第43話:初デート
***
誕生日の飲み会が終わり、帰宅途中の電車の中で小豆にメッセージを入れた。
『今飲み会終わって帰るとこ。小豆が心配するようなことはなんにもなかった。安心してくれ』
好きだって告白してからの初LINE。
緊張するなぁ。
どんな返事が来るんだろ。
ドキドキして待ってたら──
小型犬のキャラが『お疲れさま』って言ってるスタンプが返ってきた。
──なんか新婚さんぽくないか?
って、うわ。俺なに考えてんだ?
顔が熱い。
あ、すぐにもう一つメッセージが来た。
『気にかけてくれてありがと』
俺の気持ちが通じたみたいで心がほっこりする。
ホントは通話で話したかったけど、こっちは電車内だし小豆の方も親がいて話すのは難しいらしい。
だから詳しい話はまた明日することにして、『おやすみ』ってメッセージを送った。
お互い好き同士で交わすメッセージは、なんでこんなに楽しいんだろう。思わず頬が緩む。
──あ、いや。
なんか俺、
自分は年上なんだし、もっとしっかりしなきゃ。
うん、そうだよ。
電車の中なんだし、ニヤニヤしてたらダメだ。キモ男になってるぞ。
気を引き締めよう!
──と思った時に小豆から返事が来た。
『おやすみ。大好きだよ♡』
──へっ?
いかん。
ハートをズッキュンと撃ち抜かれた。
ニヤニヤが止まらなくなった。
俺の顔面筋崩壊事故発生。
あはは……あはは……
キモい男でもどうだっていいや。
それくらい嬉しいメッセージだった。
***
翌日の月曜日。
やるき館に出勤する前に近所の公園で小豆と待ち合わせた。
他の人に知られないように秘密の場所で落ち合う──なんてシチュは、より一層ドキドキするな。
「──という訳だ。奄美さんのことはそういうことだから、わかってくれるか?」
「うんわかった。奄美先生、ホントにいい人だね」
小豆が塾を卒業するまで、二人が付き合ってることは周りには内緒にする。
奄美さんが俺と付き合ってるような態度を取ることはあるけど、それはあくまで偽装。
そして小豆は青大を目指し、俺はそれを全力でフォローする。
小豆はそのすべてを理解してくれた。
「でも奄美先生と銀次さんが仲良くしてたら……妬いちゃうかも?」
「え?」
「だからあんまりデレデレしちゃだめだからねっ」
なんで頬をぷっくり膨らませてプイと横向くんだ?
俺、別にデレデレなんかしてないのに。
「しないよ」
「絶対?」
そんな疑わしい目で見るな。
俺ってそんなに信用ないのかな?
「おう。絶対」
「わかった。じゃあ許してやろう」
なんだよ。なんで許してやろうなんだよ。
だからデレデレしてないだろが。
──って言い返そうと思ったら。
「ニヒ」
小豆のヤツ、とっても嬉しそうに笑いやがった。
それがあまりに可愛くて、俺も笑顔を返してしまったじゃないか。くそっ。
***
それから何日か経った。
塾では思うように自由に話せないし、行き帰りで会うのも時間が限られる。
一度心置きなく二人で過ごしたいなぁ──なんて思ってたら小豆もおんなじだったようで、日曜日に会うことになった。
都内でも大きな繁華街に出かける。
これって──いわゆるデートだよな。
うわ。俺にとって人生初デート。
なにをどうしたらいいのかわからん。
もしなにか失敗したら、年上なのに恥ずかしいぞ。
ドキドキしながら当日を迎えた。
目的地である街の駅前で、お昼前に待ち合わせ。
大勢の人が行き交う場所で、ちゃんと小豆を見つけられるかな。
──なんて心配したけど杞憂だった。
人混みの向こう側から現れた小豆は……
めちゃくちゃ可愛くてめちゃくちゃ輝いていて、遠くからでもすぐに見つけられた。
花柄のオシャレなシャツに爽やかなオレンジ色のミニスカート。そこからスラリと伸びる白い足が凄く綺麗だ。
黒髪のショートヘアによく似合う可愛さマックスのファッションだった。
