【書籍試し読み版】職業は鑑定士ですが【神眼】ってなんですか? ~世界最高の初級職で自由にいきたい~ 1/渡 琉兎

MFブックス

第1話 プロローグ

「——うん、これは美味うまいな!」

 俺は森の中を一人彷徨さまよいながら、ひょうたんの形をした果物をほお っている。

 時折、聞いたことのないとお えや地面が揺れるほどの足音が聞こえたりもするが、おおむね平和に生活していた。

 すべてがあのいけ好かない王様のせいなんだが、今となってはどうでもいいことだ。

 なんて言ったって、そのおかげで俺は自由な異世界生活を送ることができるんだからな!

「……おっ、あっちにも美味い果物があるっぽいな」

 魔獣を避けつつ森の中を歩き回り、俺は目的の果物を見つけては口に運んでいく。

「……ん、これもやっぱり美味い!」

 口に付いた果肉を親指で拭ぬぐいながら空を見上げる。

「しかし、本当に何なんだろう。たぶん、こいつが原因なんだろうけど、さっぱりわからん」

 この世界にはステータスという概念が存在する。

 口に出してステータスと唱えると、目の前に自分にしか見えない情報がディスプレイ画面のように浮かび上がるのだ。

「ステータス」

 俺は本日何度目になるかわからなくなった言葉を発して、自分のステータスを確認する。

「名前、 ひろとう。一八歳の男。それで職業が鑑定士……鑑定士、ここまではいいんだよ」

 ラノベを読み漁あさっていた俺にとって、鑑定士というのは当たりの職業だ。

 勇者や英雄とかだと戦いに駆り出されそうだけど、鑑定士ならそんなこともなく無難に過ごせるだろうし、この世界で知らないものを見極めることもできて、いい職業だと思っている。

 まあ、この職業のせいで今はこんな森の中にいるんだけどね。

 ……今はそれよりもその職業についてである。

 他の奴らの職業も同じように表示されているのかどうかはわからない。確認する前にここに送られたからな。

 だけど、絶対におかしいんだよなぁ。

「スキルレベルとかあるんだから、普通はそこに表示されるべきだろうに」

 俺のスキルには『鑑定』と『魔力消費半減』というものがある。

 そして、そのおかしな表示のせいもあるだろうけど、俺の鑑定スキルはレベルがすでに10/10、つまりカンストしているんだ。

 魔力消費半減スキルにはレベルが存在しないので、名前の通りの効果なのだろうと考えている。

「そして能力値だけど……これって高いの、低いの、どっちなの? まあ、運だけは高いってわかるんだけど、そう考えるとやっぱり他は低いんだろうなぁ」

 能力値は簡単に六つの項目に分けられている。

 筋力、耐久力、速さ、魔力、器用、運、この六つだ。

 俺の場合だと筋力と耐久力と速さが5、魔力と器用が10、そして運だけが異常に高くて100だ。

「……100ってなんだよ、100って!」

 何度見てもツッコミを入れてしまう数字である。

 ただ、魔力が10あったのは非常に助かっていた。

 何せ鑑定スキルを使うにも魔力が必要なようで、大体五回ほど使うと魔力が1減ってしまう。

 これで魔力消費半減がなければもっと減ってしまっていただろうし、最初の頃はわからずに使っていたので、結構ギリギリまで減っていたのだ。

「っと、それよりもこれだよ、これ。調べようにも森の中だし、食べ物は見つかるからいいとしても、まずは人がいる場所を目指すべきなんだが……魔獣がいっぱいいる場所を通るんだよなぁ」

 向かうべき方向はわかっている。

 ただ、戦える手段がない俺にとっては命がけになるので覚悟が必要になってくるのだ。

 この森には俺以外に人はいないし、どうしたものかと朝起きるたびに考えるんだよなぁ。

「鑑定士、あいつらが言うには初級職らしいけど、なんでこんな文字が表示されているんだ?」

 俺は再び職業欄に目を向ける。


『職業:鑑定士【神眼】』

 

 ……そう、括弧付きで【神眼】と表示されているのだ。

「これ、絶対におかしいよね?」

 そんなことをここ数日間、何度も思いながらの生活を送っていた。

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