子猫と子供のいない夫婦

 子供のいない夫婦がいた。

 夫婦は子供を望んでいたが、なかなか子宝に恵まれないでいた。


 寒い風の吹く夜、夫婦が帰り道を歩いていたときのことだった。


「ちょっと待って」


 妻は夫を引きとめ、道端のほうを指差す。道端には、小さな子猫が一匹、うずくまり横たわっていた。


「こんな寒い中で、ひとりでいて、この子かわいそう」

「それなら、僕たちが面倒を見てあげようよ」


 心配する妻に、夫はそう声をかけた。


 夫婦は空腹の子猫を家へ連れ帰り、美味しい焼き魚を食べさせてあげた。

 子猫は魚にかぶりつくと、もりもりと全部食べてしまった。子猫は長い間、何も飲み食いしていなかったのだ。


「まぁ、可愛い」

「うん、とてもうれしそうな顔してたね」


 夫婦は子猫を、まるで本物の子供のように可愛がり、大事に面倒を見てあげたのだった。


 ところが、わずか数日後にして、子猫は助かることなく弱って死んでしまう。

 温かく優しい夫婦の家の、穏やかな空気の中で……。


 雲の上の世界で、子猫は目覚めた。

 子猫の周りには魂たちが集まっていた。みんなはうれしそうな様子で、子猫に伝えた。


「おめでとう。きみは、来世で人間に転生できるんだって」

「どんな家に生まれたいか、もう決まった?」


 子猫は忘れられなかった。あの夫婦のぬくもりを、思いやりを。


 物心ついた頃からすでに、子猫はひとりぼっちだった。家族も友達もいない。誰も助けてくれなかった。だから、寒い夜に凍えながら、ひとりで生きるしかなかった。

 そんな中、あの夫婦だけは手を差し伸べてくれた。美味しい魚を食べさせてくれた。本物の子供のように見守ってくれた。


「ボクは、あの夫婦に恩返しがしたい。だから、あの夫婦の元へ生まれたい」


 それから数年後、子供のいなかった夫婦は無事に赤ちゃんを授かったという。



おわり

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