第17話 並ぶ二人
「……リーベ・ワシントン」
俺は深く息を吸った。この状況がどのようにでき、どのようなことがあって今に行きついたのか、なんとなくわかったからだ。
もし、俺が逆の立場であれば、絶対にしない選択だとも思った。
それは貪欲の宝玉のボスとして務めてきたノウハウのようなものがあるから言えるかもしれないが、だとしてもやっぱり非効率であり、それよりもリスクがデカすぎるからだ。
(……リーベ・ワシントン、お前は自分を使って、この街の全ての住人を味方につけやがったんだな)
目の前を見ても、再度俺のことを非難する声やテールの開放を強く言い出す声が溢れかえっていた。
31人しか来なかったのも、俺とリーベ・ワシントンとの戦闘から被害に遭う可能性を無くすため。
逆に今、ここにいる31人は——。
(俺を騙すための策略か、それとも俺に対して文句を言いに来た連中)
「ボス! ボス! あの~! まだ私に石が飛んできて~! あっ、危ない~!!」
「メグ! 一旦、下がれ!」
俺の命令を聞き入れ、すぐさまメグは俺の後ろに下がった。31人の怒号が飛び交う中、ここからの説得は最早無意味、いや目の前にいるあの強者はそんなこともさせない程、もう仕込んで来たのだろう。
この人、いや、この街を自分サイドに引き入れるのは不可能だ。
——でもそれはこの作戦内での話ってだけだ。
「メグ!」
「あぁ……はいぃい! ボスゥ!!」
「作戦は失敗した。次のやつに移行する。準備は良いか?」
俺がそう言うと、メグは驚いた顔をしながら、すぐに服や頭を手で払って改めて両手で杖を持ち始めた。
「えっと、はい! 準備、大丈夫です!」
メグはそう言った後、俺からさらに後ろに行き、距離を取った。十分に取ったことを確認すると、メグは杖に自身の魔力を注ぎ込め始めた。すると、メグが立っていた所を中心とし、水色に光り輝く魔法陣が展開された。その大きさは中心に立っているメグが小さく、この広場の一部を覆い隠すくらいで、徐々に広げていった。
「うぅ~! これで、お願いします~!」
メグのなりの掛け声が響いた後、杖と魔法陣が一瞬だけ強く光輝き出した。
みんなが同様している中、いち早く、私はこの街の変化について気づいた。
「なんだ何も起きてないぞ!」
「何をしたんだ」
「え、なに? なに?」
ざわざわとする声が聞こえきて、時々、リーベ・ワシントンの方に視線をやる人も出て来た。メグの魔法は成功させたのだなと俺の中で確信する。
「ボス!」
「あぁ、わかってる、上出来だ」
メグにそう言い、俺は足元に落ちていた広場の小さな欠片のような小石を広い、自分の魔力を込めた。
「お集まりのみなさん! ぜひ私に注目してください!」
俺は目の前にいる人たちの視線が集まったことを確認し、手に持っていた魔力の籠った小石を上空に目掛けて投げだした。
小石が上空へ獲物を狩る鳥の魔物ような速さで高く、高く、より高く上がり、まだ十分に見える位置で、静止した。
まだこの青く広がる空に吸い込まれるように飛距離を伸ばすかと思われたが、ある時点を境に減速もせずに急に動きがなくなった。動きがなくなったというか、小石が自体から速度が失ったじゃなくて、何かに衝突した反発で速度と魔力が消費されていったような感じだった。その後、上空で速度を失った小石は、重力に従うように広場まで落下した。
「この街の外側全体に結界を張りました。これでこの街から出られないし、外からも干渉されることもない」
メグが展開した結界は、強度、範囲、共に申し分のない出来栄えだった。これ程の規模で魔力を多く消費されたはずなのにメグはまだまだ動ける様子でもあった。
「貪欲の宝玉はこれより、この街の人たちを気絶させ、ギルドを買収、そして俺たちの街のギルドに渡し、俺たちの街の発展させる」
周囲がざわめく中、俺は話したいことを話した。あの魔人族もこちらの方を向いていた。俺は受けた依頼は必ず成功させる。いいか、戦術はボードゲームのようなものだ。如何に自分の有利な局面に持っていくために、配置させ完成させることこそが重要なんだ。その場面が俺の中で今、完成しつつある。
