フロに入るハメになる②

 「はい……」


 顔を近づけてきたデューク……さんから距離を

取りながら次の言葉を待つ。


 「乞いてまで魔族の配下になるんなら、どーして冒険者になんてなったのよ?」

 

 「……………………」


 いつか聞かれるんじゃないかと思っていた事だ。

 つい下を向く。

 

 (それは冒険者に憧れてたから。俺の出身は農村で、よく立ち寄ってた冒険者達を見てカッコいいと思って。

 でも慎重になり過ぎて…………って、いかん!顔を上げろ!)


 素早く頭を上げるとデューク……さんが顔を近づけて来ようとしていた。驚いたようで眉を上げている。


 (ア、アブね〜。また覗き込まれるとこだった)


 「……少し長くなりますけどいいですか?」


 「ヤダ。短めで」


 「えーっと……慎重だったんです、俺」


 「……オウ」


 相づちを打ってくれたものの理解はできていないようだ。


 (短くって言ったのそっちなんだけどな。

俺の説明も簡潔すぎたか?)


 「俺はできるだけ死にたくなかった。だから、

充分過ぎるぐらいレベルを上げて歩いていたんです。

 例えば、レベル5でクリアできる所を10前後まで上げてクリアするみたいな……」


 「ッ、ハハハハハハハハハハッ!!」


 少しの間のあとデューク……さんが豪快に笑い出した。


 「ハハハハハッ!そーかそーか!

 要するにビビりって事だな⁉モトユウちゃん!」


 「……そうなりますね……」


 (笑われるとは思ってたが……。

悪かったなビビりで)


 「んで?ビビりちゃんがどーしてここまで来れた?」


 「ある大きな都市に着いて、クエストボードに

出てる依頼をこなしてたんです。

 でも俺のレベルが高かったから簡単にクリアしてしまって、それで「コイツはすげぇ!」「勇者だ!」ってもてはやされて……」


 「あ~、周りのヤツが勝手に勘違いしたパターンか。

ある意味モトユウちゃんも被害者だな〜。ヒハハ!」


 「それで仲間もすぐに集まっちゃって……。でもビビりなんて言い出せなくてそのままズルズルと

来ちゃいました」


 声を小さくして話す俺をデューク……さんはニヤニヤと眺めている。何か面白いようだ。


 「ハハハハハッ!

……でもよぉ、俺と対峙した時エラい勇ましかった気がするけど〜?」


 「それはフ……ソーサラーに魔法かけてもらってたからです。……ソーサラーにだけ俺の素を話しました。

 呆れながら魔法をかけることに承諾してくれましたけど」


 「ほ〜。……つまり、自分のペースで冒険したかったのに持ち上げられて言い出せなくてここまで来てしまったと」


 「はい……」


 (確かにそうなんだが……全く否定してこねぇッ⁉

 しかも少し同情してくれてるし。意外と話通じるな⁉)


 「はいはい、そういう事ね〜。

 なら、俺からも1個話しとくか。っても忠告になるけどなぁ」


 「え?」


 「俺は今モトユウちゃんと気軽に話してるけど〜、

俺ぐらいなモンだからな?他のヤツはまず「ニンゲン」って見下す。そしてバカにする」


 (人間と魔族で元が違うしな)


 魔族は力が強い者が多い。武器無しで戦えと言われたら人間は勝てない。それで見下している者が多いのだろうか。


 「気をつけろよ?モトユウちゃん。

最悪いきなり攻撃されるからな?」


 「ッ⁉」


 慌てて離れるとデューク……さんが笑う。


 「ヒハハ!そう怯えんなって!「教会送り」まではしね〜よ。マーさんに潰されるからな」


 そう言うとバスタブから出た。デューク……さんを見送った後、顔を下に向ける。


 (モヤモヤする……。本心なんだろうけど馴れ馴れしいというか、こんなに距離近くていいのか?

