#20 新しい班と八田さん



 翌日からは宮森さんに話しかけられても「ハイ」「イイエ」だけしか返事をしないようにして、完全スルーした。



 そしてこのタイミングで席替えが行われ、無事に宮森さんから離れることとなった。


 今回の席替え、位置的には窓際の前から2番目という微妙な位置だったが、なんと隣がワラシという僥倖。


 ついでに石垣が斜め前(ワラシの前)で、3人が同じ班になった。

 因みに俺の前にはクラス委員の八田さん(美人で優等生)だ。


 石垣は、俺たちと近くになったことよりも八田さんと隣になれたことの方が嬉しいみたいで、事あるごとに窓際の俺や八田さんの方を向いては俺に話しかけてきて、ずっとニヤニヤしている。 八田さんを意識しているのが見え見えだ。


 そんな石垣の若干うざいアピールも虚しく、八田さんは石垣には全く興味が無さそうだった。




 俺とワラシは、席が隣同士だという免罪符を手に入れた為、教室でもちょこちょこ会話が出来るようになった。


 とは言え、ワラシはやっぱり教室では大人しいので、周りに聞こえない様な小声だし、少し言葉を交わす程度の短い会話ばかりだった。






 ウチのクラスでは、席による4人の班が決められ、事あるごとにこの班で行動する。 家庭科の調理実習や美術の校外での写生実習、遠足や夏のキャンプもこの班での行動となる。


 その班に、ワラシと石垣と八田さん。

 ワラシと石垣が一緒なのはもちろん嬉しいのだが、八田さんみたいな優等生でリーダーシップのある子が一緒というのは、色々と頼りになるだろうから、俺たちみたいな地味軍団には大当たりだと言えよう。 八田さんにしてみれば、大ハズレだと思われていそうだけどね。



 で、早速家庭科の授業で班ごとに話し合いが行われた。

 話し合いのテーマは、来週の授業で作る「肉じゃがとポテトサラダ」の準備と調理の役割分担。


 班ごとに机をくっ付けて話し合いが始まると、俺とワラシと石垣の3人は早速八田さんに注目する。

 最初から八田さんにおんぶに抱っこになる気満々だ。



「え?みんなどうしたの?話し合い始めるんでしょ?」


 八田さんの問いかけにどう返事していいのか分からないのか戸惑いの表情の石垣とワラシ。

 しょうがないから、俺が八田さんと会話する形で話し合いを進行することにした。



「まずは必要な材料のリストアップから始めようか?」


「そうね。書き出してみるね。 肉じゃがは、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、牛肉、あとはサヤエンドウとか糸こんにゃくとか?」


「サヤエンドウと糸こんにゃくは無くても良いんじゃない?」


「う~ん、そうかも。具材の種類多いと準備もその分手間かかるし、なるべく材料減らそっか」


「次はポテトサラダかな」


「ポテトサラダは、ジャガイモ、ベーコン、玉子、キュウリ、マヨネーズくらいかな?」


「ハイ!八田先生! オレ、キュウリ嫌いだからキュウリは却下で!」


「え~っと、ケンピくんがキュウリ嫌いだから、キュウリは多めっと」


「は?酷くない? いくら俺がブサイクだからって」


「ブサイクかどうかは関係ありません」


 俺のブサイクを盾にして相手の罪悪感を刺激する作戦の訴えを、ものともせずにピシャリと却下する八田さん。

 流石クラス委員を任されるだけあるな。容赦ないぜ。




 俺と八田さんが材料のリストアップを進める間、ワラシと石垣は無言で俺たちのやり取りを見ているだけだった。


 おい、石垣

 八田さんと仲良くなりたかったんじゃないのかよ

 なぜ黙るんだ


 まぁ、いざ直接本人と会話するとなると、緊張して喋れなくなったんだろうな。

 ブサイクあるあるだな。





 次に役割分担。


 調理に関しては俺と石垣は戦力外だろう。

 ワラシは、詳しくは聞いたこと無いが、ケーキ作ったりするくらいだから出来る方だと思われる。

 あとは八田さんか。


「八田さんは料理得意なの?」


「私? 一応家の手伝いでたまにしたりするけど、普通に包丁で皮剥いたり切ったりするくらいだよ」


「なるほど。 ワラシは得意そうだけどどうなの?」


「ひゃ!?わ、わたし? 少しは・・・・・」


「ワラシは料理が得意っと。メモメモ」


「そ、そんなぁ・・・」


「で、俺と石垣は雑用かな」


「え?ケンピくん、私と井上さんに押し付けて自分はサボろうとか考えてない?」


「いえ、滅相もありません。八田さんとワラシの美味しい手料理を頂くからには、奉私滅法尽くす所存であります」


「じゃぁ・・・ケンピくんと石垣くんが野菜の皮剥きで、剥いた野菜のカットがケンピくんと私、煮たり焼いたりのメインの調理が井上さん、ポテトサラダの混ぜるのをケンピくん、使った食器なんかの洗い物もケンピくんね」


「は?俺だけこき使い過ぎじゃない?ナニこのブラック調理実習。しかも何気に八田さん一番楽してない?クラス委員がそんなことしていいの?俺、スネるよ?イジけるよ?そんなに俺に登校拒否になってほしいの?」


「じょーだんだって!そんなにスネないでよ、もう!」



 真面目だと思ってた八田さんが意外とノリが良くて俺も調子にのって二人であれこれ言い合いしていると、俺の正面に座っているワラシが眉間に皺寄せて俺たちに聞こえないボリュームでブツブツ独り言を言っている。


 あれ? ワラシ、ちょっと機嫌悪い?



 なんとなくワラシがご機嫌斜めなのを察知した俺は、その後は大人しくすることにした。



「ケンピくん、急に静かになってどうしたの? 計画書作成するから手伝ってよ」


「いえ、俺、字が超汚いから、八田さんお願いします」


「そう?まぁ内容全部決まったから直ぐ終わるし良いけど」


「はい、すみません。よろしくお願いします」


「急に大人しくされると、怖いんだけど?」



 ワラシは一見いつも通り大人しくしているだけの様に見えてるけど、何かいつもと違う空気で不機嫌な感じがして、俺はそんなワラシが気になって話し合いどころでは無くなり、石垣が最後まで空気のまま話し合いは終了した。




 その日のお昼時間、ワラシによって八田さんは「糞ビッチ3号」と名付けられた。



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