星巡る竜と湖城の姫 ~星間兵装で異世界無双~
星住
プロローグ
静寂が支配する暗闇の中で、明滅する光が無数に浮き上がる。
空気が無いために音と言う概念から切り離された世界の中で、十二分に音が鳴り響く空間があった。
それは空気が存在している場所である。
『警告します。該当宙域から直ちに離脱してください。355秒後にシュワルツシルト半径の影響下に入ります』
警戒アラートが狭い空間で鳴り響くのは苦痛でしかない。
だが、計器類に囲まれたその中にいる人物は、逃げ出したくとも逃げられない状況にいた。
『警告します。該当空域から直ちに離脱してください。345秒後にシュワルツシルト半径の影響下に入ります』
「10秒ごとに報告するなディアイス! 報告は一分ごとで良い。それと全周波数の音源データを用意、あのくそったれに自滅すると警告しろ」
『了解いたしました。敵機コード・ブラックハウンド01に警告メッセージを送ります』
パイロットスーツに身を包んだ青年は、コックピット内でいらだちを隠せないように舌打ちした。
視覚野の先には、機体の外の映像がリアルタイムでMR機能で映っている。
目の前に広がるのは広大な宇宙空間と巨大すぎる建造物の姿があった。
はたから見れば、それは恒星規模のダイヤモンドのように見えるだろう。
それが内側に押し込まれるように圧壊していく様は、わたあめにお湯でも注ぐようなチープな光景であった。
「惑星弾頭射出装置とか馬鹿の発想だよな」
目の前の元宇宙要塞をげんなりした顔で見ながら青年は呆れたようなため息をついた。
すると視界内に白い光が明滅するのが見える。
『光子魚雷の射出を確認。接触まで3秒』
「全周パルスウェーブ発信。乱数回避運動カット。緊急スラスター右翼最大出力2秒後、グラビティ・フィールド最大展開」
青年はすぐさま神経シグナル回路で指示を飛ばす。
音声認識を遥かに上回るそれは、0.2ミリ秒で指示が送れる、最新のneuron・direct・link・system《ニューロン・ダイレクト・リンクシステム》による神経パルスによる機動制御機能に他ならない。
青年の乗る機体は突如現れた光の弾丸を急発進で回避しつつ、光信号による電波で光弾を爆発させた。
真空中に眩い光が膨れ上がる。
光と共に襲った衝撃波を機体全体に張り巡らせた重力力場で防ぎつつ、衝撃の勢いを利用してなるべく距離をとるようにスラスターに火を入れた。
離脱しようとする機体を追うように、黒い機体のメインジェネレーターに火が入る。
「此処でやり合ってどうする気だ! 死ぬきかあいつは! 再度警告信号を打て」
青年は歯軋りしながら機体を急発進させて、なるべく巨大建造物から離れる動きをとる。
しかし、それを逃さないように黒い機体から光の流弾が放たれる。
青年は仕方なく回避運動に入るが、左右に避けていては推進力が落ちるばかりだ。
『敵機よりオープンチャンネルで量子通信が届いています。応対しますかコマンダー?』
「繋げ!」
タイムリミット内にどう逃げるか考えながら回避運動を行っているせいで、脳の疲労からだんだんと苛立ちと焦燥感が湧き上がる。
「やってくれたなドラグーン4。貴様のせいで我々のS計画は頓挫だ。これで血みどろの全面戦争に突入するぞ!」
「はあ? ふざけるなよ。貴様等の計画とやらが成功した場合、此方の宙軍惑星や資源衛星などが壊滅して、戦争ではなく一方的な駆逐戦になるだけだろうが?」
怒鳴りあいだけでも火花が散りそうな勢いではあるが、青年は怒りを抑えて別の話を切り出した。
「兎に角。今は雑談してる場合じゃないだろう? 基幹惑星が縮退を始めてるのはそちらも把握している筈だ。このままじゃ重力力場に引き込まれて潰れるか、重力崩壊に巻き込まれて衝撃波で砕け散るか、どちらにしろこの宙域から離脱しないと死ぬぞ」
青年の主張を受けて、交信先の相手は笑いだした。
頭でもぶつけて狂ったのかと訝しむほどだ。
「此処で生き残れても、俺達はS計画の失敗の責任をとらされて軍事裁判で極刑だろうさ。せめて、貴様も道連れにせねば気がすまん」
敵パイロットの怨嗟の声が低く響く。
相手の腹は据わっているようだ。
『警告します。該当空域から直ちに離脱してください。195秒後にシュワルツシルト半径の影響下に入ります』
死のカウントダウンが無情に鳴り響く。
恒星規模の星が死ぬ時は、宇宙の一部を道ずれに新たな新生への道を辿る。
それはあたかも輪廻転生のようなものに置き換えて見えるが、そんな概念は彼等にはなかった。
ただ、周りの全てを呑み込む滅びが近付いて来ると言うイメージの方が強い。
「回線オフ」
青年は覚悟を決めたのか舌なめずりした。
「あの糞野郎を120秒で墜として離脱する。全武装完全解放。
『30%を切っています。惑星弾頭の核を破壊するために使用した、
「八方塞がりだな。まあ、足掻くだけ足掻くさ!」
青年はやけっぱち気味にそう叫ぶと、操縦桿に備えられているスロットルを絞る。
細かい出力制御は、思考制御ではなく感覚制御で行う。
機体制御のほとんどを脳で行っているため、少しでも疲労を減らすための補助機構だ。
こうして、ブラックホール化しつつある戦場で最後の悪あがきが開始された。
それは、重力に捕らわれた人間の、最後の悪あがきのようなものだった。
星巡る竜と湖城の姫 ~星間兵装で異世界無双~ 星住 @hoshizumi
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