3.奥様曰く、銀髪で可愛い幼女のようです

 奥様に抱きしめられて朝までぐっすり眠った私は、早朝に起こされた。まだ眠い目を擦りながら、馬車に乗る。ごとごと揺れるけど、クッションはふかふかで眠くなるだけ。我慢できずに眠りの船を漕げば、奥様が膝枕をしてくれた。


 なんてこと、巨乳の膝枕は昼間見ても夜見ても凄い。でも昨夜より今日の方が凄い景色だわ。だって馬車が揺れるたび、たゆんたゆんしてる。手を伸ばして触れてしまい、慌てて引っ込めた。


「あらあら、起きたの? ご飯食べられそうかしら」


「あ、はい」


 良かった、触ったことは叱られなかった。胸を撫で下ろしていると、脇に手を入れて抱き起こされる。そのまま頬にキスをもらい、隣に座らせてもらった。


「胸に触るってことは寂しいのね……お母様は?」


 バレてたわ。普通に恥ずかしい。


「わかんないです」


 首を横に振って呟く。お母さんどころか、この国がどこで、私がどうやって外国に移動したのかも分からない。そもそも体が小さくなるのはおかしい。変な麻薬でも打たれて夢を見てると言われた方が、納得できた。その場合は、夢の中で教えてくれる親切な人はいないけど。


「胸はいつ触ってもいいわ。抱きついても自由よ。私の娘になるんだもの」


 いつの間に決まったんだろう。確か、旦那さんに相談する話だった気がするけど? 私にとって悪い話じゃないよね。奥様は優しいし、痛いことや酷いこともされない。今後は分からないけど、そういう人じゃないと思えた。


「本当に可愛いわ。せっかくの綺麗な銀髪が短いのが、もったいない。伸ばしましょうね」


 ん? 銀髪? 妙な発言に首を傾げる。目の前の奥様は外国人だから金髪、これは普通だけど……私は黒髪のはずよ。だって日本人だから。


 そこで昨夜鏡を見ておかなかったことを悔やんだ。お風呂の鏡は曇ってたし、お湯も色が入っててじっくり見なかった。思い込みで、自分の幼い頃の姿になったと認識してたけど。色が違うのは予想外だな。


 うーんと考える私の頬を包んで、そっと横を向かせた奥様が笑う。アランさんを呼び、食事の準備を告げた。止まった馬車から降りると、景色が一変している。街並みはなくて、1本の道が通る草原だった。草の背丈は……今の私の胸くらい。奥様だと膝上くらいかな? あれ、私はすごく小さいかも。


 そういや、噴水の縁ってあまり高くないのに、昨日はよじ登ることも出来なかった。考え込む私を抱き上げて、奥様は用意されたシートの上に座る。出されたのは、黒いパンとハム。それからお茶代わりのスープだった。


 ハーブなのかな? 草やスパイス系の香りがするスープは、驚くほど美味しい。知ってる味だと、鶏ガラが近いかな。中華の鶏ガラスープっぽい。透明で綺麗なスープのコップを両手で掴んで飲んだ。


「美味しい? そう、よかった」


 両手じゃないと、コップが大きくて落としそう。パンは千切って口に入れた。パサパサしてるけど、ほんのり甘い。子どもだからか、顎が疲れた。そんなに硬いパンじゃないんだけどね。ハムは厚切りで、お歳暮に頂いた時くらいしか、この贅沢は経験できない。家の安い包丁で切ると、どうしても薄く切れないのよ。


 サラダはないけど、美味しく食べた。奥様と手を繋いで馬車に戻り、また揺られる。今度は外を眺めることにした。窓に合わせて座席に立ったら、クッションを山盛りにして上に座らされる。


「うふふ。面倒を見るのって楽しいわ」


 そう思ってもらえて嬉しいです。にっこり笑ってお返事した。本当に早く言語を習得しなくちゃ。

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