六の花

みやぎ

第1話

 ………あったけぇ。

 

 

 

 

 

 空を見上げて、そう思った。

 

 

 

 

 

 桜こそまだ咲いてないけどもうすっかり春の空で、日差しで陽気で、あの日々が夢だったんじゃないかって、そんな気さえする。

 

 

 

 

 

 夢じゃ、ない。

 

 

 あれは決して夢なんかじゃない。

 

 

 身体が覚えてる。全部を覚えてる。心も覚えてる。

 

 

 

 

 

 目を閉じれば鮮やかによみがえる。

 

 

 

 

 

 って、そりゃそうだ。

 

 

 あれはほんの数日前までのことなんだ。

 

 

 

 

 

『忘れて、いいよ』

 

 

 

 

 

 儚い笑み。

 

 

 頬に触れる冷たい指と。

 

 

 ひんやりとしたキスがあの日々の最後の記憶。

 

 

 

 

 

 白。

 

 

 ホワイトアウト。

 

 

 雪。

 

 

 

 

 

『さよなら』

 

 

 

 

 

 小さく囁いて、笑って。

 

 

 俺の目の前で『彼』は消えた。

 

 

 

 

 

 白。白白白白。

 

 

 

 

 

 ただただ白が、俺の前に広がった。

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 そして、雪の季節は。

 

 

 

 

 

 

 ………終わったんだ。

 

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