SHR-2
とりあえず水を喉に通した。
喉は渇いていなくとも、これから目にする現実に受け入れられるように。
カラン、と軽く氷が鳴っても、水が尽きても、見開いた眼が渇こうとも、部屋の冷房が効きすぎても、ぼくらの興奮は収まる事はない。
今がようやく始まりに立てたのだから。
中学生の卒業式が終わって十年経った、今日から、だ。
静かな宴会場で大きく息を吸い上げる音が響く。
部屋は嫌になるほど、一気に静まり返っていた。
テーブルの上で息を荒げて泣きじゃくるクラス担任を担った女の姿がクラスメイトの目に焼き付いていく。ずっと視線で何かを訴えているが何も知らない。
恐らく彼らのことを祝ってくれているのだ。これは勝手な憶測でしかないが。
しかし、目は口ほど……というが何も伝わらなければ意味は無い。担任が何を思っていても彼らは何も分からない。
いつものように指示棒を振り回せればいいのに。教卓の上で楽しそうに振り回す姿は滑稽だったけども。
「ゴホン」委員長は大きく咳払いをした。
「3年B組、出席を取りまーぁす」
「はい」
クラスメイトは大きく返事をした。あの時の卒業式の点呼の時のように。
「新井遠澄」
「あのとき死にました」
「石原貴理」
「クソ苦手だった。石原いるだけで教室の空気悪くなってさぁ……。まぁ、死んだけど」
「稲垣ひより」
「はい」
「遠藤唯」
「はい」
「大江光介」
「ノイローゼになっちゃったんだって。お母さんとお父さんが可哀想〜」
「片岡有希」
「あー死んだんじゃない?」
「金輪瑠璃」
「はい」
「小池律子」
「可哀想に。死んじゃった」
「佐久間玲奈」
「死んだよ、嫌いだったから嬉しかったなあ」
「白瀬義行」
「はい」
「関根芳絵」
「誰? 名前聞いても思い出せなくなっちゃった」
「千田翔馬」
「はい」
「田村可奈美」
「家で首吊ってたらしいよ」
「富山暁人」
「死んじゃった」
「中澤青花」
「こんなやついたっけ?」
「野井亜美」
「苦手だった。薄ら笑いのブス野井」
「橋本雄吾」
「はい」
「日口梓弥」
「死んだよ、でも仕方ないことだったんだよ」
「古田哲」
「死んだっけ? こいつも…」
「真城芽衣」
「メイ死ぬ間際もぶりっ子だったなぁ。あは」
「宮村亮太」
「……」
「森まりな」
「はい」
「山崎椿」
「イインチョーダー」
「吉川遥菜」
「屋上で飛び降りました、が。屋上から落ちても死にきれなかったから今病院にずっといます」
全ての名前が言い終わり、委員長は大きく息を吐いた。
「はい。これで点呼を終わります。皆、今日も楽しく一緒に過ごしましょう」
「はい。委員長」全員の声が揃う。
机の上に縛られた担任の顔は、真っ青になっていた。
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