ありふれた事件

 



 本当にひどい話と言うのはこういうことを言うのだと思う。



「……み、皆さんの中に、一カ月前のこの場所で起きた轢き逃げ事件についてご存じの方はいませんかー? ご協力をお願いしますっ、どんな情報でも良いんです。どうか私に何か知っていることを教えてくださいー!」



 ちょっと心が読める年頃の女子高生佐取燐香は、貴重な休日を使い、街中でビラ配りと言う名の情報収集に勤しんでいた。


 朝っぱらからこんなめんどくさいことを言っているのは他ならない私自身だ。

 本当はアルバイトでもしようとしていた貴重な休みの日。

 大概の人がゆっくりとする筈の朝早くから、私は自作したビラを持って、実際に事故のあった現場近くの人通りの多い場所でビラ配りを行っている。


 誰とは言わないが、あれだけ「手伝ってくれ、なんでもする」なんて聞こえの良いこと言っておいて、私が地道なビラ配りを提案すれば明日は仕事があるからと、私一人に押し付ける大人が世の中にはいることを純粋な子供達はよく覚えておいてほしい。

 正直、異能の能力アピールを神楽坂さんにする本来の目的から見ると割に合わない気がしてきた。いや、昨日一日で解決できるだろうと思っていた私も悪いのだが……。


 ともかく、今は神楽坂さんと言う大人がおらず、見るからに子供の私がせっせとこんなことをやっていれば、暇を持て余したお節介焼きさんは勝手に寄ってくる。

 やれ、「何をしてるの?」「親御さんはどこにいるの?」「飴ちゃんいる?」などと様々。


 ……大半が小さな子供に接するような態度なのは気になるが、買い物袋を提げたおばさんや通勤途中のサラリーマン、大学生くらいの若者に、井戸端会議をしていた年寄りだったりと結構多い。


