第7話 ≪OP≫ドS王子覚醒編
アイリ・ルーベンス、6歳になりました☆
ルーちゃんと運命の出会いをしてから約9ヶ月、いろんな事がありましたが……。
まず、例の花園に近寄らないのは無理でした。だって、なんせルーちゃんとの待ち合わせがあの花園!そして町で遊んでてもいつの間にか花園!
3日に1回は花園に通うことになり、時折妙な視線も感じる始末である。(これ絶対ロリコン妖精王ですね!)でもまずはドS王子との出会いをどうにかしたい……。
そこで考えたのが、《ドS王子のドSを開花させない作戦》だ。
ここでオープニングムービーをよく思い出して頂きたい。ドS王子はヒロインを不可抗力ながらも殴って泣かしてしまい、その泣き顔に反応して禁断の扉を開いてしまった。ならば、その不可抗力な攻撃を回避するか、泣き顔を見せないようにすればいいのでは?!と考えたのだ。
ここでいつも忍者のようにルーちゃんを見守っているボディーガードがとてつもなく素晴らしい役割をしてくれた。なんと彼は(男の人だった)罠作りの名人だったのだ!
そこで私はルーちゃんにも協力してもらって花園中にたくさんの罠を仕掛けることが出来た。
ちなみにルーちゃんには「6歳になったら変態に目をつけられる気がするから今から対策方法を身に付けたい」とふわっとした理由を説明したら「アイリちゃんならすでに目をつけられてる可能性もありますわ!だって変態はしつこいですもの!」と、とても共感してくれた。(ルーちゃんも小さい頃から変態で迷惑してるようだ)
こうして無事にドS王子対策をして、花園でもルーちゃんと離れず一緒にいることでオープニングムービーを回避しようとしたのだった。
……が、ドS王子は手強かったのだ。そしてまたしてもゲームの強制力を感じずにはいられなかった。
私はルーちゃんと離れずべったりと一緒に花園にいた。そう、べったり張り付いていた。な、の、に、
「あーれぇーっ!助けてですわぁぁぁっ!」
「おじょぉさまぁぁぁぁぁぁぁ!」
突然つむじ風が現れたと思ったら、そのつむじ風はルーちゃんをくるくると回しながら町の方向へ運んでしまったのだ!そんなアホな!
今時ギャグアニメでもめったにお目にかかれない伝家の宝刀ばりに、ルーちゃんはくるくると飛ばされていきルーちゃんのボディーガードさんはそれを追いかけて行った。
「ルーちゃぁぁぁぁぁんっ」
私の叫び声は風にかきけされ、ルーちゃんとボディーガードさんがいなくなり、私は花園にぽつんとたたずむことになってしまったのだ。
1人になってしまった……。
もちろん飛ばされていったルーちゃんも心配だが、6歳の私が花園にぽつんのこの状態は、まさにオープニングムービーの最初の場面そのものだった。
ガサッ。
背後に気配と物音を感じる。
「そこかぁっ!」
私は足元に隠してあったロープを力いっぱい引っ張る。すると草の下に隠してあった網が飛び出し、袋状になって物音の犯人を捕らえた。
ドS王子捕まえたか?!と思ったらそこには「にゃーお」と1匹のぶち猫さんがいた。さらに他の場所からパキリと小枝を踏む音がしてとっさにもう1本のロープを引っ張る。
次の瞬間、木々の間からぶぉんっと風を切りながら丸太が飛び出した。しかし「にゃーっ」。また猫!
さらにさらに、ガサガサと草をわける音がして1番大きなロープを「うぉりゃっ」と綱引きのエース並みに引っ張った!
ズドーン!と地震のような振動がし、直径1メートルほどの落とし穴が姿を現したのだ。
これなら王子も穴に真っ逆さま……とこっそりのぞくとそこには「にゃあ」。
猫ぉ――――っ!
幸いにも猫たちにケガはなく、私はその場に正座し猫たちの「にゃ、にゃにゃにゃ!」とお怒りのお説教(?)を受けて謝ったのだった。
猫たちを見送り(土下座)、渾身の罠たちが剥き出しの花園にため息をつく。あんなに準備して万全の策をしたのに、ルーちゃんと思いがけず離れ離れになってしまって焦っていたようだ。罠も尽きてしまい、このままこのにいるのは危険だと思いルーちゃんを探しに行こうと立ち上がったその時。
「……君は?」
いつの間にか目の前に金髪碧眼の少年が立っていた。
「……あ…………」
猫たちに気をとられ土下座していたので全く王子の気配に気づかなかった。っていうか、猫の方がよっぽど存在感あったんだけど!
