第百十話 空と謎のヒーロー

『謎のヒーロー現る!! 正体は学校の生徒!?』


 昨日、東京ヒーロー養成学校に多数の怪人が出現。

 正門から侵入したとみられる怪人の数はおよそ十二体――それに対処するため、三十人のヒーローチームが派遣された。


 しかし、怪人の力は強力であり、ヒーローチームは苦戦を強いられる。

 警察及び、自衛隊は更なるヒーローの動員を決定する。

 だが、その時彼が現れた――。


『はい、頭にバケツを被っていてですね……あ、目の部分だけ穴が空いてるんですよ』


『そうですね、そう。ドローンで見てた限り、なんですけど』


『ヒーローチームが苦戦していた怪人たちを、瞬く間に倒しちゃったんですよ』


『え? もちろんですよ、一人でですよ!』


『多分非合法ヒーローじゃないですかね。バケツ頭にズボン、上半身は裸でしたし……そんなプロヒーローいる訳ないですよ』


 以上、テレビで現在流れている昨日の出来事である。

 さてさて、時は今日――場所は空の部屋。


 時雨はテレビのニュースを見終わった後、盛大にため息。

 彼女は凄まじいジト目を空へと向け、言ってくる。


「変態ヒーロー裸バケツさん……非合法ヒーローデビューおめでとうございます。すごいですね、みんな兄さんの話題でいっぱいですよ……あの最強ヒーローは誰だって」


「えっと、一つ訂正したいんだけど。上半身裸なのは、学生だってバレないようにしただけで、僕の趣味では――」


「っ! ふざけないでくださいよ! どういうつもりですかこれは!」


「いやふざけてないって!」


 空は慌てて時雨を宥めようとする。

 けれど、彼女はより凄まじいジト目で空へと言ってくる。


「非合法ヒーローは違法です。プロヒーローに取り締まられる立場ですよ……わかっているんですか?」


「……ごめんなさい」


「兄さん、わたしを騙すのは不可能です。あまり……反省してませんね」


「…………」


 正直、時雨の言う通りである。

 確かに非合法ヒーローは違法だ。

 バレれば厳重注意を食らったうえ、何度もやってしまえば捕まる可能性もある。


(でも、あの時は仕方がなかった)


 ニュースでやっていた通り、ヒーロー達は怪人に苦戦していた。

 もしもあの状況が続けば、死者だって出ていたに違いない。


 見ていられるわけがない。

 空にはなんとかできる力があるのだから。


 と、空がそんなことを考えているのも読み取ったに違いない時雨。

 彼女はジトーとした視線で再び空へと言ってくる。


「今回だけです」


「え?」


「今回だけって言ったんですよ……今回だけは見逃してあげます」


「えっと、てっきりもっと怒られると思ったんだけど」


「怒っていますよ。ただ、今回は私にも原因があると思っただけですよ……その場に居たのに止められませんでしたし……怪人に遅れを取りましたし」


 と、ややふてくされた様子の時雨。

 彼女は「とにかく!」と一言、空へと言ってくる。


「これで最後です! 次に兄さんがバケツを被ったとき、それは私と敵対する時です!」


「はい……気を付けます」


「約束ですよ……まったく」


 と、ようやく落ち着いてくれたに違いない時雨。

 彼女は「そういえば」と言葉を続けてくる。


「生徒の間で、バケツの正体は兄さんじゃないのかって、噂になっていますよ」


「え?」


「梓さんとの試合や、風紀の活動ですでに兄さんは本当は強いと噂になっていました。そこに今回の不自然なシェルターからの消失……バカでも関連付けますよ」


「えーっと」


 全く気がついていなかった。

 確かに最近、空が歩いていると妙な視線を多数感じはしたが。

 と、空がそんなことを考えていると。


「いいですか? 兄さんは目立ってしまっているんです」


 と、空の思考を断ち切るように聞こえてくる時雨の声。

 彼女は更に続けて言ってくる。


「これ以上悪目立ちしたくなければ、序列をあげてわたしの様に特例スカウトを受けてください……そうすれば独断で人を怪人から助けても、非合法活動には当然なりません」


「うーん、そうなんだけどさ。なんだかいざ序列をあげようとすると、どのタイミングで戦いを申し込めばいいか、よくわからないんだよね……みんな忙しそうだし」


「そんなことだろうと思いましたよ。長いこと序列を上げようとしなかったツケですね」


 と、かなり呆れた様子の時雨。

 彼女はため息をつきながら、空へと言ってくる。


「そうであれば我慢です……詳しくは言えませんが、今回の襲撃と最近の怪人の活性化をうけて、とある方策が動いています」


「方策? それって僕がやっちゃった件と、なにか関係があるの?」


「だから詳しくは言えないんですよ。でも、それが通るまでは絶対に大人しくしていてください。お願いしますよ……兄さん、本当に」


 時雨は見てわかる程に心配そうな表情をしている。

 空としては、さすがにこれ以上妹を心配させるわけにはいかない。

 故に彼は彼女へと言う。


「うん、気をつける――約束するよ。それと心配させたみたいで、本当にごめん」


「いえ、わかってくれれば、その、いいです……わたしも、えと……兄さん」


 と、時雨は何やら頬を赤く染めてもじもじ。

 そんな彼女は突如立ち上がり、とてとて扉の前まで行くと。


「今回は……た、助けてくれて、ありがとうございました!」


 言って、部屋から出て行ってしまうのだった。

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