 残念ながら今のところそうやって私の身を案じて寄ってきた人達は誰も事件について知っている人はいなかった。

 ほとんどが私の事情や安全を心配しての、純粋な善意で話しかけてきた人達。

 気持ちはありがたいのだが、別にやむにやまれる事情なんてないし、逆に心配を掛けていることが心苦しかったりする。


 で、そんな風に時間を過ごしていれば、昼頃の私の手持ちには手作りビラ以外にもお節介焼きさん達から貰ったお菓子や飲み物などがずらりと並んでいる状態となってしまった。

 有益な情報は無し、ただし食料は沢山確保完了。

 本末転倒とはこのことだろうか。



「うう……全然情報無いですし、あんまり大きなことを言うべきじゃなかったです……。」



 懸念と好奇心、あるいは少しの下心。

 そんな感情を持った人ばかりが声を掛けてくるせいで、この場所での地道な情報収集の効率さえ考え直しはじめる。


 地味に暖かくなり始めたこの時期に道路の隅でビラ配りするのはそれ相応の体力が消費される。

 私の体力なんて穴の開いたバケツと同じようなものだから基準になんて出来ないだろうがつらいものはつらい。



「す、少し休憩を……」



 ビラを配り始めて二時間と少し、朝早くからしていたビラ配りに結構早めの昼休憩に入る。

 項垂れる様に近くの公園にあるベンチに腰掛け、持ってきていた水筒に口を付けつつ、周りに並べたお菓子に惹かれて近付いてきたチビ達にお菓子や飲み物を消費させる。

 いや、毒とか入っていないのは分かっているが、知らない人に貰ったものとか私は口にしたくないのでこの何も考えてなさそうなチビ達の存在は正直ありがたい。


 それにもう少しで身体測定があることだし、体重の増減には気を配らないといけない。


 遅れて来た親御さん達に群れと化していたチビ達を押し付けて、もう一度ビラ配り作業に入ろうと腰を上げたところで、懐の携帯電話が震えた。

 神楽坂さんからのメールだ。



『送信者:神楽坂おじさん

 件名:ひき逃げ事件解決

 内容:かなり疑いの強い被疑者が見つかった。もしまだビラ配りをしているなら切り上げてくれ。無駄足させた借りはまた次の週末にでも』


「……へ、へえ。解決……ですか」



 言葉にしてみれば陳腐なものだ。これだけあくせくと働いて、終わってしまえばほんの2文字で片付いてしまう。


 どんな風に話が進展して未解決だった事件が解決したのかは分からない……が、被害者が不安を抱えたまま過ごす日々が終わった訳なので、きっとこれ以上の結果はないだろう。

 犯人も捕まって、警察の隠蔽と言う疑いも晴れて、被害者の心も晴天のように晴れ渡る。


 良かった良かったこれにてこの問題は終わり……なんて、到底許せなかった。



「ふ……ふふ、この私が無駄骨を折る……? そんなの許しません……この事件は絶対に別の犯人がいます……絶対に、警察が隠蔽しているんですぅ……!」



 でないと、私のせっせと作ったビラも、早起きしてお父さんが出社するよりも早く家事を始めたことも、この2時間アホみたいにビラを配ったことも、全部無駄だったことになりかねない。

 そんなことは、そんなことは絶対に許されない。



「っっ――――だ、誰か、この事故について知っている人はいませんか!? す、少しでも、どんな情報でも良いんですっ! あ、そこのお綺麗なお姉さんっ、なにか……あ、知らない? じゃあ、知っている可能性がある知人とかは――――」



 休憩なんてしてられない。

 ここからは私の持てる全てを注ぎ込んで、真犯人の解明に全力を尽くしてやるのだ。

 ついさっきまで近くにいた親子が逃げる様に離れていくのを横目に、私は抱えたビラの束を撒き散らしに走り出した。





 ‐1‐





「…………佐取の奴、家に帰っただろうな。流石に補導されてくるあの子は見たくないぞ」



 出署して、いつも通り新しく出てきた問題を解決しようとデスクに座ってから間もなく、あの子と調べ始めた事件の犯人が見つかったとの情報が回ってきた。

 なんでも犯人は以前捕まえた誘拐事件の関係者だ。

 裏社会の仕事になんて関わっていれば余罪なんて色々と出てくるだろうし、そこは別段不思議でもないし、事故の証拠などを消す方法も、長い間裏社会で生きてきた連中ならいくらでも知っているだろう。

 証拠も出てきて、証言とも一致する。役満、犯人確定だ。

 だからこの事件の捜査はこれで終わり、署内で行われていた捜査の担当していた者達も順に撤収を始めている。



「ま、ありきたりな終わり方だろう。犯人はすでに檻の中にいました。ここまでスムーズに事が運んでくれれば世話はねえ」



 交通課に配属されてもう結構経つ。

 だから似たような事件の終わり方はいくつか経験していた。

 何の疑いも、何の不自然さもないほど正確に、事故の処理は淡々と進んでいる。


 ――――まるで、どうすれば疑われずに警察が処理するのか知っている者が糸を引いているかのように。



(俺の勘違いならいい。勘違いであるならそれが何よりだ……しかし――――)



 見えない力で証拠が掻き消されたと思う程の、長年事件を間近で見てきた神楽坂が異能を持っている者が関わっているのではないかと疑う程のこの事故が、本当にこんなありきたりな終わり方をするのだろうか?


『――――結構そういう後ろ暗い事情を見たことがありますもんね』


 なんて、昨日言われた彼女からの言葉のせいかそんな事ばかり考えてしまうのだ。

 疑念が墨汁でできた染みのように、胸の中に広がっていくのを何とか無視しようとして、神楽坂は失敗する。

 思考がどうしても、悪い方へと転がって行ってしまう。

 もしも、もしもこれが警察が真実を隠蔽しようとしているのなら。



「せんぱーい☆ 休憩長くないですかぁ? あ、隣座りますね!」



 きゃるるんと擬音が付きそうな声色で声を掛けてきたやかましい新人は、飲み物片手に休憩していた神楽坂の隣に当然のように座った。

 うるさい奴が来たと、神楽坂が空き缶を握りつぶすのも構わず、飛禅飛鳥(ひぜん あすか)はいつも通りの口調で話しかけてくる。



「さっきは驚いちゃいましたねー。交通事故関係の捜査は私達の担当の筈なのに、いきなり上から犯人は捕まえた、証拠も揃っている、ですもんね。いやー、まいったなぁ。仕事する手間が省けちゃいました☆」

