神さまのコイビト 終

 おれの名前は神田織波かんだおりは






 れっきとした人間。身体は。



 何でかおれは神で、そうと知っていて、そうで『在る』だけ。



 何でって聞かれても、そうだから。理由なんて知らない。知らないものは知らない。そうだから。



 この世の全てと同じ。






 ただ、そうだから。



 だから、そうで『在る』だけ。






「ふごっ………」






 イエティが暴れる。



 暴れるけど、多分すごい力なんだろうけど、おれには通用しない。ビクともしない。



 暴れて、でも無駄だってすぐ気づいて、ユキオはきゅうって感じでおとなしくなった。






 神であり、人間であるおれは、普通にな。



 普通に。






「条件がひとつだけ」

『………やっぱり胡散臭いんじゃねぇか』

「簡単だから大丈夫」

『………何』






 今日からおれのコイビトになること。






 普通に、恋だってするんだよ。






 そしておれは、ユキオの毛に覆われたデカい口に、思いっきり背伸びをして、キスをした。






『なっ………⁉︎』






 ユキオの嘆く声が気になってた。



 気になって気になって気になって。



 うるさいなあ、誰だよ何だよって思った時には落ちてた。恋に。ユキオに。






 その、あまりにも美しい魂の姿に。



 そして決まる。決める。






 ユキオはおれのコイビト。






 ぺろんって剥けるみたいにイエティの姿が消えて、出てきたのは人型の、本質の姿のユキオ。



 イエティの時とは違って小さくて華奢。






「さ、ユキオ。今からコイビトがヤることをフルコースでヤるぞ」

「はあ⁉︎ちょっ………ちょっと待てや‼︎って、え⁉︎」






 ユキオが自分の耳に届く自分の声に驚いているようだった。



 抱き締めてるおれを押して自分の手を見る。



 黄金色、ではなく、その目は黒に変わっていた。






 黒い目のユキオもいいな。



 いや、ユキオなら何でもいい。



 イエティだって。






「………ウソ、だろ」

「神は嘘などつかない」

「アンタ本当に神さまなの?」

「だからそうだと言ってる」

「………」






 胡散臭い。って、ユキオの声が聞こえる。



 そして自分の身体を触り出す。初めての自分の人型の身体を。






「裸だから見てるとエロいぞ」

「え?」






 ボソっと言ったら真っ白な肌の、何も着てない美しいユキオが、自分の身体を小さい手で撫でてるのが止まった。



 かあああって真っ赤になってるのがかわいい。






 おれはそっとそんなユキオを抱き寄せて、ぱちんと指を鳴らした。






 移動した先はおれの家。おれの部屋。



 ここに誰かを連れて来たのは初めてだ。






「なっ………⁉︎」

「さ、ユキオ。コイビトの営みに励むぞ」

「え⁉︎はあ⁉︎ちょっ………‼︎」






 何が何だか分からなくて驚くばかりのユキオのイエティの毛むくじゃらの顔ではなく。



 人型の美しい顔の唇に、おれは自分の唇を重ねた。






 説明は色々面倒だからな。そのうち分かるだろ。色々と。






 ………こうしておれに、人生?神生?最初で最後の、コイビトができたとさ。



 めでたしめでたし。






「俺に拒否権はねぇのか‼︎」

「ないよ。おれは神だからな」






 めでたしめでたし。






 おしまい

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