第71話 狂気対策委員会

 流石に睡魔には勝てず、5、6時間目の授業はぶっ続けで寝て、終わりのホームルーム後に速攻で帰る準備をし、誰にも邪魔されないように気配を消して約30分後、私はリーシアとの集合場所、カフェに来ていた。

 まだリーシアーー愛佳は着いていなかった為、クラスメイトが紹介した飲み物を注文し、寛ぎの時間を謳歌していた。


 私が頼んだものはフローズン……フレッシュ?デビキュータという訳の分からない飲み物だ。ソフトクリームがピンクの液体の上に乗っかり、様々な凍った果物で彩られた見るからに甘そうな飲み物である。

 実際甘いのだが、冷たく液体の中に存在するオレンジ?の果肉がいい味を出していて、とても美味しい。名前は忘れたが、クラスメイトたちに感謝だ。



「おっ?真理……で合ってるよね?」



 何処かで聞いた事があるような優しい声色、端麗で見た者を魅了する可憐な顔面。

 最早、こちらから確認を取る必要性は皆無だろう。



「初めましてだ、愛佳」

「よぉかったー!それにしても真理はこっちでも綺麗だね。あのゲームでは顔の造形は変えられないから何となく予想はついてたけどさー、負けた気分」

「愛佳も十分整っていると思うがな。なんか頼むか?」

「お、頼む!何があるかなぁ」



 ルンルンとメニュー表を眺める愛佳に癒されながら、これから出会う人物たちと起こるであろう出来事に苦慮した。


*****


 カフェで楽しく会話と食事を嗜んだ後、私たちは電車に乗り、この国の中心である新宿へと向かった。


 ここ数十年の間に技術が世界各地で発展し、VRなどの科学技術の以外にも、建設やエネルギー資源の効率活用発展に医療、幾つかの分野同士の合成による新技術開発。発展を重ね、第二の産業革命と呼ばれるまで都市は近未来化している。

 故にこの電車も時速700kmを超え、超高速で大都市を駆け巡っている。ついでに言えば、操縦士は人間ではなく機械である。まあ、それでも事故は起こるが、年々低下している。

 この技術発展にはニャルラトホテプが沢山噛んでいるのだが、悪さはしていないのでこの際どうでもいい。



「ねえ、真理。【MCC】で気を付けなきゃならない事ってある?」

「……癖が強い奴らしか居ないからな、いちいち突っ込んでいると疲れるぞ。更に言えば、私みたいに日常では狂気を見せない、なんて事は一切しない愚者だからな、己の存在を如何に確立させて補強するかが必要だ」

「うわぁ、なんか予想付く。もしかしなくてもリズ……じゃなかった、真理はマシな方?」



 人の体に並々ならない興味を持つ検査官

 倫理が欠如した内容しか書かない小説家

 幻想に心を馳せる司祭焦がれた旧時なる憧憬

 知識欲を呑み欺騙塞ぐ込んだ補佐官汚泥の底

 唯生きて居時を駆けるだけの屍終えた死

 果物しか食さない変人野に咲く無色の太華

 戦狂いの現代の修羅血染めの巨人兵

 そして、

 自己愛に暮れた学生我の世界に巣食うモノ

 人を喰らう狂人たる私飢餓の狂獣

 以上が私が知っている東京に蔓延るニャルラトホテプ。その中で己が狂気を見せないのは私と愛佳以外居ない。


 ……もしかしなくても私はマシな方であったか。まあ、私が狂気深度は一番な為、一概にマシと片付けられる訳ではないがな。



「うおー、真理の感情構成がバグってる。ヤバイ奴らしかいないんだね。行きたくないんだけど」

「行かなければ、抹殺されるからな。黙って付いてこい。それにバグっているとは?」

「うーん、真理って表層では家族愛以外偽りの感情なんだけど、なんか浮き出てるんだよね、新しい本当の感情が。それに名称が読めないんだよね。何を思ってるの?」

「さぁ、知らん。……降りるぞ」

「ッお!待ってよ」



 駅から出てすぐの所に巨大なビルがある。そこの地下3階に狂気対策委員会がある。

 一応だが、このビルには国際組織、機関が連立して出来ている。故に外国人や著名な政治家や社長などが入っている。

 流石の愛佳もそれには驚きを隠せていなかった。


 先ずは受付にて身分証明書と会員証を見せ、エレベーターに乗り込む。

 もう何度も来ているので、簡単に終わった。愛佳の分も私がいる為か、余り詳細に検査などはせずに終了した。



「こんな緩くていいの?」

「ああ、私がいるからな」

「???」

「私たちがニャルラトホテプというのはここでは周知の事実だ。一般人ならば、狂人にわざわざ関わるような事はすると思うか?

 それにニャルラトホテプ対策の組織がここにあるんだぞ。何かしら暴れた時の対応策はあるだろう。ならば、知識を持たない彼らが見るよりもその道に見識を持つ者共に任せた方がいいだろう?」

「ほうほう。猛獣の駆除は素人よりもプロフェッショナルに任せた方がいいという事かな?」

「その認識で相違ない。

 ほら、着いたぞ。私から離れるなよ」



 私の後ろをポテポテと続く愛佳を見て、頬が緩むが、意図して引き締める。

 あそこは魔境。軽い気持ちで居ては狂気に喰われるだけだからな。


 カードキーを翳し、重厚ない近未来な扉が開く。

 そして、何故か白い煙が溢れ出す。何というか、ラスボスの居る場所に向かうような感じがする。……という事はアイツの仕業か?


















『にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな!

 にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな!』

『にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな!

 にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな!』



 ……はぁ。

 余りの出来事に愛佳は開いた口が塞がらない。流石に同情の念を覚えずにはいられない。



『Abyssus-D'AcoNrsus, ZEXOWE-AZATHOTH!

 NRRGO, IAA! NYAR-LATHOTEP! 』

『Abyssus-D'AcoNrsus, ZEXOWE-AZATHOTH!

 NRRGO, IAA! NYAR-LATHOTEP! 』



 正に不協和音。地獄でもこんな罰は下さないだろう。

 なんだ貴様ら、いつの間に母体に忠誠を誓うようになったんだ?狂気に呑まれたか?



『ふんぐるい むぐるうなふ

 くとぅぐあ ふぉまるはうと

 んがあ・ぐあ なふるたぐん

 いあ! くとぅぐあ!』



 ああ、よかった。嫌いだったか。私も母体は好かんからな、敵対しないようで安心した。



「ようこそ、Madness Countermeasures Committeeもとい【MCC】狂気対策委員会へ!!君も狂気の世界へDive inだ!!!」


「真理、帰っていいですか。ボク絶対入りたくない」

「駄目だ。来い、私だけだと入りたくない。二人なら大丈夫な筈だ!」

「何その、赤信号みんなで渡れば怖くない理論!!嫌だよ!」


「「「ハハハハハハハハハ!!!」」」



 カオスとしか言えない混沌空間が出来上がった。

 混沌を冠するニャルラトホテプの化身に相応しい始まりだった。もう二度と味わいたくないと私も愛佳も心の底から味わった瞬間だった。

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