「……ああそうかい。仕事が減ってよかったな」

「またまたぁ、思ってもいないことをー」



 仕事とは無関係のことばかり話されるのかと思いきや、神楽坂が考えていたことと同じことをこの女は話し始めた。

 仕事減った、ラッキー☆。で終わるほどこの女の頭はすっからかんではないらしい。



「嫌な扱いですよねー。まともな鑑定も、照会もしてくれないのに、捜査は一方的に終わらせてくるなんて、どう考えたって嘗めてるとしか思えませんもんね、私達のことを☆」

「実際そうなんだろう。と言うか、こんな署の休憩室でそんな愚痴をこぼすな。誰に聞かれてるか分からないぞ」

「あはっ、先輩やっさしいー。でも大丈夫ですよ、周囲に人影はないことを確認してからここに来てますしぃ、なによりそういうの気にする人達は今別のことに必死ですからぁ☆」

「……別のこと?」

「えー、分かりませんかぁ? あれって先輩の差し金じゃないんですかぁ?」

「俺が、何を差し向けるってんだ。良いからとっとと話せ」

「嫌でーす☆ どうせすぐ分かりますよー」

「…………」



 いちいち癪に障る、なんて青筋を立てる神楽坂の額に、今度は黄色のお手玉を押し付ける。



「そうカッカしないで下さい。ほら、黄色信号です。周囲を確認せずに飛び出すのは危険ですよ」



 以前のシャリシャリとした感触ではなく、もっと固いものが中に入れられているような硬質な触感がある。

 口調は先ほどの生ぬるいものではなく、どこか鋭利さを持ち、怒りのままに問い詰めるのは憚られた。



「お前……はぁ、お前なぁ。お前は面白いかもしれないが、こっちは訳わかんなくて腹立つんだ。そういう態度を他の奴に向けるなよ。敵を作るばっかりだからな」

「あはっ、私がこういう態度を取るのは神楽坂先輩にだけですよ」

「てめぇ……」



 嘘つけ、と思ったが、口には出さない。

 なんだかんだコイツは頭が回る、口げんかになったら勝てる気がしなかった。



「……んー、でもそっかぁ。あれは違うのかぁ。じゃあ、先輩は別にそういう事件を追ってるわけじゃないのかぁ」

「ああ? 何を言ってんだお前?」

「別にー。なんでもないですよー」

「はぁ? 何不機嫌になってんだ、不機嫌になりたいのは俺の方だぞ、おい」



 グリグリと飛鳥の頭頂部に拳を押し付けて力を籠めれば、痛いです痛いです、なんて言いながらと逃れようとする。

 本当に口の減らない後輩だ。

 こいつを面食いの藤堂の奴に指導を任せていたらまともに指導されないだろうし、これからは自分も積極的に指導に協力していこうかと考える。



「あ、そういえば先輩」

「あ?」



 ふと、思い出したように鞄を漁る飛鳥が首の長いトカゲの様なぬいぐるみを取り出した。



「じゃーん、ネッシーのぬいぐるみ! ほら、この前作ってきますねって言ってたじゃないですかぁ。頑張って作ってきちゃいました☆ 凄いですよね? 欲しいですよね? じゃあ、しょうがないからあげちゃいます! どうぞー☆」

