第10話
「一度会って、それからずっと、冬が来るのを待ってた。冬に倫が来るのを待ってたんだ」
俺は手袋ってだけで、それ以上思い出せなかった。
誰に渡したのか、渡した相手がどんなヤツだったのか。何も。
そしてセツも、詳しく話してくれることはなかった。
でも多分、そうだと思う。手袋を渡したのがセツだ。
「見てるだけでいいって、冬に倫が来てくれるだけでいいって思ってた。雪で遊ぶ倫が怪我をしないようにってそっと見てるだけでいいって、ずっと。だって倫は人で、僕は………」
セツが俯く。
俺も俯く。
「おかしいね。こうして会って話してしまったら、それだけでいいなんて、もう………」
セツが目を伏せて、自嘲気味に笑った。
そして、織波がキレイに直した手を見つめた。
抱き締めたい。
それは衝動。こみ上げる衝動。
抱き締めたい。セツを。この腕に。思いきり。
俺がスキー場でどんな無茶をしても大丈夫だったのは、もしかしてセツが居てくれたから?
なんて、思ったら。余計に。
俺がセツに惹かれるように、セツもきっと俺と同じなんだって、分かる。
だからセツはあんなに一生懸命に看病をしてくれてたんだって。
己を削る、みたいに。全くそれを厭わず。
でも、触れられない。
俺とセツじゃ、触れ合えない。
雪女と人間じゃ。
俺も毛布から出した手をじっと見つめた。
セツを文字通り傷つけることしかできない、俺の手。
分かってもツライ、お互いの気持ち。
だから、ただただ、黙った。
「倫」
「………ん?」
セツが、俺を呼んだ。
「ほんの少しでいいから、僕に触れてくれる?」
「………え?」
「少しぐらいなら大丈夫。ほら、織波も居るし。また治して貰えばいいから。ね?倫が帰ってしまう前に、倫のぬくもりを、僕は知りたい」
触れたい。
抱き締めたい。
確かに惹かれ合う心を、気持ちを、そうやって伝えあいたい。
「………でも」
「きっともう二度とこんな風に会えないから」
お願い。
セツが一歩、俺に近づいた。
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