第22話 イベントフラグは突然に
セバスチャンにもしかしてもらえなかった日から数日後。
すっかり元気になった私は、平穏な学園生活を満喫……できていなかった。
まず、双子王子たちがしつこい。右を逃げれば左から出没するという謎の双子フットワークにはさすがに疲れた。
ルーちゃんと一緒の時ならば女王様モードのルーちゃんが鞭を唸らせお仕置きしてくれるし、私が多少殴っても(メリケンサックつき)ドS
王子は「ルチアに毒されてるようだが、すぐに俺のために涙を流させてやる」とか訳のわからないことをほざき出し、ドM王子は「ありがとうございますっ!」と感謝してくる始末だ。(とにかく気持ち悪い)もちろんセバスチャンが害虫駆除してくれてるので触られたりすることもないのだが……。
厄介なのは隣国の色黒王子である。ことあるごとに私を指名しようとするし、学年が違うから教室にはこないだろうと思っていたが休み時間ごとに髭フサハゲのおじさんが私を呼び出しに来るのだ。(せめてそこは自分で足を運ぶところではないのか?!)
色黒王子とは教室が離れてるので往復だけで休み時間がつぶれてしまう。それにそんなことしたら、まるで私がひと目会いたくて教室に通ってるみたいじゃないか。でも断り続けると今度は教師たちが揃って頭を下げて頼みに来るのだ。
これ以上あの王子の機嫌が悪くなるとクビにされるとか、あっちの王族に告げ口でもされたら学園が潰されるとか。さすがに教頭的な人に泣きながら土下座して頼まれては断りきれなかった。
なので、週に2回昼休みに挨拶だけしに行く。という条件で了承することになった。(もちろんセバスチャン付き)
この事を知り、ルーちゃんが死にそうな顔で謝ってきた。双子王子なら婚約者候補である自分の特権を使って8割殺せるが(ギリギリ生きてる)、さすがに隣国の王子に自国の王子の婚約者候補が鞭など使ったらそれこそ国際問題に発展しかねないので、止めたくても止められないのだ。色黒王子と面会した私が倒れて熱まで出したと知っているルーちゃんは、私がどれだけあの色黒王子を気持ち悪がっているかよく知っている。
「わたくし、親友のために何も出来なくてこんなに悔しいことはありませんわ……」
「そんなことないよ!あの双子王子を生き埋めにしてくれただけですごく感謝してるよ!」
ちなみに現在友情を確かめあっている私たちの足元には目を回して首から下が土に埋まっている王子の頭が2つならんでいる。セバスチャンがその横に“餌を与えないで下さい”と書かれた看板を置いていた。
「とりあえず、挨拶だけして早く戻ってくるね!そしたら一緒にお昼ご飯食べよう」
「お待ちしてますわね」
最近のルーちゃんはツンよりデレが格段に多い。双子王子のせいで女王様モードにばかりなっているせいでツンツンしてる暇が無いのかもしれないが、デレのルーちゃんもとても可愛らしいので私的には問題なしだ!
ルーちゃんと別れて色黒王子の教室へと足を向けるが足取りは重い。いくら教師たちのお願いとはいえ、なんで私がこんなことをしなければならないのか……。これが、大好きで会いたい人が相手ならスキップしながら毎日通うんだけど――――。
そこまで考えてピタッと足が止まる。
「アイリ様?」
急に動かなくなった私の顔をセバスチャンが覗き込むが、私は黙ったままになってしまった。
……すっかり忘れてた。これって、色黒王子攻略のためのフラグイベントじゃないか……っ!
本来のゲームでは、色黒王子ルートを選んだヒロインはお出迎えをして幼い時に出会っていた色黒王子の事を思い出し、自分のために隣国一番のムキムキマッチョになった色黒王子に感激する。(この時「こんなマッチョ生まれて初めて♥️」の選択肢を選ぶと色黒王子の好感度が鰻登りに上がってしまう)
そしてルート攻略するには、色黒王子の姿をひと目見るためにと、毎日遠く離れた教室にそれはもう通いまくるしかない。
確か1か月後くらいに全校生徒交流ダンスパーティーが開催されるのだが、それまでにどれだけ色黒王子の所へ通い続けたかでパーティーの相手に選ばれるかどうかが決まってしまうのである。
攻略サイトによると、通い度数95~100%なら通い妻の称号を獲得して色黒王子本人からダンスパーティーに誘われる。50~94%なら髭フサハゲおじさんが「王子のお相手を勤めるように」とか言いに来るのだ。
それ以下だと、誰も相手がおらずパーティー会場でひとりぽつんとしているヒロインに同情した色黒王子がしょうがなく踊ってくれたりくれなかったりと、色々あるらしいのだが……。
絶対にこれ、そのダンスパーティーの相手に選ばれるための通いイベントだ…………。と私は一気に疲れを感じた。
本来のルートのヒロインならば嬉々として通うのだろうが(“通う”の項目を選んで押しまくるだけで毎日5回まで通えるので適当にポチポチ押しても成功するのだが)、私の選んだ週2回昼休みだけ。これは何%の通い度数になるのだろうか?
出来れば0%(いっそマイナスになりたい)にしたいが教師たちとの約束があるので無理だし、せめて10%以下ならパーティー会場で目が合うも無視される。になるかもしれない。
「……絶対にあの色黒王子に嫌われてやるわ!」
私が決意も新たにそう叫ぶと、セバスチャンはにっこり執事スマイルを見せてくれた。
今度こそ色黒王子のフラグを木っ端微塵にしてやる!そして恋愛イベント回避だ!!
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