「あ、ああ。ありがとう……」



 口撃のラッシュに気圧された神楽坂は、押し付けられたぬいぐるみを思わず受け取ってしまう。


 自画自賛するだけあって、渡されたネッシーのぬいぐるみは精巧だ。

 縫い目もしっかりしているし、目などのワンポイントもバランス良く違和感を感じない。

 押し付けられるようにして手渡されたぬいぐるみを、どうしたものかと眺め、それでもせっかく作ってくれたものだと少しうれしく思う。



「……なんだろうな、別にお前の世話をしたつもりもないのにこんなものを貰って、少し罪悪感があるな。だが、素直に嬉しいよ。ありがとな」

「えへへー。まあまあ、これからいい関係を築きましょうっていう証にですよ☆」

「ああ、そうだな。これからは俺も藤堂の奴に任せきりにせずに、ビシバシお前に指導を入れていくよ」

「えへへへ……へ? え、まって、それは予想外。ごめんなさい、そんな指導はされたくないっていうか。今だけでも手一杯っていうか……」

「なーに、任せておけ。俺は本庁でもそれなりに、若い奴らをビシバシと指導してたこともあるんだ。臨時講師として警察学校にも呼ばれたこともあるしな。教えるのは得意だぞ、結構厳しいとは言われるがな。ははは」

「あ、あっれー? あ、あのあのあの、やっぱりぬいぐるみを返してもらうことって……」

「言っておくが……嘗めた態度をとっていたお前のことを、ぬいぐるみが無くとも熱烈に指導してやろうとは思っていたからな。覚悟しておけよ」

「…………あ、これはやばいやつですね☆」



 大丈夫だ、こんなに肝の据わった奴はちょっとやそっとじゃ挫けない。

 経験でそんなことは分っているのだ。


 神楽坂は笑顔で誤魔化そうとしている飛鳥の頭をぐしゃぐしゃと掻き回しながら笑った。

「さて、そろそろ仕事に戻るか」と髪がぼさぼさになって涙目になった飛鳥を置いて腰を上げたところで、やけに入り口方向が騒がしいことに気が付いた。



「なんだ、やけに騒がしいな。何かの事件の犯人でも逮捕したのか?」

「……えーと、これはたぶんあれですよ。未成年の補導っていうか、なんというか……」

「は? 補導だと?」



 なんで未成年の補導程度でそんな騒がしくなるのかと訝しげに玄関方向へと見やれば、どこか見覚えのある背丈の少女が署内でも中々悪名高いそこそこ高い階級を持つ奴らに連れられていた。


 見覚えがあると言うか、ビラ配りするとか言っていた佐取燐香だった。



「…………えっ、嘘だろっ!?」



 当初の不安が寸分の狂いもなく的中していたことに愕然とする。



「あー、やっぱり引っ立てられたかー。未許可だったんですねぇ、あの子。通勤時に見かけたんで、そんな申請出している人いたかと思っていたらやっぱりこうなりましたか」



 公共道路でのビラ配り。

 許可を取らないと一応犯罪にあたる。



「……しまった。必要だったなそんな許可。言うの忘れてたぞおいっ……!」

「やっぱり先輩のお知合いですか? 助け船出しに行った方が良いんじゃないですか。ほら、初めて補導されたのか、顔が煤けてますよあの子」

「ちょっ、係長に少し戻るのが遅れると言っておいてくれっ!」

「はいはーい、いってらっしゃいです☆」



 ガタイの良いゴリラ系に囲まれた少女は捨てられた子犬の様な顔で、きょろきょろと周りを見回していて。

 神楽坂は傷の治りきっていない体を酷使して、全力疾走した。





 ‐2‐





 取調室と言うと聞こえは悪いが、要するに事情を聴く場所として使用される。

 どうしてそうなったのか、その事象が起きた前後の話、そんなことを軽く聞くときも使われるこの部屋は、一般人からするとあまり居心地がいい部屋であるとは言えないものだ。

 特に人生経験の少ない、女子高生程度であれば不安でいっぱいになるだろう。

 現に目の前の少女も、普段の落ち着きでは考えられないほど不安を覚え、しょげ返っている。



「わ、私、どうなるんですか? も、もしかして、学校に連絡がいって、退学になったりなんて……」

「い、いや、そんなことはないぞ! 君は別に悪意を持ってやったわけじゃなくて、ちょっとした擦れ違いからいけないことをしてしまっただけなんだ。だから、反省の色が見れればそんな大きな問題になんてならないからっ! 安心してくれ!!」

