったんじゃないのか」
街には俺たちと同じように貪欲の宝玉の冒険者が至るところにいる状態となっている。やることは貪欲の宝玉としての抑止とボスであるバリュー・ジャードがしくじった時に情報漏洩を防ぐ住人たちの襲撃だ。
残虐行為なのはわかっている。
だが、それが俺たちの仕事でもある。
やるしかない。やるしかないんだ――。
「さぁ、俺にもわからな――」
突然、俺と一緒に行動してたやつの声が途絶えた。
「ん? お前、どうしt――」
振り向いたら、既に武器を振り上げている男、二人がいた。見たところ、冒険者である。
しかしこの二人の冒険者は恐らく――。
「お前たちはこの街の――」
その時、頭に強い衝撃が伝わった。意識が遠のいていき、そのまま倒れ込む。
「……上手くいったな」
「あぁ、そうだな」
目の前で倒れている人たちを見ながら言った。
さっきの男が言った通り、俺たちはこの街の冒険者で、リーベ・ワシントン側の味方だ。この公園が始まるよりも少し前にリーベ・ワシントンとその友人たちがこの街を回っていた時に俺たちもその話を聞いた。
「あのリーベ・ワシントンから話を貰った時は驚いたよな」
「そうそう、わかる」
俺たち、この街の冒険者としてあの人は憧れの的でもある人も多い。
強さ、孤高としての存在、そして全属性使いとその多大な魔力――。
本人に伝わっているか、どうかわからないが、その姿を一目見たくて他の街から態々引っ越し、この街に来て、冒険者を始めた人もいる。
近寄りがたい人であり、人によっては目標の到達点でもある人だ。
だからこそ、安易に交流をしない冒険者だっている。
俺たちもその一族のようなものだった。
「まぁ、でも、断る理由とかないよな」
「……そうだな」
この街のピンチとか、その魔人族が可哀そうだとかそんなことは思っていない。
――あの冒険者、あのリーベ・ワシントン、尊敬する人が助けを出したのだ。助けない理由を探すことの方が逆に難しい。
これはあの人から貰ったこの街の冒険者のクエストだ――。
俺たちはいつものようにこなしていく。
そう、尊敬するあの人のように――。
「おい、次が来たみたいだぜ」
「そうだねぃ」
前方には貪欲の宝玉側の冒険者が二人いた。片方は両手で投げナイフを二本持っていて、もう一方は大斧を後ろに担いでいた。向こうの二人も中々な険しい表情をしていた。純粋な戦闘というかどこか殺意が込められているようなもので手慣れていたものを感じた。
事情はわからないが、何か人間としての底知れぬ闇のようなものがある気がした。
「こんにちは」
「……」「……」
二人の反応はなかった。
無視された。
「あっち側は挨拶もしないのか」
「こうはなりたくないものだな」
「来るぞ」
「はいよ」
俺たちはそれぞれ武器を手に取る。
「殺そうとするなよ、あの人からは気絶させて生かすようにって言われているから……」
「わかってる」
そんな少しの会話をした後に戦闘が始まった。
この街の至るところで武器と武器がぶつかり合う音がする。キンッ、キンッと立っているその音はお互いがお互いの信念と思想が和音として奏でられているようにも聞こえていた。
――深く呼吸をしていた。
耳を澄ますと、戦いの音がするのがわかる。
この街の家々が立ち並ぶところに俺、ダマン・スウォットはいた。
今日のコンデションも上出来だ。朝ごはんも食べたし、早起きだってした。
力が今日も俺の味方をしてくれている。
(……ボス、やるんだな)
この街の結界が崩壊したのをみた時にボスに異変が生じたことを察した。エレナやメグと比べたら少ないが、俺だって長くボスと共に過ごした。ボスの考えやこのような時のマインド的なものは少しはわかっている身であるつもりだ。これも日々の報告が身を実を結んだのだろう。
こういう時、ボスが一番恐れていることは外部に情報が流れることと混乱による組織の壊滅――。
(……ボス、やっていいんだな)
俺は自分の力を出すことが好きだ。
自分が今まで積み上げてきたのを実感することができるからだ。
普段は戦いの中で建物とかを壊したりしてしまうことがあるからボスの指示であまり力を出すことができない。
でも今はこういった非常事態だ。
ボスだってきっと許してくれるだろう。
――気が付くと俺は笑っていた。
「出て来い! この街の冒険者たちよ! 貪欲の宝玉の幹部、このダマンが相手をしてやる!」
俺の声に生じて、街のあちこちから冒険者が一人、また一人と集まってきた。全員で6、7、8人くらいだろうか。それぞれ片手剣、杖、大盾、槍など人それぞれの武器を手に取っていた。
拳を握る。
「行くぞ」
俺は向かってきた冒険者を次々と薙ぎ払っていった。体格差も相まって、基本的に有利な状況に運んでいった。
「喰らえ!」
片手剣を持ったやつがジャンプをして俺に斬りかかろうとしてきた。
