#22 八田さんはよく見てる




 俺たちはお互いに恋愛経験が全然無かったがために、相手のチョットした態度の変化とかに不安を煽られて、モテない男女のネガティブ思考に陥り、ワラシは嫉妬心を制御出来なくなり、俺は「嫌われるんじゃないか」「捨てられるんじゃないか」とビクビクしたりして、更に相手を不安にさせたりしてたんだと思った。


 それと、帰りにワラシが「今日もテスト勉強にやろ?」と自分から歩み寄ろうとしてくれたから仲直りの切っ掛けが作れたが、もしあのまま何も無く俺が帰っていたら翌日以降も同じ状態が続いて、その内にダメになっていたかもしれない。


 この事で、俺はワラシにとても感謝し、そして次にこういうことがあった時は、俺がその切っ掛けを作れるようにしなくては、と強く反省した。


 こうやって恋愛経験を積み重ねて失敗を減らしていくんだろうな。








 そして翌日、教室では



「おはよう、ワラシ」


「おはよ、ケンピくん」


「あれ?学校にも髪型変えて来るようにしたの?」


 休みの日なんかに俺と会う時はヘアピンで少し髪型を変えたりしてたのを、今日は学校にも同じ様に変えて来ていた。



「うん・・・目立つかな?」


「いいや、大丈夫だと思う。 でも可愛いよ」


「ケ、ケンピくん、教室でイケメン発言禁止で!」


 ワラシのこと褒めたら、小声で抗議された。

 でも、モジモジしてて嬉しそう。 



 多分ワラシも、昨日のことで色々思う所が有ったんだろう。

 きっと、俺と同じように前向きに考える様になって、髪型はその表れだと思った。




「あれ?井上さん、髪型変えたの?」


 登校してきた八田さんが、開口一番ワラシの髪型に言及した。


 ワラシは俺と二人きりの時だけだが、八田さんのことを糞ビッチ3号と呼んで敵対心を露わにしてたので、すかさず俺がフォローに入る。



「小学3年からずっとオカッパ頭見て来たけど、おでこ出してる方のが似合ってるよな。八田さんもそう思うでしょ?」


「うんそうだね。井上さんコッチのが可愛いよ」


「あ、あありがとう・・・」


「ふふふ、急に髪型変えたのって、やっぱり好きな男子とか居るから?」


「八田さん、女子トークで切り込むのはいいが、こんな教室の周りに大勢居るところじゃワラシも答えれないと思うよ」


「それもそうだね、うふふふ。 あ、ケンピくんも今日はいつもみたいな調子に戻ってるね。昨日はずっと元気無かった様に見えたよ」


「それは八田さんがポテトサラダにキュウリ沢山入れるって意地悪言ったせいで、キュウリが山盛りのポテトサラダ想像して気持ち悪くなったからだよ。 だからキュウリは入れちゃダメだって言ってるのに」


 ちらりと横目でワラシの様子を伺うと、今日はニコニコしてて機嫌が良さそうだ。

 やはりワラシも昨日のことで少し余裕が持てるようになったのかもしれない。



「ケンピくん、相当キュウリが嫌いなんだね。美味しいのに」


「いや、キュウリ程不快な食べ物無いじゃん! 野菜なのに生臭いんだよ?なのに歯ごたえゴリゴリで意味分かんないし」


 ワラシも俺の主張に同意なのか、ウンウン頷いている。


 そんな風に朝から3人で盛り上がっていると、「なになに?キュウリの話? 私、キュウリ大好き」と宮森さんが会話に入ってきた。



「ケンピくんがキュウリ嫌いで、如何にキュウリが美味しく無いか力説してて面倒臭いの。宮森さんからも言ってやってよ」


「へー、キュウリ美味しいのに。好き嫌いはダメだよ?ケンピくん」


「ハイ」


 俺は一言だけ返事をして、これ以上会話するつもりは無いという意思表示をする為、腕組みして眼を瞑って瞑想を始めた。






 俺は瞑想を始めると、ボランティア活動のことを考え始めた。


 ウチの学校は毎年なんらかのボランティア活動に参加することが義務付けられていて、学校からの紹介だけでなく自分で探して来て参加するのでも良くて、積極的な生徒なんかは自主的にいくつものボランティアに参加していたりもする。


 そういう人は、既にボランティア関係のネットワークみたいなものを持っているから、学校の紹介に頼らなくても自分で情報集めてみつけてくるのだろうけど、俺の様な義務だけの為の参加するようなのは、ほぼ学校紹介の物に参加する。


 ただ、学校紹介の物は募集枠も限られてて、人気のある物は早めに申し込みしておかないとあぶれてしまい、きつくて不人気のになったり、一緒に参加しようと思ってた友達と別々になったりしてしまう。



 今年は参加する時期は夏休みを考えていて、ワラシと一緒に参加したいなと思ってる。 その為にも中間試験が終わったら早々に申し込みしておこうかと考えていた。


 でも、ワラシとまだ何も相談しておらず、中間試験が終わったらワラシと相談して、いくつか候補を絞っておこうかと考え中。



 去年1年の時はどういう物が楽とかキツイとか全然知らなくて、モタモタしていたら担任に勝手に決められて、休みの日に集められて地元の海に連れて行かれて、浜辺の大掃除をやるハメになった。


 夏場だったら楽しかったかもしれないが、11月頃で秋が終わりもうすぐ冬になる時期で、この時期の海辺は風が強くて滅茶苦茶寒くて最悪だった記憶がある。


 今年は、出来れば屋内活動のボランティアがいい。

 屋外のボランティアって、ほとんど作業の物ばかりで疲れるし、夏は暑さ冬は寒さで大変だし。






 そんなことを考えていると、担任がやって来て朝のHRが始める声が聞こえたので眼を開け前を向くと、いつの間にか宮森さんは自分の席に戻ってて、前の席の八田さんが振り向いて小声で「ケンピくん、宮森さんと何かあったの? 前は仲良さそうだったよね?」と聞いて来た。


「別に仲良く無いよ」


「ふーん」


 まぁ、さっきのは宮森さんが来た途端、俺もあからさまに態度変えたしな。

 何かあったと気が付くか。



 HRが終わり1限目の授業の準備をしていると、再び八田さんが話しかけて来た。



「先週金曜の帰りの時も宮森さんと何かモメてたよね?」


「大したことじゃないよ」


「そうなんだ。 でも、もしケンカとかしててモメてる様なら面倒なことになる前に教えてね。 私の方からも宮森さんに注意するし」


「うん、ありがとう」


 興味本位で首突っ込もうとしてるのかと思ったら、流石クラス委員だった。

 クラスの中でのモメごとを、事前に治めようとしてくれてたんだな。


 多分、さっきキュウリの話を宮森さんに振ったのも、意図的に俺と宮森さんに会話させようとしたんだろう。 その上で、俺の方を一方的に悪者にするんじゃなくて、宮森さんへ注意すると言ってくれた所なんか、八田さんから見ても宮森さんに問題があると認識しているのだろうな。


 やはり、八田さんは一方的にブサイクの俺を毛嫌いする様な他の女子とは違う様だ。 だからと言って、仲良くしてたらワラシが嫉妬するしな。

 あくまで同じ班のメンバーとして接するのがいいよな。





 ワラシも八田さんに対して同じ様な印象を感じたのか、この日のお昼時間に八田さんへの「糞ビッチ3号」の呼び名が撤回された。







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