前に、ギャルっぽい服しか持ってないって言ってたから、きっと新しく買ったんだろう。
「銀次さん、待った?」
「ああ、めっちゃ待ったぞ」
「え? マジ? まだ約束の時間前だよね?」
「そうだよ。でも約束したのは一週間前だからな。一週間待った」
「それってあたしとのデートが楽しみすぎるってこと?」
「そうは言ってない」
「そう言ってんのとおんなじじゃん。ウケる」
ケラケラ笑われた。
小豆の言うことはまったく正解だ。
百点をつけてあげたいとこなんだが……
恥ずかしすぎてそんなことストレートに言えるかよ。
「あのさ銀次さん。あたしもおんなじだよ。ずぅーっと楽しみにしてた」
ちょっとはにかんでる小豆。
これまた可愛すぎて、俺の心臓が止まりそうになる。
「じゃ、じゃあ……い、行こうか」
「うん」
昼メシを食いに行って、それから街をぶらぶら歩いたり目についた雑貨店なんかを覗いたりした。
たいしたデートコースじゃなくて申し訳ないんだけど、小豆はずっと笑顔で楽しいと言ってくれてる。
正直俺もめっちゃ楽しい。
普段とおんなじようなことでも、好きな人と共に過ごす時間ってこんなに楽しいんだな。
なんなら毎週でもこうやってデートしたい。
「銀次さん。なにニヨニヨしてんの? キモいよ?」
俺を覗き込む小豆。
だけど偉そうに言うコイツも……
「お前だってニヨニヨしっぱなしじゃないか。キモいぞ」
「ばっ……ぶゎかっ! JKのニヨニヨは可愛いんだからいいんだって!」
なんだよそれ。
確かに全然キモくなくて可愛いけどな。
「まあそうだな。可愛いな」
「ぶふぉっ!」
「なんで吹いてんだよ?」
「ま、まさか銀次さんが素直に可愛いって言うなんて思わなかったから……」
そうだよな。俺、そんなキャラじゃないしな。
でもなんて言ったらいいんだろ。
俺、バカになってる。
そんなバカな会話ばっかりしてるうちに、一日があっという間に過ぎた。
小豆は高校生だし、あんまり遅くまで引っ張るわけにはいかない。
家族との夕食に間に合う時間に解放してあげなきゃ。
ということで、5時頃には駅に戻って改札口でバイバイする。
「ああ、楽しかったぁー 銀次さんありがと」
「こっちこそありがとうだ」
「ねえねえ、次いつ遊び行く?」
できれば毎週一緒に遊びたい。
だけど……
「小豆は受験生だからな。今の成績からだと、かなり頑張らないと青大に行けないぞ」
「あ、うん。……わかってる」
そんなしょんぼりした顔すんな。
俺だって寂しんだよ。
「小豆は最近は熱心に勉強してるし、徐々にテストの点も上がってきてる。きっと合格できるからさ。がんばろうぜ」
「うん、わかった。絶対に銀次さんとおんなじ大学行きたいし」
「おう、待ってるぞ」
「じゃあさ。模試でいい点取るごとにデートしてよ。ご褒美ってことで」
「そうだな。そうしよう」
それが小豆のモチベーションになるならそれがいい。
……ってか、本音を言うと俺だってもっと頻繁にデートしたいんだよ。
「じゃあ銀次さん。帰るよ。また明日やるき館で」
「ああ。気をつけて帰れよ」
「おう、お前もな」
「は? なに偉そうに言っとんだ?」
「あははー じゃあねっ!」
小豆は満面の笑みで両手を振って、改札の中に入っていった。
あと半年か。
無事受験が終わって、小豆と同じ青大生になれたらいいな。
ぜーったいに毎日が楽しいだろうな。
立ち去る小豆の背中が見えなくなるまでずーっと眺めながら、そんなことを考えた。
***
──半年後。小豆は青大に無事合格し、キャンパスでバカップルぶりを発揮することになるのだが。
それはもう少し先のお話。
== 完 ==
本作はここで一旦の締めとさせていただきます。
詳しくは「あとがき」をご覧ください。
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