 魔王の冷たい態度よりは良いけど、油断できないな)


 俺があっさり裏切ったとしても、何事もなかったかのように敵として振る舞いそうだ。

 何もない脱衣場に戻るとデューク……さんの姿は無かった。

もう外に出たようだ。


 (着替えるの早ぇな)


 そう思いながら着替えて外に出ると、デューク……さんが来た道とは違う方向に立っているのが見えた。


 「あれ?帰り道違うんですか?」


 「一緒でもいいけど〜、ここに来れる道1つじゃないんだわ。だから、別の道から帰る」


 「わ、わかりました……」


 (意外と複雑?)


 またカラクリの壁でも通るのだろうか。

 訳がわからないままついていくとなんと王座の間に出た。

場所は王座の真後ろで、隠れるようにしてドアがあったようだ。

 冒険者用に入り口が1箇所しかないと思っていたが、他にもあったらしい。


 (どうなってんだ?)

 

 何気なく王座の横を通りすぎようとすると

座って頬杖をついている魔王と目が合った。


 「あ……」


 「お、マ〜さん、帰ってたの?」


 「……………ああ、先程な。

……下僕、廊下を磨いたのは貴様か?」


 「は、はいッ……」


 (もしかしてホコリ残ってたか⁉

だとしたらボコられる!)


 いきなり話を振られたこともあり緊張しながら魔王の言葉を待つ。


 「…………そうか」


 そう言うと魔王は口を閉じた。


 「え、ボコらないんですか?」


 「……何だそれは?…………お前かデューク」


 「ヒハハ、悪い悪い、脅しすぎたわ〜!」


 「嘘だったんですか⁉ヒドイですよ!」


 笑っているデューク……さんに詰め寄ると魔王が咳払いをした。


 「いや、嘘ではない。我の気分による」


 (ひでぇ⁉さすが魔王⁉)


 「でもマーさん〜、それ以上言わないって事は合格だったんだろ〜?」


 「…………そうなるな」


 「ヒハハハッ!やるじゃん、モトユウちゃん〜!」


 肩を組まれてまだ濡れている髪をガシガシとかき回された。魔王が呆れたように目を細める。


 「あと、下僕」

 

 「は、はい?」


 「この程度で済むと思うな」


 「え?」


 (どういう意味だ?)

 

 首を傾げているとデューク……さんが口を挟んだ。

 

 「まだコキ使ってやるから覚悟しとけって事だろ〜?」

 

 「…………ああ」


 「はい⁉」


 (マジかよ⁉)


 思わず声を上げると魔王から睨まれる。背筋が寒くなった。


 「ならば何故あの時我に乞いた?こうなる事ぐらい想像できただろう?……今から葬ってやろうか?」


 魔王が王座から立ち上がった。すると風が吹いていないのに赤髪やマントがなびき始める。


 (も、もしかして本気⁉武器も何もねぇんだけど⁉)


 冷や汗を浮かべながら後退していると後ろからため息が聞こえた。


 「マーさん、もう終わらせちゃうの〜?

 もうちょいしてからでも良くない?

案外面白いよ〜、モトユウちゃん」


 「…………随分お気に入りのようだな……」


 「おうよ〜。まだ初日だし、どう化けるかわからないのに潰すのはもったいないと思うぜ〜?」


 「………………………救われたな、下僕」


 魔王は目を閉じるとそのまま王座に腰かけた。背筋の寒さも嘘のようになくなる。

 

 (た、助かった。いや、助けられたのか……)


  デューク……さんの言葉がなかったら間違いなく「教会送り」にされていた。まだ日も浅いし俺が「教会送り」になっても魔王達に支障はない。俺がピンチになるだけだ。

 

 ホッとして息を吐き出すと首に腕を巻き付けられた。誰かは見なくてもわかる。


 「でも、モトユウちゃんも気をつけなよ〜?

 自分から頼んどいてあんな態度とったら誰だって不快になるぜ〜?」


 「す、すみません……」


 「自分の立場をよく考えな〜」


 そう言うとデューク……さんは俺から離れた。

指摘は最もで、少し調子に乗っていたと自分でも思う。


 (それに魔王はその気になればいつでも俺を「教会送り」にできる。でも俺はアリーシャ達を見捨てたんだから、ノコノコ町に戻れる訳がない!)


 「…………今日のところは失せろ、下僕」


 「はい。……すみませんでした……」


 謝罪の言葉を口にしてから自室に戻った。

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