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「執念深さだけは賞賛に値するけれどもね」
今回の彼の装備を吟味する。
丸盾を括りつけた左腕にはS字を描いたような幅広の曲刀、空いた右手には柄の長い草刈り鎌のようなものを持っている。
どれも魔力を帯びないただの金属だ。
小細工はやめて初心に返って白兵戦というところかな。まあ悪くはない。
「鎌とは珍しい選択をして来たね。芝刈りでもするのかい?」
「俺が剃ってやらなきゃならないほど剛毛なのか? いつまでも飛んでないでかかってきな」
彼は私の挑発に下ネタで返してくる程度の余裕はあるようだ。今日までの敗北は彼の心を折るに至らず、かえって強くしたらしい。いやはや。
「それじゃお邪魔しまぁす」
私は短槍と丸盾を構えると急降下から彼の頭上を越えつつふわりと向きを変えて失速し背後から短槍で肩口を狙う。
ほとんどの戦士たちは正面攻撃にこれを織り交ぜれば捌き切れずあっという間に嬲り殺しになる。なんだかんだと三度の逢瀬を生き延びた彼は大した腕前なのだ。
手口はお見通しとばかりに身を翻しながら曲刀で短槍を逸らし、連撃で鎌が横薙ぎに迫る。
丸盾で受けようとして、ふと刃ではなく柄が当たる距離だと気付く。彼が初手から間合いを誤ったりするだろうか。
受けてはいけない。これは私の戦士としての勘だった。
咄嗟に翼を畳んで、盾で鎌を弾きながら地に落ちると転がるように間合いを取る。彼の小さな舌打ちが聞こえた。
なるほど、なぜ柄の長い草刈り鎌のような妙な武器を用意したのか。なぜ私のように手持ちの盾ではなく腕に固定する盾を選んでまで曲刀との二刀流を選んだのか。今の攻防が凌げたのは運が良かったというほかない。
「かかったと思ったんだがな」
「そうやって攻略してきたひとはいなかったわね。今のはかなり危なかったわ」
長い柄を押し付ければ鎌の刃が背後に回る。この体勢に持っていかれると引くだけで背後から羽根や首筋を狙われる上に、柄や刃のある側へは動けなくなり、柄に翼が当たるような機動もできなくなる。
縦横無尽であったはずの空中で動きを制限され、私は片手で短槍一本。彼も同じ片手とはいえあちらは盾と曲刀を同時に使えるというわけだ。
「闘奴同士を鎖で繋いで戦わせる見世物があるって聞いたことがあるけど、まさにそんな感じね」
「お前の機動力には散々手を焼かされたからな」
自慢げに言いながら片手で器用に柄を回転させて構え直す。元々槍の心得があったのだろう。二刀流としては少々稚拙でも鎌の動きは決して付け焼刃ではない。
さて、最初から刃を当てる気のない棒で横から打ち据えられるのは厄介だ。盾で受けるのは容易いがそれでは相手の術中。そうなってしまえば鎌ならではの形状が私を逃がさない。
彼を散々翻弄してきた一撃離脱の必勝戦術は今や死への片道切符になってしまったわけだ。
私は翼を畳んだまま地上で短槍と丸盾を構えた。
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