第百五十五話 空はとんでもないミスをする

「これが、正義だ!」


 空が放った一撃は、完全にボーガンに入った。

 未だ奴が動かない事を見るに、少なくとも脅威は去ったとみていいに違いない。


「ふぅ……なんとかなったか」


 やはり怪人相手は緊張する。

 と、空がそんな事を考えたその時。

 彼はとあることに気が付く。


「ん、あれ?」


 なんだか顔が涼しいのだ。

 空は顔バレしないように、紙袋を被っていたはずなのに。

 彼が不思議に思って、自らの顔に触れてみると――。


「っ!」


 そこに紙袋はなかった。

 それも当然である。


(僕はバカか!? ボーガンは僕の頭を掴んでいたんだ……そこを無理矢理吹っ飛ばしたら、紙袋ごと飛んでくに決まってる!)


 まずい。

 このままでは周囲に空の正体が――。

 と、その時。


 突如、空の頭に何かがかぶせられる。

 そしてそれと同時。


「若きヒーローよ、被り物はそれでいいかね?」


 聞こえて来たのはマッスルの声だ。

 彼は満身創痍ながらも立ち上がり、空へと続けてくる。


「みんなを救ってくれてありがとう。私の代わりに筋肉の輝きをみせてくれてありがとう……お礼が紙袋マスクですまない」


「あ、えっと……」


「何も言わなくていい、今は逃げなさい。もうすぐここには私以外のヒーローが来る……他のヒーローは私と違って、筋肉に寛容ではないよ」


「っ……あ、その――」


「なにやってんのよ、あんた!」


 と、聞こえてくる胡桃の声。

 彼女は空に駆け寄ってくるなり、彼の手を引きながら言ってくる。


「早く逃げるのよ、バカ! 急いで!」


「わ、わかってる……でも!」


 空はこの場から逃げる間際、マッスルの方へ向き言う。


「すみません。見逃してもらって、ありがとうございます!」


「問題ない。ナイスファイトだ、若きヒーロー……時雨さんによろしく頼むよ」


 と、空はそんなマッスルの声を背中で聞きながら、この場を去るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る