王子が私を見つめながらジリジリと近づき、そっと手を伸ばしてきた。この手に殴られて私が泣いてしまえばドS王子が目覚めてしまう!
私は避けようとその場から逃げ出そうとした。
が、なんと罠を発動させるためのロープたちが私の足に絡まり、王子を巻き込んで盛大にその場でスッ転んでしまったのだ。
バチーン!
頬にヒリヒリとした痛みが走り、生理現象的な涙がポロリと零れた。王子は私に巻き込まれて転んだ時に足を滑らせ、勢いよく私にビンタをかまして私の上に覆い被さったのだ。
王子が目を見開いて私を見下ろす。私はそれを見て真っ青になった。
あぁ、これじゃあオープニングムービーと同じ……。泣くつもりなんか無かったのに、あんなに準備したにも関わらず回避出来なかったことが悔しくてまた涙が零れた。
「う、うわぁぁぁんっ!」
私はルーちゃんのボディーガードさんがこっそりプレゼントしてくれていた子供用メリケンサックをとっさに手にはめると、私に覆い被さったままでいる王子の顔を思いっきり殴った。
ついでに足で急所(ご想像にお任せ☆)を力いっぱい蹴りつけ、ものすごい形相で言葉にならない言葉を叫びながら泡を吹いて気絶した王子を横に転がす。
「#%£@*¢∞$§?!?!」パタリ。
「おのれ、ゲームの強制力め……」
思わずとどめをさすところだったがなんとか思いとどまった。さすがに殺人はまずい。(王子殴っちゃったけど)だがこれだけやればさすがにドSには目覚めないのでは?逆に私を危険人物だと認識してくれれば万々歳である。
いや、きっと私に近づけばヤバイと思ったはずだ。何事もポジティブに考えよう。しかし殴られた頬がまだヒリヒリしてる。
王子ムカつく!
私の中でドS王子への好感度メーターがギュインっ!と音を立ててゼロからマイナスへと振り切った。
そして私は、気絶した王子をそのまま放置し、ルーちゃんを探しに町へと歩き出したのだった。
******
※以下、ドS王子視点。
「はっ、俺は一体なにを……?」
なぜか俺は花園で1人眠っていたようだ。やたら顔と……下半身が痛い。
どうにも記憶が曖昧だが、確かにここでとても美しい少女を見つけたのは覚えていた。花の中から突然ピンクゴールドの髪がふわりと現れ、エメラルドグリーンの瞳と目が合った瞬間、思わず見とれてしまった。そして……
「そうだ、俺は……!」
その美しい少女が俺に寄りかかってきた時になぜか転んでしまい、俺は少女を押し倒してしまったのだ。俺がその少女の頬に手で触れて見つめ合うと、少女は恥ずかしさのあまりに泣き出してしまい……。
そこから記憶が無い。顔も痛いが、この下半身の痛み……もしかして俺はあの少女にふしだらな感情を抱いてしまったのか?王子ともあろうものがなんてことだ。
あぁ、でも父上が男とは好きな女には本能で反応するものだ。とおっしゃられていた。(なぜかそのあと母上に殴られ踏まれながら「子供に何を教えてるんじゃい!」とお叱りを受けておられたが)しかしあの少女には悪いことをしてしまった。確かに国の王子にいきなり押し倒されて(少女が先に寄りかかって……いやあれは抱きついたのか?うん、抱きついてきたな)本能で反応されてしまってはあんな無垢な少女では喜びよりも恥ずかしさの方が上回るだろう。
母上も女の子には優しく手順をちゃんと踏んで手取り足取り……が大事とおっしゃられていた。俺は少女をことを思い出し、ほぅっとつやめいたため息をつく。
美しく可憐で、涙をこぼした少女はまるで花園の妖精のようだった。この花園には妖精がいるという噂があるが、まさに俺はその妖精に会ったのかもしれない。あの少女の泣き顔が忘れられなかった。
あの子が俺の言葉やその身に触れただけで、泣いたり震えたりする様子を想像するだけでゾクゾクとした初めての感覚が全身を突き抜ける。
「……もっとあの子の涙が見たいな」
これが初恋だと確信した。
そのあと、足元にあったロープに引っ掛かり転けて、なぜか木にぶら下がっていた網に引っ掛かりもがいて、さらになぜかあった丸太に顔を強打し、さらにさらになぜかあった大きな穴に落ちて泥だらけになったが、王子を探していた専属ボディーガードに発見されて無事に(?)帰っていった。
ドS王子覚醒。
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