第2話 なんでヒロインなんだ

 翌朝、私は屋敷の近くで倒れている所を捜索隊によって発見された。


 私の名はアイリ・ルーベンス。この地方の領地の一人娘で次期当主だ。

 遠縁の親戚たちからは自分たちの息子を養子縁組するか私の婿にして男当主にすべきだと色々言われているが、私の父はそれを一切拒否している。まぁまだ私も5歳なので今後弟が産まれれば問題解決だし、実は数年後に弟が産まれることを私は知っているので親戚たちの腹黒い計画も無駄に終わる訳だが。


 ちなみに私を誘拐と殺人未遂した連中は盗賊だったらしく、私はこの辺ではちょっと有名な美少女だったので拐って幼児趣味の変態に売ろうとしてたのでは……と言われた。

 なぜ確定ではないかというと、その盗賊たちは山の入口付近で倒れているのを発見されたのだが、それぞれ体の一部がミイラのように干からびた状態で死んでいたのだそうだ。


 私は小さな手鏡を持ち、自分の顔を映した。


 ピンクゴールドの髪は肩で揃えられ毛先はくるんと内巻き。エメラルドグリーンの瞳に白い肌。頬はうっすらピンク色。

 5歳にして完璧な美少女がそこにはいた。


「……はぁ」


 私は思わずため息をつく。

 発見され意識を取り戻してから私付きの侍女やら他の使用人たちにも何度も自分のことを聞いた。

 みんなは戸惑ってはいたが、医者が「ショックで混乱されているようです」と言ってくれたからかなるべく優しくわかりやすくと、教えてくれた。


 やっぱり私はアイリ・ルーベンス。

 前世でのことはあまり詳しくは覚えていないが、このゲームでとあるキャラクターをめちゃくちゃ好きになってかなりやりこんでいたのだけははっきりと覚えている。


 手鏡を少し動かし、自分の首筋を映した。そこには小さな傷がふたつ。これは、吸血鬼の獲物になった印だ。

 この傷が見えるのは吸血鬼かそれに属する者。そしてつけられた獲物だけ。

 私は吸血鬼に血を吸われたのだろう。そしてある呪いをかけられた。その呪いが成就される前に吸血鬼を倒さねばならない。

 そのために攻略対象者と恋に落ち、攻略対象者が私を好感度マックス状態で愛すればその攻略対象者が吸血鬼を命がけで倒してくれる。

 その後その攻略対象者と結ばれてハッピーエンド。好感度が中途半端だと吸血鬼を倒しには行くが攻略対象者が逆に殺されたり、ライバルキャラに攻略対象者を奪われたり、もちろんバッドエンドでは吸血鬼の呪いが成就してしまう。

 ルートにもよるが、ヒロインは殺されるか、吸血鬼に囚われてしまうのだ。


 でも、私には無理だ……。だって、だって……。


 攻略対象者って、ドSやドMの変態双子王子に脳筋なムキムキ隣国の王子や脳内お花畑の妖精王じゃん!しかもライバルキャラの悪役令嬢は見た目完璧ツンデレの愛でたくてしょうがない女の子!ライバルというよりはお友達になりたい!

 そしてなによりも……


 ゲームプレイ時の私の愛する推しは、ラスボスであるその吸血鬼様なんだから――――っ!

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