第13話
時々、少しだけセツに触れた。
布団に埋もれる俺に寄りかかるセツに、ごそごそと手を出して。
髪に、頬に、手に。
少し触れて、すぐに離す。
倫って間近で俺を見つめるセツを、抱き締めたかった。
キスしたかった。
押し倒して服を剥いて、白い肌に赤い跡を死ぬほどつけたかった。
出会ってまだ数日だけど。
キレイで健気で一途なセツに、心は。
心は、とっくに。とっくだ。
夜が明けていく。
窓の外が明るくなり始めてる。
白い雪が、キラキラしている。
帰れる、のに。
帰りたくない俺が、居る。
「………麓まで送って行くね」
外を見ていた俺に、静かにセツは言った。
「………」
セツと居たい。
連れて帰りたい。
それが無理なら、無理でも、時々会いたい。時々が無理なら、せめて半年に1回、1年に1回………。
ダメだ。
会ったら触れてしまう。会ったらどんどん好きになって、もっと触れたくなって、欲望のままにセツに触れて、抱いて、セツの身体を傷つけてしまう。
セツは泣いていた。
嗚咽もなく、静かにはらはらと涙を零していた。
泣くな、とは、言えなかった。
ごめん、とも、言えなかった。
何も言えず、何もできない自分が。
………すげぇ情けなかった。
俺の腹が鳴って、セツが朝飯を作って持ってきてくれた。
今日はフレンチトーストだった。
織波が治してくれた手にまた赤くなっているところを見つけて、やっぱり俺たちは一緒には居られないんだっていう現実を思い知る。
雪女って、なんだよ。
何でセツは雪女で、何で俺は人間で、何で触れられないんだよ。
セツの涙が止まらない。
なのに拭ってやることもできない。
はらはらと涙が白い頬を伝い続けた。
フレンチトーストはめちゃくちゃ美味かった。
セツが俺のスキーウェアを持って来てくれて、俺はそれに着替えた。
「倫、毛布も持ってね」
「毛布?」
「………うん。寒いから」
確かに外はまだ寒いだろうけれど、スキーウェアだし。
不思議に思いつつも、言われた通りにベッドの毛布を持った。
「外、行こう」
「………ん」
セツは何も言わない。
行かないで、とも。また来て、とも。
だから俺も何も言えない。
一緒に居たいとも。また来たい、とも。
セツについて部屋を出て、玄関でスキーブーツを履いた。
板もストックもあった。
セツが見つけて来てくれただろうそれを見て、俺まで泣きそうになった。
「倫、急ごう」
「え?」
「僕の身体が、もう長く持たない」
「持たない?」
「毛布貸して」
持たない?長く持たないって何だ?
聞いてもセツは答えなかった。
俺に板とストックを持つよう言って、それごと俺は毛布でぐるぐる巻きにされた。
言いようのない不安に、俺がぐるぐるする。
セツの涙が止まらないから、それは、余計で。
セツが玄関を開けた。
太陽に照らされる一面の雪があまりにも眩しくて、目を細めた。
「………危ないから、じっとしててね」
「え」
そして、ふわって抱えられて、俺は。
「ぬおおおおおおおおおっ………」
絶叫、した。
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