第12話:女子の気持ちを解き明かす方程式を俺は知らない

***


 木曜日。

 一昨日おととい怪我をした小豆あずきが心配だったから、講義が終わってすぐに奄美さんに訊いた。

 そしたらアイツは休んでるってことだった。


 大丈夫なのかな?

 思ったよりも重症だったとか?

 俺の見立てが間違ってたのか……?


 うわ、なんで俺、クソ生意気なギャルの心配ばっかしてるんだよ。ああ、もっと楽しいこと考えよっと。


「あ、銀ちゃん先生!」


 廊下を歩いてたら友香ともかちゃんに呼び止められた。

 友香ちゃんは何か知ってるかな?


「友香ちゃん。小豆は今日は休みなんだって?」

「はい」

「怪我はどうなんだろ? 酷いのかな?」


 ドキドキしながら質問した。


「あ、もう大丈夫みたいですよ。でも今日は念のため休むって電話がありました」

「そっか」


 よかった。ホッとした。


「痛みはなさそうかな?」

「そうですねぇ……ちょっと痛みはあるかもですよ。うふ」


 ──うふってなに?

 友達がケガしてるのに、友香ちゃんってそんなことを言う子だったっけ?


「え? ホントに大丈夫なの?」

「はい。足首はもう痛くないって言ってました」

「どういうこと? どこか他が痛いの?」

「きっと胸が痛いんじゃないかと思います」

「胸を打ったような感じはなかったけどなぁ。俺がちゃんと身体を受け止めたし」

「はい。きっとそれが原因ですよ。うふ」


 ──だからうふってなに?


「あ、もしかして俺の胸で小豆が胸を強打したのかな?」

「いえ、そうじゃないです。怪我は大丈夫です。銀ちゃん先生がしっかりと受け止めてくれましたから。それで銀ちゃん先生が全然ふらつきもしなかったって、凄いって小豆ちゃんびっくりしてました」

「じゃあなんで胸の痛みが?」


 友香ちゃんの言うことがさっぱりわからん。


「ですよねぇ……うふ」


 ──だからうふって、いったいなんなんだよっ!?


「小豆ちゃんは助けてもらって『カッコよかった』って言ってましたよ」

「え? それって八丈先生のことだよね? 手を引いて立たせてもらってたし」

「さあ、どうなんでしょうね? ため息までついてましたしねぇ。うふ」


 ため息ついてた? やっぱ八丈先輩のことだ。

 なにせ小豆は前から八丈先輩のことが大好きだからな。

 いつもポーっとイケメンに見とれてたし。


 あ~あ。怪我を防いだ俺より、手を引いただけのイケメンの方が感謝されるなんて。

 まあでも仕方ないな。世の中そんなもんだ。イケメン最強。


 悔しくなんかないぞ。

 悲しくなんかないぞ。


 ──くそっ!


「……で、それと胸の痛みはどういう関係が?」

「さあ……私にはよくわかりません。うふ」


 なぜか今日の友香ちゃんはいたずらっぽい笑顔で『うふ』を連発してる。

 言ってることもさっぱりわからない。


 小豆が考えてることがよくわからないのとおんなじで、友香ちゃんの考えてることもよくわからない。


 恋愛経験のない俺に、女子の気持ちをわかれって方が無理なんだ。

 数学は得意な方だから方程式も割とわかるけど。

 女子の気持ちを解き明かす方程式を俺は知らない。


 だから深く考えるのは、もうやめることにした。

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