第13話 ラスボスと対峙するヒロインの華麗なる闘い方
「きゅいっきゅいきゅい」
コウモリの、なんか抗議する風な鳴き声にはっと我に返る。しまった!つい本能のままに心の声が出てしまっていた。
慌てて視線を向ければ、吸血鬼様はポカンとした顔で私を見ていた。ナニコレ!こんな表情初めて見た!ポカン顔まで格好いいなんて反則技だ!
「あ、違いました!えーとえーと。じゃあ私のペットになってください!」
『さっきと同じだろ?!いや、さらに酷いぞ!!』
なんてこった、吸血鬼様にツッコミされた。幸せ過ぎる。
「私は吸血鬼様を360度各方面から舐め回すように見回して、おはようからおやすみまで永遠にそのお顔を眺めていたいだけです!
お望みでしたらお食事からお風呂や下の世話までする覚悟できました!」
『年頃の娘がなにを血迷っているんだ?!』
「私は本気です!なんなら生まれ変わる前から本気です!吸血鬼様一筋で前世から生きてきました!ぜひ私に飼われてください!」
『なんでペットなんだ!そこは普通、結婚してくれとか言うところだろ?!』
吸血鬼様の言葉に思わず頬が熱くなる。
「えっ……結婚してくれるんですか?うれしい!お受けします!」
『え?!いや、今のは言葉のあやで……』
私は目を潤ませ、両手で顔を覆った。(泣き真似)
「酷い……!プロポーズなんて生まれて初めてだったのに、嘘だったなんて、もうお嫁にいけないっ!」
泣き崩れる(嘘泣き)私を前に吸血鬼様があたふたと慌て出した。慌て顔も素敵過ぎる。
「きゅいきゅいっ」
おっと、なんてこった。吸血鬼様にコウモリがなにやら怒っているじゃないか。
『いや、だから、それはこの娘が……』
「きゅいっきゅいきゅい」
『え?!責任って俺様は……その』
「きゅいきゅいっきゅいっ」
『だからそれはだな』
なにか言い争っているようだ。(たぶん吸血鬼様が劣勢)私は指の隙間から、チラリと吸血鬼様を見る。
「……私がお嫌いですか?」
『えー、だから、そういうことじゃなくてだな。お前はわからないだろうがその……』
吸血鬼様がなにか言いにくそうに悩み出した。でも別に私を嫌いとかではないらしいのでセーフだ。(私のペット発言もギリギリセーフだと思われる)
「嫌いじゃないなら、結婚してくれますか?」
『は?!』
「私はプロポーズをお受けして了承してしまいましたのでこれは婚約したと言うことです。それを覆されるとなると婚約破棄されたことになり、私は傷物になってしまうのでもうどこにもお嫁に行けませんし、吸血鬼様にお嫁に貰っていただかないとこのままいかず後家ですね。まだうら若き15歳なのに将来に夢も希望も無くこのまま一生独身のまま……」
『え、いや、その』
「それならばここで吸血鬼様を生け捕りにしてから剥製にしてから全裸のまま恥ずかしいポーズで飾りますが、どうしますか?剥製かペットか結婚の三択です!」
『他の選択肢はないのか?!』
かなり譲歩したのにまだ文句を言われた。やはりひと筋縄ではいなかないようだ。さすがはラスボスと言ったところだろうか。
「えー……じゃあやっぱり剥製かペットで」
『一番マシなのが消えたぞ!?なぜ俺様は脅迫されてるんだ?!』
「あ、結婚が一番いいってことですね?」
吸血鬼様が頭を抱える。私は姿勢をただして吸血鬼様をまっすぐ見つめた。
「……すみません、私は吸血鬼様に感謝を伝えたかっただけなんです。昔、あなたは私の命を救ってくれました。私はその時よりあなたをお慕いしております」
『お前、覚えて……』
「本当なら私はあの時に死んでました。あなたが助けた命です」
『……別に、単なる気まぐれで助けただけだ。だが』
吸血鬼様は目を細めた。
『……確かにあのときの幼いお前は命の灯火は消えかけていた。
それでつい祝福をかけてしまったが、吸血鬼の祝福には』
「もれなく呪いがついてきますね。祝福の副作用のようなものです」
『……なんで知ってるんだ』
裏公式設定に乗ってました!……とは言えないので笑顔でごまかす。うふ。
「祝福がその者の体を回復、守護する代わりに呪いは吸血鬼の眷属になるという契約のようなものですよね。でもその呪いは吸血鬼とお互いの体液摂取をしないと成就しません。
つまり最初の吸血行為が呪いと祝福の印付けだとすれば、もう一度私の血を吸われて、私が吸血鬼様の血を飲めば呪いが完成して、回復能力を持つ吸血鬼の眷属の完成というわけです」
『それは吸血鬼種族の極秘事項だ。…………ほんとになんで知ってるんだ』
また吸血鬼様が頭を抱えた。それも裏公式設定に乗ってました!
そう、実はバッドエンドには吸血鬼様が迎えに来て自分の眷属にして連れていく。というのがある。生きる気力を失い吸血鬼と共に闇に消えるのだが……ヒロインの血を吸う吸血鬼様の姿は美しすぎて鼻血ものだ。
「吸血鬼様のことならなんでも知ってます!」
助けたあともヒロインを眷属にしなかった。こちらからちょっかいかけなければ姿を現さないのも、近づけば眷属にしてしまうかもしれない(これは仲間を増やそうとする吸血鬼の本能だ)から、それを避けるためだ。
なぜなら吸血鬼種族が、現在吸血鬼様一人のみで存続の危機にあり、本当ならどんどん仲間を増やさなければいけないのにこの吸血鬼様は優しすぎてそれが出来ないのだ。
「だから私の観賞用ペッ……ゲフンゲフン。結婚を前提に観賞させてください!」
『やっぱりペットなのか?!だいたいなんで俺様がそんなこ』
私は吸血鬼様に近づき、小声で言った。
「……私は吸血鬼様の秘密を知っています。実は…………ごにょごにょごにょ」
耳元でそう囁けば、吸血鬼様の顔色がさっと悪くなった。
『おまっ、それっ』
「バラされたくなければ、ぜひ前向きに検討して下さいませ」
ヒロインとラスボスの初めての対決は、もちろんヒロインの圧勝だったことは言うまでもないだろう。
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