「……」
「……ぐ」
そいつの斬撃は俺の籠手によって防がれた。
「甘い!」
俺は拳をくり出し、片手剣を吹っ飛ばした。片手剣を失った冒険者はその場に着地して留まってしまう。俺はそいつに力を込めて、腹に目掛けて殴りつけた。
「ガ……」
そいつは一言、そう言い、一瞬衝撃により目の色を失った後、街の奥へと吹っ飛んでいった。
建物が少し崩れて、地面にひびが入っても、戦い続け、気づけば誰も挑んでくる人がいなくなっていた。
辺りを見ると、地面や建物の瓦礫の上に寝そべっている冒険者たちの姿がそこにあった。
――なにより楽しかった。
無双した時の爽快感や戦ってくる時に出てくる高揚感も確かに心地よかったが、それよりも運動をするかのような力を引き出したかのような快感がとても嬉しかった。
ここの所、指示や戦闘補佐の役ばかりで単独の戦いがなかったので余計気持ちよく感じられた。
「さぁ! どうした! 俺はまだここにいるぞ!」
高らかに笑いながら俺は言った。声が少し響いただけで、やがて静まった。
「うん……? もう終わりか……? いや、あれは……」
前の方を見ると、こちら側に歩いてくる人が二人いた。一人は長い耳が特徴のエルフ族で弓矢を持っていた。もう一人は獣耳をしている獣人族で武道家用の手袋をしていた。
「お前らはリーベ・ワシントンのとこの」
「正確には、アリスのパーティのところだけどね」
「……」ウンウン
「ルナ・ピエーナとコハク・アルブムだな」
「あれ? 名前知ってたんですか?」
「当然だ。戦いにおいて、情報は必須だからな。お前たちのことは部下から貰った情報でチェック済だ」
(この人、私たちのこと知ってくれてたんだ)
私たち、アリスのパーティは冒険者の中ではそれほど有名というわけじゃない。というよりも冒険者パーティ自体が埋もれるくらいとても多いから、ちゃんとした交流がなければ、基本的に他人扱いだったりする。
だからこの街で対人でのなんらかの勝負になった時、お互いに初見での対戦ということになることが意外と多かったりする。
それに加え、この街にはリーベ・ワシントンという上玉がいる。これによってさらに目立たなくなるのだ。
でもこの人は違う。
今回が特別ってことも考えたが、この感じ、普段から情報を大切しているような感じだ。
この人は強い。今のでわかった。
この人は力だけじゃなくて、他のことも大切している丁寧さがある。
「さすが幹部さんですね。ここまで成れたのが実力だってことがハッキリとわかります」
「運が良かっただけだ」
謙遜も出来るんだ! この人、人間として完璧じゃん! と不意に思ってしまった。
汗が頭から頬につたってきたことに気づく。久しぶりに緊張しているみたいだった。強敵の魔物と戦う前に感じる武者震いのようなそんな感じ。予想を軽く超えてくる者との対峙。
――これは勝てるかな……。
不安の気持ちが募る中、左の方から服を少し引っ張られるような感覚がした。
コハクがこちらを見ていた。どうやら私の様子を伺っているようだった。
「コハク……どうしたの……?」
「……」ジー
コハクは私のことをしばらく見た後、手を後ろの方にやり背中を思いっきり叩いてきた。
「痛っ!!」
めっちゃ痛かった。痛すぎて声が出たくらいだった。ダマンも「え、今、叩いた?」って困惑しながら言っていた。
「も~コハク~! 何すんの~!」
「……!!」グッ
コハクは両手をガッチリと握りしめるポーズをとって私に見せてきた。それはどこか力強く感じられて、さっきまで感じてた不安が消えていくと同時に安心させるようなものが確かにあった。
コハクは凄いなぁ――。
「コハク……ありがとう、コハクなりに気合を入れてくれたのね」
「……!」ニコッ
コハクは明るくそして輝く笑ってみせて、一緒にダマンの方を見た。
「ごめんなさい。遅くなりましたね」
「大丈夫だ。ちょうどこっちも温まってきたところだ」
「ふふ、ありがとうございます」
弓を前に持ってくる、矢を取り出す。
コハクも手を握りしめ、拳を作り出す。
ダマンはボキボキと拳を鳴らしていた。
「私もね、情報は大切にしているの」
「そうか」
「でもね、あなたとはちょっと違う。私の場合はね、情報が好きなの」
矢を放った。
真っ直ぐと進んでいった風属性の纏った矢はダマンに目掛けていったが、ダマンはサッと避けた。
瞬時、ダマンはこちらに距離を詰めてくるが、コハクも同じように距離を詰める。
コハクとダマンの近距離戦が始まった。
体格差をものともしないくらい平等性のある戦いをしていた。
この戦いはどちらがより多くのことを知っているかの戦いになる。
そんなことを予感しながら、私は次の矢を取り出した。
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