土は恵みの神様
……あらゆる生命を生みだし、はぐくむ源。そして、死した生命が還るところ。
それは、命を産み育てる母であると同時に、時には大きな災害を引き起こすこともある……。
……一見ジメジメしていて地味だけれども、生命には必要不可欠な元素、"土"。
それは、豊かな栄養を含み、花や草や木など植物に恵みを与える。
そこから成長した植物はさらに、鳥や羊や牛など動物に恵みを与える。
人間も古くから、土を材料に道具や家を作ってきた。
例えば、土器は調理に、皿は食事に、土偶はお祈りに使われた。
人びとにとって、土とそこから生まれた自然の恵みは、日々の生活に欠かせなかった。
栄養豊富な野菜が食べられるのも、肉を焼いて温かく食べられるのも、みな、土のおかげに他ならないのだ。
小さな農村に住む、一人の少年は、家が貧しいために、隣町の鉱山へ出稼ぎに行くことになった。
村を出てまず、水分が少なく乾燥した砂の大地を越え、次に、水分が多いジメジメした泥の大地を越えた。
こうして遠い道のりを経て、少年は火山の麓の隣町へたどり着いた。
少年は鉱山で、汗をかきながら懸命に働いた。
彼が黙々とツルハシを振るっていた中、突然、どこからか重々しい地響きが聴こえ、大きな振動が伝わってきた。
少年は急いで、鉱山から逃げた。
「巨大地震だ!」
周囲の建物は次々と崩れ始め、大パニックの人びとは一斉に避難した。
やがて地震は治るが、今度は、鉱山のある火山が大噴火を起こした。
赤い溶岩が流れる火山を、人びとは怯えながら避難所から見守った。
「神様が怒り狂ったのだ!」
少年は一旦、村へ帰ることとなった。
道中、火山から噴き出した灰や岩石があちこちに散らばっているのを見て、少年は不安を覚える。
ようやく村へ到着した時、少年の不吉な予感は的中した。地元の村も同じく被害を受けていたのだ。
花や木は枯れ、家は壊れ、村人たちが今まで大切に育ててきた野菜も火山灰を被ってしまっていた。平和だった村が無残に変わり果てた光景を見て、少年は思わず涙を呑んだ。
その後、亡くなった家畜や村人は土に埋められ、生存者全員で葬式が行われた。残った村人たちは犠牲者へ追悼しつつ、また感謝の気持ちも示した。
「神様。この人たちに命を与えてくださり、ありがとうございます」
「亡くなった人たちの分まで、しっかり生きていきましょう」
犠牲者の亡骸は、徐々に土へ吸収されていき、その養分が新たな命を養っていくのだった。
それから長い時間をかけて復興が順調に進み、村も隣町も以前とほぼ同じ状態に戻った。
そんなある日、隣町で新たな鉱山が開発された。そこには高価な宝石や珍しい鉱石が大量に埋まっていた。少年はその新鉱山で働くことが決まった。
少年が新しい職場に就いてから、初めての給料日のこと。
従業員の日頃の頑張りに感謝を込めて、なんと雇い主が、多額の給料を支払ってくれた。雇い主曰く、採れた鉱物がたくさん売れるのであまりに景気が良いらしい。
「給料が上がったのも、神様のおかげだね」
高い給料がもらえて大喜びの少年は夕方の帰り道に、街の有名な温泉で仕事の疲れを癒した。町の人の話によれば、この温泉は、鉱山付近の火山の熱によってできたという。
「温泉に入れるのも、神様のおかげだね」
数週間ぶりに村へ帰り、少年は多額の給料を地元の人びとに分け与えてあげた。すると、人びとは嬉しそうに少年へ言った。
「あなたがいない間、こんなにいっぱい野菜が取れたの!」
村人たち曰く、火山灰を肥料に加工して畑へ撒いたら、栄養満点な野菜が、しかもたくさん収穫できたのだという。
その夜、村では豊作を祝い、一晩中祭りが開かれた。村の人びとはみんな、野菜の料理を美味しくいただいた。
「美味しい野菜が食べられるのも、神様のおかげだね!」
神様とは、もちろん、"土"のことだった。
おわり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます