第二百八十話 空と氷菓と異世界と②

「わかったわ、おまえ……私をこの場で犯そうとしているわね?」


 と、アホみたいなことを言ってくる氷菓。

 彼女はまるで犯罪者みたいな邪悪な笑みを浮かべ、空へと言ってくる。


「人気のない場所、可愛らしい乙女、淫獣がごとき男……あぁ、私はここで散らされてしまうのね」


「いや、誰が淫獣ですか!」


「おまえ」


「突然真顔になるのやめてくださいよ……」


 まったく氷菓のこのノリには、昔からついて行けなくなることが多々ある。

 と、空がそんなことを考えていると、氷菓はさらに続けて言ってくる。


「冗談はさておき、私はおまえになら散らされてもいいと思っているわぁ……あ、間違えたわ。冗談はさておき、私は早く『異世界』とのやらのことが聞きたいのだけれど」


「…………」


 空にはもはや、氷菓がどこまで本気なのかがわからない。

 散らされる云々は冗談だとして、異世界のことは本気……なのか?

 と、空は心の中に大量の疑問符を生産しながら、氷菓へと言う。


「本当に聞きたいんですか? 聞いていてもたいして面白い話じゃないですよ。それに、聞いても『誰にも言ってはいけない』という重荷が増えるだけで――」


「本当に聞きたいです。誰にも言いません。早く聞かせてください」


「…………」


 胡散臭い。

 けれど、なんだかんだで氷菓が信頼できるのは確かだ。

 空はゆっくりと氷菓へ、異世界のことを語り始めるのだった。

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