俺は奥でまだ静かに立っているだろう、リーベ・ワシントンの方を見て、言葉を投げかける。
「そういうことだ、リーベ・ワシントン。悪く思うなよ、この勝負、勝たせてもらう」
いくらリーベ・ワシントンでさえ、この街の住人全てを守りながら、俺たちと戦うのは流石に無理だろう。障害となっているものが多すぎる。この街の家、壁、道、人を守りながら、俺たちの部隊とも渡り歩かなければならない。俺たちの部隊だって、元は冒険者なんだから、簡単には倒されることもない。その上で俺たち幹部やボスである俺とも戦わなければならない。
(——この場面、俺が貰った)
俺は、腰についてある片手剣を抜こうとし、構えを取る。
(まず始めに目の前にいる、こいつらから……)
——キシッ。
それはガラスやコップに亀裂が入り始めたものと同じような音だった。
——キシッキシキシッ。
その音は段々と連続して発せられ、一部分だけではなく、いくつかの方向から次々と聞こえていった。
何かが割れ始めている——。
直感。
俺は音の鳴る方に耳を澄ませ、視線を向ける。
「あれは……」
俺が見た先に、メグが展開させた結界にひび割れのようなものあった。その亀裂のようなものは時間が経つにつれてキシッキシッと少しずつ広がっていった。
その亀裂は、少しずつ早く、また広く広がっていき——。
ガシャーン——。
メグが展開した結界は5分も経たずに完全に崩壊した。
俺はメグが展開した結界の破片が少しずつ降っていき、次第に魔力がなくなると共に自ら消えていく光景をジッと見つめていた。
俺はメグの方を見る。
すると、メグもメグで何があったのか、状況が上手く呑み込めないような様子で慌てていた。
メグがミスをしていないということはわかった。
環境が特段悪かったというわけでもない。
「ということは……まさか……」
俺は未だ何一つ言葉を発していない、この街、最強の冒険者の方を視線を向ける。
(いや、待て、これは本当に彼奴がやったことなのか?)
ふと、俺の中でそんな疑問が浮かんだ。
俺だって、結構な場数と経験というものを長く積んで、触れて来た方だと思っている。
そんな俺が奴の程の魔力を探知出来ないわけない。
戦略、戦闘、ステータス、環境の要因——。
自分が自分自身が勝利を組み立てるには、それらの要因が必ずどこかで絡んで来るということは過ごしていく内に自然と学んでいた。
——だからこそ、考えた。
今回のこの計画を立てている時に一番の障害になると思ったのは間違いなくあの冒険者だった。そのためにあの冒険者がどのような場面で来て、どのように行動するか、ということを一から考え、実際に今日までの行動に移してきた。
しかしあの彼奴は何かしたような素振りを一切見せていない。というかさっきから一歩も動いていない。
では、あの魔人族が——。
俺は檻の方に目をやると、その魔人族も、もの珍しそうに空を見上げていた。どうやら、こいつも関係がないようだ。
周囲が困惑の空間に包まれている中、その勢いに飲み込まれないように俺は再びあの冒険者の方に体を向けた。
◇◇◇
(……上手くいったみたいね)
私はさっきの魔法使いの子が展開した魔法陣が崩壊して、その欠片たちがゆっくりと消えてなくなっていく光景を見ていた。
この数日間、激動とも言えるようなことばかりの日々だったけど、それでも今はこっち側が有利に立とうとしていると感じた。
バリューの近くにあった檻に目をやる。
(テール……)
あの檻の中にテールがいる。私のせいで捕まってしまったテールがあの中にいる。
(テール……大丈夫かな、暑くなったり、お腹とか空いてないかな……)
私はテールのことを心配して両手剣を強く握った。
(待ってて、テールあと少しだから……)
崩れ、消えていく結界が見えるこの広場の中で、私はフィシの言ったことを思い返す。
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