魔術師

阿紋

「銀ちゃんはバンドとかやらないの」

 銀平の行きつけのジャズバーのマスターが

カクテルグラスをカウンターに置いた。

「音楽は好きなんだけどね」

「ピアノ弾けるんだよね」

「最初は無理やりおふくろに連れていかれて」

「塾に行きたくなかったからね」

「気がついたら避難場所みたいになっていたんだ」

 マスターは銀平のグラスのとなりにショートカクテルのグラスを置いた。

「銀ちゃん塾に行かなくても勉強できたし」

 銀平の幼なじみの風美はピンク色のカクテルに口をつける。

「そういえば、お店のほうはいいのかい」

「大阪からおじさんが来ててね、ちょっと居づらいんだ」

「おじさんてミハルちゃんのお父さん」風美が興味ありげに銀平を見ている。

 銀平のいとこのミハルはこの春短大を卒業することになっていた。

「ミハル逃げちゃったみたいで、昨日から帰ってこなくて」

「捜さなくていいの」

 ミハルの居場所の見当はついている。

 店内にはマイルスのソーサラーが流れていた。

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