「う、ううう……」

「あー、その……だな。正直、済まないと思ってはいるんだが……形だけはやるぞ。ビラ配りに許可が必要だとは知らなかったんだな?」

「……知りませんでした……」

「うん、そうだよな。普通の学生がそんなこと知るはずないもんな、うん」



 普段の態度は何処へ行ったのか。

 見るからに弱弱しく落ち込んでいる協力者の少女にやりにくさを感じてしまう。


 手早く必要事項の記載を済ませ、形だけの取り調べを終わらせていくが、こんなものはやりたくないのが本心だ。

 だが、補導したゴリラ系……いや、階級だけはある頭空っぽ集団に無理を言って取り調べを変わってもらったのだ、せめて形だけでもやらなくては外聞が悪い。

 燐香に対しては非常に申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、神楽坂は内心で土下座しながら黙々と作業を進める。


 明らかに悪意があった訳ではない、そんな燐香の様子に外から様子を窺っていた者達も拍子抜けしたように去っていく。

 その様子をチラリと確認して、神楽坂はさっさと聞き取りを切り上げに入る。



「……大体、聞きたいことは終わったな。よし、反省したならいいんだ。次からは気を付けてくれ」

「はい……」



 スンスンと鼻を鳴らす燐香の姿が痛々しく、居た堪れなくなっていく。


 随分大人びた子だと感じていたから精神面では何も心配はいらないだろうと考えていたが、その認識は改める必要がありそうだった。

 少し精神が大人びていたって、警察に補導されれば不安にもなる。

 それが、かなりの進学校に通っている優等生となればなおさらだ。


 何か温かい飲み物でも飲めば落ち着くかと考え、神楽坂がお茶を汲みに動いたところで、俯いて憔悴としている様子の燐香が口を開く。



「静かに聞いてください神楽坂さん。私、犯人と会いました」

「……なんだって?」



 憔悴としてるにしてはやけに芯の通った声が神楽坂の耳に届いた。

 黙って聞いてくださいと言った燐香の声は絶妙に小さく、近くにいる神楽坂だけに届いている。

 俯いた顔に掛かる髪が邪魔で燐香の表情すら正面にいる神楽坂ですら窺うことは出来ない。

 彼女の口が動いているのすら周りから判別できないことを思えば、彼女の話を理解しているのは神楽坂だけだ。



「軽薄そうな男、若い男でした。大学生くらいで、ビラを配っていた私に声を掛けてきたそいつは、私が誘いに乗らないと分かった途端に私のビラをゴミでも見るような目で見て、踏み捨てていきました。そのあとすぐにここの警察の人が大勢来て、私を連行していきましたので警察と深いつながりを持った人物です」

「……間違いないのか?」

「間違いありません」



 弱弱しいように見える姿とは裏腹に、小さく吐き出される言葉はあまりに強い。

 髪の隙間から覗く燐香の目は、死んだ魚を思わせる普段通りのものだ。

 これまでの態度が全て演技なら、こいつは役者の才能もあるだろう。



「事故の発生から今日まで、事故処理を終えるまで犯人は自宅に軟禁されていたようです。ほとんど証拠も残っていない状態。けれど、今犯人扱いされてる身代わりが事故を起こしたと言う証拠を出すために、本当に事故を起こした車は出してくるはずです。流石に、状況に合わない要素が出てきたら疑いを持たれてしまいますから」

「……俺はどうすればいい?」

「いくら証拠を隠滅しようとしたところで、過去にあったことは変わりません。事故を起こしたのはたった一人です。真実を覆い隠そうとしたところで、絶対にどこかでボロがでる筈です。私達は明確な証拠を掴む必要があります」

「出来るのか……そんなことが、本当に?」

「絶対に出来ます。だって――――」



 髪に作られた影の奥で、少女の口は弧を描いた。



「――――この事件に、超常的な力は何も関わっていないから」



 神楽坂はただ口を噤んだ。



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